第12話 道中、そして到着。

「よし、もう少し歩けばカザーナに着くよ。」


「うんっ、たのしみ。見たいしききたい。しりたいっ。」


「そうだね!色んな事を一緒に見たり聞いたり、知れたらいいねっ。」


「うんうん。まずはトーヤのことっ。」


「あっ、そうだね。そういえばまだ話の途中だったんだ。」


「うん、トーヤがなんであそこにいたのか、しりたい。」


「うん、わかった。えっとね?」


「うん、うん。」




あの時の事を思い出します。


(襲われる形にはなってしまったけど、逆にフィノと会えたから良かった。・・・本当に。)




「カザーナの街へ、トトスへ向かってる時にね。あ、馬車でね。」


「うん。」


「実は、道中に怪我をした初心者の採取者と討伐者の二人組が居たんだ。」


「さいしゅしゃ?とうばつしゃ?・・・あと、ケガはだいじょうぶだったの?」


「採取者と討伐者っていうのは、冒険者の見習いらしいんだ。僕も詳しくは知らないんだけど。」


「うんうんっ。・・・ケガは?」


「うん、足に怪我をしてたんだけど、そこまで大きな怪我ではなかったみたい。」


「そっか・・・よかった。でも、いたいの、辛い。」


「そうだよね。僕も痛いのは嫌だよ。えっと、男女の二人組だったんだけどね。森にある薬草の採取場所で複数の跳ね角ウサギに襲われたらしくて、それで怪我をしたみたいで。」


「ツノのあるウサギ?」


「うん。跳ねて頭のツノで頭突きしてくるウサギだね。角の先が丸いから刺さったりはしないんだけど、防具がないまま当たるととても痛いらしいんだ。」


「何回か頭突きをすると目を回して動かなくなるらしくって、ちょっと変わったウサギらしいよ。」


「えぇ・・・なんだかまぬけかも。」


「一匹だけだとね。複数だとすぐに目を回さないように交代交代で頭突きしてくるらしくって、結構厄介らしいんだ。」


「わ、あたまいい。まぬけじゃなかった・・・っ。」


「ねっ。僕もそう思う。」


「うんっ。」




フィノは興味深そうに何度も頷いています。


知りたがりになったフィノを微笑ましく思いながら僕も思い出しながら話します。




「2匹に同時に襲われたらしいんだけど、足につけてた防具が何度も頭突きされてる内にひび割れてきて、壊れてしまったみたいで。」


「た、たいへんっ。ってことは、頭突きが当たっちゃったんだ・・・。」


「うん、そう。ただ、その時にウサギが目を回して、相手が一匹づつ戦えるようになったから、倒せはしたんだけど。歩くのが大変になって・・・。」


「歩けなくなっちゃったの?」


「うん、女の子の採取者さんに肩を貸してもらいながら何とかカザーナへ続く道に出たらしいんだけど、疲れて座り込んでいたんだ。」


「森、すごく歩きづらいもんね・・・。わたしも背のたかい草がにがて。」


「うん、僕も歩きづらかったなぁ・・・あのまま他の魔獣に襲われたら危なかっただろうから、怖かったと思う。・・・フィノはまだ背が低いから、森には何が潜んでいるかわからないし、怖いよね。」


「うん。わたしも、ひとりの森、すごくこわかった・・・。」


「そうだよね、よしよし・・・。」


「んぅ・・・。」




魔獣は問答無用で人を襲ってくるので少人数での外での行動は気を付けるように言われてます。


(僕も森ウルフから逃げてた時、死ぬかと思った・・・フィノ、本当にありがとうね。)


森ウルフは平原ウルフと違い、森では常に障害物を避けながら獲物を追う為、頭が良くて器用なのだそうです。あの状況は本当に危なかったと言えます。




「えっと・・・トーヤはばしゃにのるのをみならいさんと変わったの?」


「うん。二人とも疲れ果てていたし、街までそこそこ距離もあったから、変わりましょうか?って。」


「トーヤやさしいっ。でも、今度はトーヤがあぶなかったんじゃ・・・あった時、おおかみ、いたし・・・。」


「大きな街の周辺にはそんなに魔獣はいないんだ。増えたら討伐依頼が出たりするしね。魔獣も基本的には街の近くは嫌がっていて、居ても森の奥の方とかだって知ってたから、大丈夫かなって思ってたんだけど・・・。」


「おそわれちゃったんだ・・・。」


「うん・・・そう。」




(何で襲われたんだろう・・・?僕、何か森ウルフに襲われるような事をしたかなぁ・・・。)


