【短編】チート冒険者が勇者パーティーに戻って来いと言われて断ったけど、多分「追放」とか「もう遅い」とかそういう問題じゃない話

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】チート冒険者が勇者パーティーに戻って来いと言われて断ったけど、多分「追放」とか「もう遅い」とかそういう問題じゃない話






「断る」

「うっ……!」







 冒険者の集まる酒場のなかで、俺は、目の前の男の頼みを拒否した。






「俺はもう金輪際、お前たちのパーティーに戻る気はない。悪いなシド」

「そ、そんな……なぁ頼むよアレン……ちょっとちょっかい出した連中が魔王軍の幹部集団でさぁ、俺のパーティー、今ピンチなんだよ……イレーナ達も人質にとられてるんだ。精霊使いとして立派になったお前さえ戻って来てくれれば、なんとかなりそうなんだ、な? もちろん報酬はうんと弾むから! お前をリーダーにしてやってもいいぜ」

「金や地位の問題じゃない」




 今言われた通り、精霊使いの俺はかつて、目の前の勇者・シドがリーダーを務めるパーティーに所属していた。

 故郷の村の幼馴染同士で結成されたパーティーは最初こそうまくいっていた。しかし、パーティーとしての冒険に慣れてきた一年前、ある悲劇が俺を襲った。





「お前たちが過去に俺を追放したこと、忘れたとでも思ってるのか?」





 一年前、シドたち四人は俺のことを役立たずとののしって追放したのだ。

 同レベルの精霊使いに比べて、高レベル、レアスキルの精霊をろくに召喚できず、直近の三カ月ほどは荷物持ちとしてしか役に立っていなかったことは理由として正当だったかもしれない。

 だが、助言や警告などを一切せずに、いきなり追放を言い渡されたことで、あの時の俺は深く傷ついた。



 追放を言い渡された時感じた屈辱は、いまでも癒えていない。

 例え追放された直後に、思わぬ縁によってSSS級の精霊を召喚できる能力という、目の前の勇者すら遥かにしのぐ力を身に付けたとしても。

 心から慕い合えるメンバーに囲まれ、シドのパーティーにいた頃よりも遥かに充実した冒険者生活を過ごしているとしても。





「なぁ、会わなかったから知らないんだろうけどさ、お前が精霊使いとして強くなって、元気でやってるって聞いて、俺すっげー嬉しかったんだぜ……? 幼馴染じゃねーか、また一緒に楽しくやろうぜ……」

「いくら言われても、俺は答えを変える気はない。いいか? パーティーに戻って来いと言われたってな……もう遅いんだよ!」




 俺は静かに、だが語気だけを荒げて言った。

 こいつに与えられた屈辱の過去を、反芻するかのように。




「わかったら、とっとと出てってくれ。もう会いたくない」

「うぅっ………………くそぅくそぅくそぅ…………………勇者として今まで正々堂々と冒険して来たのにッッ……!!!」




 絶望して膝から崩れ落ちるシドを見下ろす俺。

 はたから見れば俺が悪者のように見えるかもしれないが、こいつが過去に俺にしたことを思えば当然の報いだ。

 そうだ、俺は一年前。

 今いるこの店と似たような酒場の、同じようなテーブル席で。

 この男が率いるパーティーから追放されたんだ……














◆   一年前   ◆














「お前はパーティー追放だ、アレン」


 一瞬、言葉の意味を飲み込めなかった。


「な、何を言ってるんだ……シド?」










 勇者パーティーの冒険者である俺、アレンは、パーティーのリーダーたる勇者・シドに言葉の意味を問いただした。










「言葉の通りだ。お前をこれ以上、我々のパーティーの一員として認めることはできない」





 テーブルで、俺の向かいに座す勇者・シドは、固い決意が見える口調でそう告げた。




 彼の背後には、同じパーティーメンバーの一員である三人の冒険者が直立して、俺を蔑んだ視線で見据えている。




 

「精霊使いと言いながら、ハイレベルの精霊を何も召喚できない。よく振り返ってみろ、ここ最近のお前、荷物持ちしかやってねぇじゃねぇか。役立たずなんだよ、要するに」





 辟易したように言ってくるシドに、俺は何も言い返せなかった。




 シドのその言葉と彼らの見下したような目線に俺は押し黙るばかりだったが、それでも俺は追放という現実を受け入れられなかった。






「な……なぁ、追放なんてあんまりじゃないか。考え直してくれよ……」

「ッはぁー……」




 店を出ようとして席を立った俺を、シドはふかい溜め息をついた。




「一度決めたもんは変えられねぇんだよ。わかるかァ……?」





 発言しながら彼の態勢が見せる【構え】に、俺は一瞬目を疑った。

 え、何してるんだこいつ。

 こんな街中の店で、嘘だろ?

