第11話 不穏分子
民主化と言う言葉は着実に民衆の間に広まっている。そもそも、識字率の低い国が多くある中で、民主化という概念をどこまで民衆が理解しているかは不明である。大抵の者は現状の生活にある不満が解消される程度の理解しかしていない。だが、革命を望む者にすれば、その程度の理解で良かった。民衆が愚かであればあるほど、彼らが動かすには都合が良いのだから。
フレーデン王国にもそのような考えを有する者達が静かに活動をしている。革命家と呼べば聞こえは良い。ただのゴロツキの集団である。
彼らは密かに『夜明けの旅団』なる組織を結成している。
その代表者はホラルドと言う男だ。
乱暴者だが、少々、頭の切れる男。表向きは商人。裏では密造酒や売春斡旋などを生業にしている。
そんな彼だが、今の社会に不満を持つ者達を深く知る存在でもある。
王国は確かに政治、経済は安定しているとされる。
だが、長年の貴族支配は着実に貴族と民の間に亀裂を生じさせている。
被支配者階層の民衆に不満が高まっているのは確かだった。
それは何も支配の頂点に立つ王が悪いと言う話じゃない。
だが、結果的に高まった不満が向かう先はそこだ。
ホラルドがどこまで革命を本気に考えているか解らない。
だが、着実に彼の元には現体制に反抗的な人々が集まっていた。そして、彼らを支援する手が伸びていた。
当然ながら、警察や諜報組織が彼らに注意しないわけがない。
ホラルドの裏稼業に目をつけて、幾度かホラルドを逮捕した。
そして、裏稼業を潰し、資産も没収した。
それでホラルドを潰し、組織を潰せると思ったのだ。
だが、それはホラルドに本格的な革命家への道を歩かせる事になった。
三度目の釈放後、ホラルドは行方不明となった。
その後、王国内の革命運動が活発になり出した。
王国内で活動するフェアリーは最重要課題として、革命活動を調査している。
彼女達は民衆の中に紛れ込み、ホラルドの行方や組織の実態を探る。
街頭で花を売る少女、エミリ。
彼女は街中を歩き回り、とある倉庫を見付ける。
裏路地にある古臭い倉庫。
無論、闇雲に見付けた場所じゃない。
彼女は街頭で花を売りながら、彼方此方を歩き、情報を集めて回っていた。
何気ない噂話でも、多く話を聞いた中で確度を高めていく。
この古臭い倉庫は不審者が出入りすると噂になっている。
不審者が単なるゴロツキではなく、夜明けの旅団のメンバーであると確認された。そうなれば、ここがアジトであり、ホラルドが居る可能性があるのだ。
あまり花売りが近付く場所じゃない。それに気付いた男が彼女に声を掛ける。
「よう、嬢ちゃん。何をしている?」
屈強な体躯をした男だった。エミリは彼を眺めた。
前から見た感じでは武器の所持は無い。筋肉質ではあるが、格闘の訓練を受けた感じの筋肉の付き方じゃない。
「あの・・・花は要りませんか?」
「いらねぇよ」
「そうですか。では」
エミリはその場から立ち去ろうとした。だが、男はエミリに近付いてくる。
「悪いが、帰れると思うなよ」
男は腰から短剣を抜いた。何を思ったのか、エミリを捕まえようと考えたようだ。
エミリはそれを察した。
「それはあなたの事ですよ」
そう言った時、花を入れた籠から両刃のナイフを取り出す。それを見た瞬間、男は逆上して、エミリに飛び掛かった。エミリは籠を男に投げつける。彼はその籠を左手で防ぐ。その瞬間、エミリは彼に向けて、刃を突き出す。
「痛っあああ」
エミリの刃は男の右腕を裂いた。その痛みに耐えかねて、彼は短剣を落とす。
エミリの剣裁きは男を圧倒する。男の身体は彼方此方、裂かれ、血塗れになって、僅か数分で彼の戦意は失われた。
「殺しはしない。一緒に来てもらう」
エミリは彼の首筋に刃を当てながら、彼を路地裏へと連れて行く。
路地裏には数人の少女が居た。彼女達は手にナイフや拳銃を握っている。
一人の少女が男を連れて来たエミリに話し掛ける。
「手助けは必要なかったわね」
「えぇ、こんな小物程度」
エミリは笑って返す。
「車を回している。そいつの手を縛り、猿轡と目隠しをしろ」
リーダー格っぽい少女がそう告げると他の少女達は手際よく、男を拘束した。
「アジトの情報が手に入ったらすぐに急襲する。それまで、ここで監視をしろ」
エミリにそう告げると少女達は男を連れて、やって来た車に乗り込んだ。
その後、拉致した男を拷問して得られた情報からそこが夜明けの旅団のアジトである事が分かった。警察に通報がなされ、警察の襲撃部隊が突入した。アジトに残された武器や資料は押収されたが、ホラルドが居た形跡はなかった。
男の取り調べから分かった事はアジトは国中に多数存在し、彼すらも知らないアジトが多く存在するとされる点。ホラルドの所在は知らないが、ホラルドが指示を出している事が判明した。
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