森ウルフ自体、頭が良いから道側に来ないはずなのですが・・・森ウルフをおびき寄せるような何ががあったのでしょうか。




「うーん・・・・・・・・って、あああっ!!」


「!?ど、どうしたの、トーヤ・・・?」


「わかった。僕が襲われた理由・・・。」


「もりうるふに?」


「・・・うん。」


「どんなりゆう?」


「えっとね・・・町から町への道沿いってね、野営用のスペースがあったりするんだけどね。」


「やえい、夜をすごすことだよね?」


「うん。フィノ、正解。」


「えへへ。」




可愛いっ、僕の嫁っ。




「襲われた理由ね、たぶん、おそらくそうなんじゃないかと思うんだけど・・・。」


「うん、なにがあったの?」


「僕、野営中にね。」


「うん。」


「その・・・高山牛の特製甘辛ダレの串焼きを作ってて・・・。」


「わっ、おいしそうっ・・・!」


「・・・その匂いで来たのかも。」


「トーヤのごはん、ちょうおいしいから、食べたかったんだね・・・。・・・わたしも、たべたい。」


「超って。ふふ、今度作ってあげるね。はぁー・・・というか、僕馬鹿だったなぁ・・・。狼なんて鼻がきくからそりゃ食べにくるよね。」


「おおかみの方になげたらおそわれなかったかも・・・おぎょうぎわるいけど。」


「食べ終わった後だったんだぁ。」


「あぅ。」




蓋を開けてみればとても下らない事で気が抜けます。


でもまぁ、この事が無ければフィノと会えませんでしたし、フィノもどうなって居たかわからないのでとても良かったと思えます。




「そういえば、フィノはお肉好きだよね。エルフだからお肉苦手かなって。」


「うん?たべるよ。わたし、おにく、すき。まいにちたべたい。」


「あははは、一杯食べてたもんね。」


「うんっ!トーヤのごはん、おいしくてあったかくて・・・ちょうすき!」


「あははは、超って。」


「だいすきじゃ足りないから、ちょうすき。」


「でもあれ?僕の事は大好きって言ってたから・・・ごはんより下?」


「むぅーーっ!いじわる、言わないでっ。トーヤのがもっともっと、すきっ!!」


「ごめんごめんっ。僕もフィノが超超好きだから許してっ。」


「むぅ・・・・・・、ゆるす。」


「あははは、ありがと。って、あっ!」


「どうしたの?」


「カザーナの街が見えてきたよ!もう少しで着くね。」




道の向こうにカザーナを囲う、石作りの高い壁が見えてきます。


街を守る壁は軍隊トロールのこん棒の一撃をも止めると言われ、周辺の街では随一の守りと言われているそうです。


様々な品を国内外へ届ける商人達が集まる商人の街、カザーナは大事な役割を持っているので守りも堅牢になったと聞きました。




「わ、わ、ほんとうだ!おっきい門っ!すっごい!!!」


「うん、大きな町だからね。僕もこうして来るのは初めてだから楽しみだなぁ。」


「ねぇ、あの門の上のいたになにかかいてある・・・!あれは?もじ??」


「あ、あれは共友語の文字だね。」


「おー・・・エルフのとちがうんだね・・・。ぜんぜんよめないー。」


「エルフの文字は僕も知らないから、互いに教え合うとかも楽しそうだね。」


「わ、わ!それいいっ。わたしもトーヤにおしえたいっ、おしえてほしいーっ。」


「うん、楽しみがまた一つ増えちゃったね。」


「うんっ、たのしみたのしみっ。ありがと、トーヤっ!」




歩く度に門が近づいてきます。


門の大きさをが横にある関所を小さく見せます。


関所の入り口から長い列が伸びており、門の中の一時発着場へ馬車が入っていきます。


僕はフィノと隣り合って、列の最終日に並びます。


(父さんは、怒るかな・・・。商人の勉強をするためにカザーナへ来たのに、その自分が本当は商人になる事を望んでいるのかわからないなんて・・・。)


少しづつ、鼓動が大きくなります。


隠そうとしていた不安が少しづつ、堅く鋭く、痛みを伴って心を重くしていきます。


フィノと結婚をした事、これからフィノを里に送り届けてその後の事を考えたい事、父さんの考えていた未来を否定する可能性がある事、父さんの仕事仲間を裏切ってしまう事。


(もし、許してもらえなかったら。・・・むしろ、許してもらえない気がする。)




「トーヤ。」


「え?」


「トーヤ?どうかした?・・・何かしんぱいごと?・・・わたし、いっしょにかんがえるよ、ひとりじゃないよ。」


「・・・うん。」




不安でも、辛くても、悲しくても、隣にフィノが居てくれる。


確かな怖さは無くならなくて。


けれど、フィノが居る。


そう思えば少しづつ不安が和らいで行く気がします。




「・・・ありがと。ちょっと、不安だったんだ。」


「・・・ぎゅーする?」


「ここではちょっと恥ずかしいかな。でも、すっごく楽になった。ありがとうね、フィノ。」


「それならよかった。・・・わたし、も、ちょっとはずかしかったし・・・。」


「うん・・・。僕、頑張るよ。」


「うんっ、わたしも、がんばる。」




少しづつ街へと飲み込まれてゆく人を見ながら、握った手に感じるフィノの温もりが僕の心を包みました。

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