 ダンジョンでも、モンスター頻出エリアでも、魔王軍の領土でもないのに。








「【シャイニングスラッシャアアアアアァァァァァァァァァァ】!!!!!!!!!!!!!!!!!」








 向かいの席にいた俺に、上級勇者としての最強必殺技を放つシド。

 サイクロプスなどの巨大モンスターですら、一撃で倒せる必殺技だ。



 レベルで言えば彼の半分もない俺がまともに食らえば、どうなるかはあきらかだ。

 俺の体は三テーブル分を挟んだ店の内壁へと吹っ飛んだ。



 ドガッッッ!!!



「ガハッッッッ!!!!」



 ドサッッッ!!!



 勇者職の最強技【シャイニングスラッシャー】を食らった痛みと、壁に激突した痛みと、床に落ちた痛みが、間髪入れずに連打のように体をうちのめした。




「な、な、な、何するんだ……!?」

「何するだってェ……?」


 声を出すのもやっとの俺が力を振り絞って出した問いに、シドは答えた。



「決まってんだろォ……? 使えねェ役立たずに、【役割】を与えてやろうとしてんじゃねーかよ……。 俺たちパーティーの栄光ある未来の【生贄】としてなアアアァァァァァ!!!!!」

「グアァァァ!!!!」




 勇者職だけが持てる名剣を使用した連続斬りに、俺の胴体はなんども傷つけられる。




「クカカカカ……。冥土の土産に教えてやるよォ。昨晩俺たちで話し合ってなァ、 【パーティーで最弱のメンバーを、追放ついでにストレス発散のサンドバッグにしよう】って決まったわけさァ。もっとも荷物持ちのお前は、その時買い出しに行っててその場にいなかったわけだがなァ!!!!!!!!」

「うわああああああああああ!!!!!」






 状況を整理できないままに、シドに思いのままに斬られ続ける俺。






「足が……足がアアアアアァァァァァァァ!!!!」

 すぐには気づけなかったが、【シャイニングスラッシャー】をもろに食らった衝撃で、右足がありえない方向に折れ曲がっている。

 曲がった部位からは、がはみ出ていた。





「あらあら」

 そんな俺を憐れむ声と共にこちらに歩み寄ってくる、ローブを纏い、三角帽子をかぶった金髪の女性の姿があった。





「痛かったわね……辛いわよね」

 彼女は、魔術師職のイレーナ。

 彼女はモンスターを攻撃する黒魔法だけでなく、傷ついた味方を回復させる白魔法も持っている。

 俺自身、傷ついた時に何度も彼女の白魔法で救われた。

 もしかしたら、今ズタズタに傷ついた俺のことも救ってくれるのだろうか。




 だがそんな期待は、あっという間に打ち砕かれた。



 

「雑魚め……【ファイヤーボール】」





 聞き違いとしか思えない言葉を聞いた、気のせいか、と思ったのも束の間。





「下半身から白いモン出してんじゃねェ変態野郎ォォォォォォォォ!!!!」

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」





 今までの彼女とは思えないような罵声と共に、飛び出た骨の部分に、魔法で生成された炎の玉をグリグリと押し付けられた。





「立たせるものから白いものだして、それを女にいじくられて悲鳴上げるなんて……この救いの無い変態がァ!!!!!!」




 弓矢による傷を受けた冒険者は、止血のために敢えて炎魔法で傷口を焼くことがある。

 だがイレーナによる責め苦と共に押し付けられる炎はそのための温度も量も遥かに凌駕した勢いで、脚は更に修復不能なほどに滅茶苦茶に燃やされた。





 ヤバい。

 今の状況、どう考えてもヤバイ。

 に、逃げないと……逃げないと!




