第12話 始まりの始まる物語
成田空港。
そこに二人の男がラウンジでのんびりコーヒーを飲んでいた。
一人はタンクトップの上にアロハシャツを羽織り、短パンで足にはビーチサンダルを履いている。
南国へ行く気満々のいでたち。
ローテ―ブルを挟み英字新聞を読んでいる男は黒のスリーピースに革靴で、その全てが上質の素材で出来ている。
英国紳士のようだ。
「……それで老師は認めたんですか?」
「本気の戦いをしたら、正式なOKがもらえたよ」
英国紳士、石動肇はテーブルに置いたコーヒーを飲む。
腕にしたシンプルな男性用の腕時計を見て、正行が春平の下で汗まみれで修行をしている真っ最中だろう。
軽食を食べ終えた正行は、再び眠ってしまい、自分の家に到着したとき高校生に戻っていた。
春平も確認して、催眠術が解けたことが分かった。
ただ、多少覚えている部分もあるらしく石動に対して「ご無礼をしました。すいませんでした」と頭を下げた。
石動は「友達が出来て嬉しかったよ」と答えた。
四人は改めて居間に行き、そこで秋水が春平の跡を継ぐことを聞かされた。
「あの人は何と言っている?」
春平が問う。
「あの人?」
石動が首をかしげる。
正行が答えを言おうとしたが秋水が息子の口をふさいだ。
「なぁに、俺たちと付き合っている限り、何時か会うさ」
秋水は意味深な言葉を石動に投げた。
「まあ、俺たちの大口スポンサーかな?」
春平も楽しそうに言う。
「それで、これからの話をしよう。まず、俺は特にないし、可能なら早めに継いでもらいたいけど正行は高校の大会に向けて練習しているからしばらくは無理だ」
「へぇ、正行君は大会に出るんだ……スポーツできるんだね」
石動の視線に正行は首を振る。
「いえ、スポーツの大会じゃありません。それに、俺のことは正行でいいですよ」
「スポーツじゃない? ……演劇?」
「あー、それも違う。そもそも、こいつは幼稚園のお芝居で気絶するぐらいあがり症だぞ」
面白そうに秋水が言う。
正行は苦笑する。
「陶芸だよ」
あっさり、答えを言ったのは春平だ。
「陶芸?」
渋い。
いや、高校生がなぜ陶芸?
「元々、何かをいじるのが好きな子供だったんだ。で、面白半分で子供のころから粘土遊びの延長線で一緒に湯飲みを作ったら実に味わいのあるものが出来てね」
春平は経緯を説明した。
「俺たちのほうは、あと最低でも半年の猶予は欲しいな」
秋水の言葉に石動が反応する。
「俺たち?」
それを無視して一枚の紙を出す。
秋水以外の三人は卓の上に乗った紙を見た。
「『地球温暖化による非常任理事国理事会』?」
「という名の、外交合戦だね」
参加国は日本などだが、見慣れない国もいくつか存在する。
「『ツンドラ王国』?」
「最近開国した北欧の国だな。今回の会議ではオブザーバーという立場での参加。今回の会議が自分たちの国の売込みだ。車、農産物、IT技術……何でもござれだ」
秋水は続ける。
「当然、敵対する国もある。そこで参加するツンドラ王国の王族を守るのが俺たちの任務だ」
「そういうのは警察、公安のほうがいいんじゃないの?」
正行の素直な疑問に石動が肩をすくめる。
「例え、公安の人間で強いのを総出しても、本当の戦場を知らない人間は知っている奴に殺される」
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