第1話 君との一冬へ
「あー、彼氏欲しいなー」
隣を歩く
「それアンタ前も言ってなかった?」
私は
「必須条件その一、車持ってる大学生でスタッドレスはいてる車」
私たちが住む一山市は山と出ているように標高の高い山に囲まれている。冬という時にはスパイクを履いて登校する者もいて、この県にしては住む人が多いので北に海誠女子そして南に共学の一山高校という分配になっている。
ここで分かるのは北に住んでいる男子はわざわざ毎朝バスに乗って通学する羽目になるのだ。そいつらを尻目に私たちは歩いて登校する。
「あのさ、男子の方が楽じゃね?」
そういういらない発見をする生徒もいる。
「彼氏、彼氏、彼氏」
「彼氏と何がしたいの」
「映画鑑賞」
「そんなの立花動画ってやってるじゃない」
「違うの。そういうさ、一週間に一回作品を変える映画館じゃなくて、広くてでかくてうわーって感じの。隣の県に行くようなやつ」
要は隣の県に行きたいだけである。
「今日は?」
「はいはい交換留学生ね。学年代表だよ私、それくらいは知ってるわよ」
どこかの留学生が一人やってくる。その代わり三人ほどこっちから送り込む。学校のキャパシティの問題で向こうは広い敷地に大きい建物。
一方。海誠女子学園は丘の下の小さな校舎、入試は近くの公立より高い。入学生のレベルが均一でかつ男子がいないから、変なことをする生徒もいないだろうとのことで親の意向で入学する生徒も多数いる。
「名前は?」
「サーシャちゃん」
「ふぅん、そう」
サーシャとの一冬の物語がここで始まるなんて誰が想像しただろうか。
山の一つ向こうからやってくる生徒の為の寮に住み込むらしい。
「よくやるよ。こんなところにさ、田舎だよ」
「古風だし、庭も城もあって高い展望台もあるよ」
「コンビニが少ない。作った方がいいよ、絶対に儲かるのにさ」
「予鈴鳴ってる」
「げ、ホントだ。いくぞ」
まだ紅葉がきれいで、秋と言える世界だった。
私たちは小さいこの町の世界しか知らない。明里みたいに外に出たいと思わないし、今いるこの世界が私をここから離さないでいる。
交換留学生なんて正直いらない。気にかけている時間がもったいないし、高校生は何かと忙しい。
「それでは学年代表の高山明里さんと副代表の角川藍さんでサーシャさんのお世話をしてください。
「よろしく、お願、しま、す」
金色のサラサラした髪を持つ目の色が青い女の子だった。妖精がいたらこんなふうだったかもしれない。
「私は明里でそっちは藍」
中等部では最初こそお友達もいたが、訓練した言葉を思うように出さずにそのうちクラスの風景になった。担任から指名されたサーシャ係がサポートするだけの存在。
見かねた担任がサーシャ係をすると内申を上げてやるとまで言ったそうだ。それに色目を使い、サーシャに話しかけるクラスメイトは増えたらしい。
それはクラスでの事、あくまでそこだけ。寮ではご飯を食べる以外に生徒に会わない。どう話しても初めましてから始まるので、寮の生徒も面倒くさいところはある。
交換留学生を受け入れる国際課としては頭を悩ます事態だ。
そこで高等部で今のところ暇な私たちに白羽の矢が刺さった。くじ引きで決まった代表の明里は上手く逃げるだろうし、私が対応するのか。
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