 

 ドスッ!ドスッ!ドスッ!

「ウッ!!!」





 這いずってでも出口へ向かおうとした俺の頬に、ズキッとする痛みが走る。

 目の前の壁を確認すると、顔からすぐの場所に、三本の矢が刺さっていた。

 鼻の頭から、かすり傷の血が流れていることもわかった。





「あ~ら残念……手が滑ってしまいましたわァ? ま、かすっただけだから許してくれますよね、アレン君? まぁ、その弓には毒を塗りつけておきましたけどねェ、クケケケケケケ」

「ど、どういうことだ……? 毒が塗ってあるって……ブフォ!!!」





 苦しみの余り、俺は吐血した。

 弓使い・フォルテの先ほどの発言通り、上級モンスターすら殺す猛毒が塗られていたようだ。

 100メイタンメートル先のスライムにすら弓矢を当てられる彼女が、俺に向けて矢を当てられなかったとは考えづらい。





「申し訳ありませんねアレン君……お詫びに次は心臓と脳天に穴空けてあげますよォ……ヒッヒッヒッヒ」





 そう言いながら、続けざまに弓を構えるフォルテ。

 ま、まずい、反撃しないと……あれ、剣がない。

 傷だけでも回復しないと……って、あれ? アイテム袋もない。





「探してるものはこれッスかァ? アレン先輩。生贄に剣もアイテムも必要ないっしょォ」





 俺の盛っていた剣と袋は、長身の男の両手に握られていた。

 彼は俺たちより二つほど年下の、盗賊職のラットだった。





「ところでシド先輩、こいつが邪魔して来たんだけど、どうするんッスかシド先輩?」

「か……帰ってくれ! 俺の店でこんなことをされちゃ困る!」





 ラットが胸倉をつかんでいたのは、この店の店主。

 俺へのリンチを流石に見変えて、割って入って来たのだろう。

 しかし。





「生贄の儀式の邪魔してんじゃあねエエエェェェェェェ!!!!!!!」

 シドの一閃の直後、赤黒い血飛沫が、店内に飛び散った。

 店主らしき男の首から噴き出た、即死を示す血だった。

 彼への仕打ちはそれでは終わらなかった。




「血だ血だァァァ!!! 儀式を祝う血をもっと噴き出せェェェ!!!!!!!!」




 既に動かなくなった店長の尊厳を更に傷つけるかのように、ラットは彼の身体をメッタ刺しにした。




「ひ……ひいいいぃぃぃぃぃ!!!!!」

 店の中で戸惑っていた冒険者たちが、一斉に逃げ出した。

 店主が斬り殺されたことで、自分たちも標的にされると思ったのだろう。




 しかし彼らも、出入り口のドアまでたどり着くことなく、バタバタと体ごと崩れ落ちていった。

 フォルテの射た毒矢に、背中を射られたのだ。




「ごめんなさいねェ、祭りには一人でも生贄が多い方が景気がいいでしょう? 【追放】という祭りの生贄にはねエェ…………ケケケケケケケケ」

 毒に苦しむ冒険者たちに、小悪魔のような下衆な笑みを浮かべるフォルテ。

 最早ここはただの酒場ではなく、地獄だった。






 ガチャン!!

 その地獄を、直視してしまった人間がいた。





「に、兄さん……?」

 運んでいた皿を全部割って、目の前の光景が理解できずに震えている少女がいた。

 出稼ぎでこの町へ来て、この店で働いていた俺の妹、マリアだった。




「ア、アア……て、店長ォ……。」

「ま……マリア!! 逃げろ!!!」

 恐怖におののくマリアを俺は裏口から逃がそうとした。

 だが、時すでに遅し。



「おっと逃がさないッスよぉ……妹のアンタにも生贄になってもらわなくっちゃ……ねェシド先輩」

「町の酒場の看板娘は、さぞ絶品だろうなァ!!!! ギャハハハハハ!!!!」

「イ……イヤアアアアアァァァァァァァ!!!」




 マリアを挟むように二人で両手首をつかみ、下卑た笑いをあげるシドとラット。

 自分の今後を想像したのか、狂ったように悲鳴を上げるマリア。




「こ……こんなことして、お前たちただで済むと思ってるのか……!」

「は? アレン君には関係ないでしょ、死ぬんだから」

「待ちなさい、フォルテ」

 弓を構えるフォルテを、イレーナが静止した。




「矢で殺すなんて地味すぎる。今私、鼻の穴を通して彼の頭の中に、時間差で発動する炎属性の魔法をかけておいたの。学のないあなたでも、トウモロコシの実を熱したら中の水分が水蒸気になって、膨張してはじける、ということは知っているわよね、アレン?」




