業の果て
北極星
序
筑前国、大友方の高橋紹運が籠もる岩屋城を囲む島津の兵が続々と城内へと入り込み、屍となった味方の兵たちを踏み荒らしていく。山頂に築かれたその城は確実に防ぐという存在意義を失い、いよいよ本丸だけが残された。
(やはり三万の兵に我らでは勝機は見えなかったか)
紹運は仕方ないと肩をすくめる。
櫓にてその様子を見た後、本丸の最奥にある部屋へと入る。
唯一置かれている机の上には紙と筆の他に資料や地図など必要最低限のものしかない。
支城故にあまり使用することもなかったが、改めると殺風景で良く言えば質素を重んじる武人らしい部屋だと思う。
主である宗麟が見ればもう少し飾れば良いと言うだろうが、あまりそういうのは得意ではない。
武士として敵の血を浴び続け、いくつもの傷を負ってきた。だが、体とも別れの時を迎える。
紹運は膝を着き、部屋の出入り口の方に深々と礼をする。
主力の大半を息子に託し、僅かな手勢で死を覚悟した籠城戦。分かりきっていた結末とはいえ、このような戦に付き合わせた将兵たちには申し訳なくも思ってしまう。だが、おかげで最後に素晴らしい戦場に立てた。
主を守るため、数万の兵を相手に数百の兵で半月も守りきったのだ。これが後世に伝えられないようでは後世の者を呪う他ない。
主の命令のままに戦場を駆け抜け、何も面白みの無い生涯だったが、それは見つけようとしてこなかった紹運自身の責任かもしれない。
それの見返りか、味方の兵がほとんど最期まで徹底的に抗い、討たれて、その屍を四散させている。結果として自分の最期の見せ場である切腹もままならないことになるとは思わなかった。
「本来ならば解釈は欲しいところだが……」
紹運今さら詮無きことだと頭を振る。
味方の兵が誰も近くにいない。独り言は誰かに聞かれることもなかった。
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