第15話 戦車隊出動
ヴァルキリー全部隊に出動命令が下された。
「初陣だ。各員、異常はないか?」
戦車の砲塔から半身を晒したサラはすでに乗車している部下達に声を掛ける。
発動機がドロドロと音を立てる中、車長の命を受けた運転手が計器類を確認する。
サラの下でメアリも同様に計器を確認してから、「異常なし」と告げる。
「よし、前進!」
その掛け声に合わせて、メアリはアクセルを踏み込んだ。
金属のキャタピラが石畳を削るように走り出す。
戦車に乗り込んだ誰もが緊張している。皆、初めての戦闘である。
そして、この鉄の棺桶のような戦車を誰も信用などしてなかった。
門が開かれ、戦車が次々と街へと出て行く。
すでに市民の姿は無い。皆、家屋などに避難しているのであろう。
誰も居なくなった街中を突き進む戦車。
砲塔内に入ったサラは砲塔に設けられた小窓から周囲を見渡す。
突如として、車体に何かが当たり、火花が散る。
「二時の方角から攻撃!撃て!」
サラは砲塔を左右に動かすハンドルを回す。
ガラガラと歯車が嚙み合いながら砲塔が回る。主砲の照準を発砲を続ける者達に向ける。
サラは安全装置を解除した。そして、引き金を絞る。
ドドドと機関砲が唸る。
10ミリ機関砲弾は遅い連射速度ながら、圧倒的な威力を見せる。
銃を持った男達が隠れた馬車さえも一撃で粉砕する程である。
戦車に対して、攻撃を仕掛けただろう男達は戦車隊の一連射で皆殺しにされた。
戦車隊の初陣は圧倒的な火力を見せつける事になった。
戦車隊が街へと出た事で戦局は決した。
銃弾を物ともせずに向かって来る戦車に暴徒達は翻弄される。
物陰に隠れようと、10ミリ機関砲弾はそれを貫き、戦車はどんな物でも踏み潰し、前進を続けた。
他のヴァルキリーも戦車を盾にして、敵を駆逐していく。
宮殿周辺の暴徒は1時間も掛からずに鎮圧されてしまった。
人的被害はヴァルキリー13名が負傷した程度であった。
戦車は1両が発動機から発火して、放棄された。
暴徒鎮圧が予想以上に速やかに終わった為、民主化革命の応援の為に国境を越えたグラッカラス共和国軍は焦った。本来ならば、混乱に乗じて、王都まで攻め入るつもりであったからだ。だが、王国軍は即座にグラッカラス共和国軍の進行を食い止めるために態勢を整えたのであった。
大義を失った共和国軍は王国軍と激しい戦闘に突入するも、撤退を余儀なくされる。共和国軍側からはあくまでも民主化革命を支援する目的の為の移動であったと説明され、王国側は激しく糾弾したが、王国側もこれ以上の戦闘は国力の消耗に繋がるとして、休戦が結ばれた。
初陣を飾った戦車隊は改めて、宮殿広場に整列して、アニエス王女から労を労われた。だが、彼女達はこの功労が今後、彼女達をより厳しい状況に放り込む事になる事をまだ、知らない。
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