 一瞬の間をおいて、俺はイレーナが何をしようとしたのかを察した。





「なるほどォ……流石イレーナ先輩。60%が水分で出来ている人間の体をトウモロコシの代わりにしたら、どんな愉快な光景になるんでしょうねエエエェェェェ……」

「「「ギャハハハハハハハハハハ!!!!!!!」」」





 自分の末路を察して絶句する俺と、対を成すように狂喜する三人。





「よォしお前らァ!!!」

 何かを決意したように、シドがパーティーメンバーに向けて叫んだ。




「景気づけだァ!!! アレンを屠ったついでにこの町ごと焼き払おうじゃねぇかァァァァァァァァァァ!!!!!」

「「「ィヨッシャアアアアアアアアア!!!!!!」」」

 シドの耳を疑う提案に、狂喜乱舞で応じるイレーナ、フォルテ、ラット。





「ジャマだジャマだァァァァァァ!!!!!」

 ドカッ!

 バキッ!

 冒険者たちの死体を蹴飛ばしながら、店だった家屋を後にするシドたち。






「イレーナは最上級の炎魔法で辺り一帯を火の海にしろォ!! フォルテは街行く男たちを全員射殺せェ!! ラットは短剣で女と子供の両目をくりぬいて肉奴隷にしろォ!!!」

「ま、待て……」

「祭りじゃ祭りじゃァァァ!!!!! この世は強きが弱きを贄に踊る祭りの花道じゃアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!! ギャーーーハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」







 そのシドの高笑いが聞こえてから後のことは、よく覚えていない。







 ただ人づてに、「その日、町中に轟音が鳴り響いた。音の中心には冒険者たちの死体と、跡形もなく無残に爆発した、元々人間の肉体を構成していたと思われる肉片。肉片が辺り一面に飛び散った場所には、爆発跡かのように煙が舞い上がっていた」とだけ聞いている。












◆   その一か月後   ◆











「もう、お身体は大丈夫の様ですね」




 あの日パーティーを追放された俺は、奇跡によって生き返った。

 目の前のマリア―――の姿をしたSSS級の精霊・ユリスがもたらした、奇跡によって。




「町と妹を守ってくださって、ありがとうございます」

「一万年町を見守っていたものとして、あの者たちの挙動が許せなかっただけですよ」




 俺が追放された時にいた町は歴史が古く、一万年もの歴史を持っていた。

 一万年前と言えば、人間と精霊が共に過ごしていた時代。

 この精霊・ユリスも、今この町に住む人間たちの祖先と、親友同然の関係を結んでいた。

 だが当時世界を蹂躙していた魔王軍から身を隠すために、ユリスは人間界から距離を置き、一万年の間町の時の流れを見守っていたのだと言う。


 だが一か月前、シドたちのあまりの蛮行を見るに見かねて、一万年ぶりに人間界に現れてマリアの身体にとりついて、町を救ってくれたのだ。



 俺の身体が爆発した直後、精霊・ユリスは恐怖のあまり放心状態になっていたマリアに憑依し、四属性の一つ、風属性の精霊術によって気圧を操った。

 気圧の変化で天候が変化し、辺りは雷すら鳴り響く大雨になった。

 大雨の中で町人の大勢が家屋へとこもる状況では、シドたちは家を焼き払うことも町民を殺すこともできなかった。

 いきなりの大雨にシドたちが戸惑っているうちに、マリアに憑依したユリスもシドの手を払いのけて逃走。

 シドたちは別の町へと退散し、町も、(体だけだが)妹も無傷に終わるという結末に終わった。




「マリアさんもあの人たちもただ日常を生きていただけ……勇者の名を騙って好き放題する者たちに滅ぼされるいわれなどありません。むしろ、彼女の精神を完全に回復させることができず、申し訳ありません」

「マリアのことなら、俺にも責任がある……俺のことで、あいつは巻き込まれたようなもんだから」




 ユリスは町を救っただけではない。

 彼女は禁断の精霊術である【時間遡行】を、店の中限定で、とはいえ、使ってくれた。 

 おかげで殺されたはずのあの店の店主も、客だった冒険者たちも、記憶操作術も使ったことで、自分が殺されたことなど全く知らずに、何食わぬ顔で今生きている。

 記憶操作術を拒否した、俺を除いては。





 


「一度死に直面したことで、あなたに本来存在していた精霊使いの素質は全て覚醒しました。私と同程度のクラスの精霊なら、召喚するのは容易なはずです」

「ありがとう。あなたに助けられて得たこの力で、俺は精霊使いとして自由に生きていきます。あいつの精神が回復するまで、マリアのこと、たのみます」

「承知しています。あなたが実直な方だったから、私も肉体を修復させ、マリアさんを助けたのです。その性格のまま冒険をしていれば、おのずと仲間は増えるでしょう」




 【時間遡行】の精霊術によって肉体を爆発前に戻されたものの、俺の精神はすぐには目覚めることはなかった。

 ユリスが言うには一か月間の間に目覚めなければ復活の望みはなかったらしいが、一か月後、期限ギリギリとはいえ無事に目覚めることができた。

 死ぬほどの出来事を体験したことで何かの枷が外れたのか、目覚めた俺の身体は、精霊使いとして完全に覚醒していた。

 覚醒直後に一度炎精霊の召喚を試してみたが、シドのような勇者が十人集まって戦っても余裕で勝てるようなSS級の精霊を呼ぶことができた。



 この力が幸いしてか、ユリスの言葉通り、俺はシドに再会するまでの11ヶ月間で、心から信頼し合える仲間たちとパーティーを組むことになる。





「ですが……一言、あなたに申し上げたいことがあります。あなたがかつて所属していた、シドという勇者が率いるパーティーですが……」

「えぇ、ここから出たら、すぐにあいつらを追いかけます」





 ユリスのその言葉に、俺の感情は、彼らへの怒りに染まり始めた。

 記憶操作術を拒否したのも、あいつらへの怒りを絶対に忘れないためだった。





「あなたが一番よくわかっているでしょうが、あの者たちはとにかく凶悪です、放っておいたら……」

「わかってます。何年かかっても、居場所を突き止めて追いかけます。俺が生きて、強い精霊使いになっていると知れば、あいつらの方から俺に接触して、掌を返すようにパーティーに戻れと言ってくるでしょう。そうなった時に俺は、言ってやるんです」






 話している間、俺はあいつらへの怒りを抑えかねていた。

 だがなんとか冷静になって、一か月前、一度死んだときに決断したことを、俺は紡いだ。

 次あいつらに再会するようなことがあれば、言おうとしていた、その言葉を。










「『お前らとはもうパーティーを組まない。戻って来いと言われてももう遅いからな』って」














「……え?」










「たとえ幼馴染とはいえ、あいつは俺のことを追放したんだ。今更戻ってこいだなんて言われても、もう遅いですよ」

「ちょっと、ちょっといいですか」

 話の腰を折るように、問いかけて来るユリス。






「あなた彼に何されましたっけ」

「追放されたんですけど」






「具体的には何されたんですっけ」

「必殺技を食らって、脚を折られて、その傷口を焼かれて、毒矢を射られて、アイテムも装備も全部奪われて、妹も誘拐されて、体を爆発させられたんですけど」

「で、彼らその後何しようとしてましたっけ」

「町ごと焼き払って、町人を皆殺しにしようとしたんですけど」






「で、生き返った後、どうするつもりですか」

「自由に生きていきます」

「彼らに対して、どうするつもりですか」

「彼らに会って、パーティーに戻って来いと言われた時に『もうお前とはパーティーを組まない。戻って来いと頼まれてももう遅い』って言ってやります」

「あの」











 なぜか戸惑ったような口調で、ユリスは一言言った。















「…………………………………………………………………そういう問題ちゃうやろ」

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