第90話 ネクロダンジョンでアイ スクリーム(3)
場所は変わって、九十層のセーフエリア。
そこには机を前にして座る二人。
今回は調理器具は出さず、机にはカクテルでよく使う透明なグラスが置かれ、その上に先程作ったバニラアイスが乗っている。
二人は手を合わせる。
「それでは、前口上はなしでいただきます」
「いただきます!!」
二人はスプーンを手に取り一口頬張る。
「うむ!! 美味である!!」
「……今回はエンタメに振った分。味をこだわってないからそれなりのアイスが出来上がったな。別に悪いわけじゃないが、生クリームの程よい甘さとバニラの風味がマッチしてると思――」
「はっはっはっ!! そんな固いこと言うな少年!! 食事中くらい明るく振舞おうではないか!!」
話を途中で遮り、バンバンとタヌポンの肩を叩くイケメン職員。
:体育会系っぽくて苦手ぇ……
:おい、傷害罪で訴えるぞぉ(巻舌)
:嫌な陽キャの見本市みたい
:珍しくタヌポン擁護のコメント多くて草
:何か……ノリが古い?
:昔の陽キャ感?
:前出たTさんの悪口はやめるんだ!
:Tさん流れ弾受けてて草
コメントを見たイケメン職員が自分の顎に手を当てる。
「ふむ、こういうノリは良くないのか、失礼した。なにぶんあまり人と関わることがない事務仕事が多く、こういったことは不慣れなのだ」
:しっかりと反省できて偉い
:ならば許そう
:っていうか事務方が何でここきたん?
:そもそもあの猛攻の中を耐えられるって何者?
「その疑問にお答えしよう。ダンジョン協会の職員は基本的にS級が多いのだが、その中でも一番強い職員ということで一戦を引いた我が駆り出されたのだ!! 下手な職員を連れて行けば巻き込まれ事故で死んでしまうからな!! 我も久し振りにダンジョンへ舞い戻って来た」
:なるほど
:納得の理由だった
:現場でちゃんと仕事する上司は良い上司
「だから!! そんなお茶目な一面もある我の嫁をドシドシ募集中!! 振るってご応募してくれたまえ!!」
:前言撤回
:ただの変人でした
:もうやだ~この人~(涙目)
タヌポンはカタンとスプーンを置く。
「話に割って入ってた申し訳ないが、結果を聞いてもいいか? ――俺はS級になれるのか?」
:そう言えばそうだった
:これS級試験やったわ
:だから少しタヌポンもピリピリしております
:ドキドキ♪
イケメン職員はニヤリと微笑む。
「結果だったな。ドラムロォ~ルかもん!!」
どこからともなく効果音が流れ出して来て、イケメン職員はクルクルと回る。
:何故に回転しだすwww
:そしてこの効果音はどこから?
:歌は気にするな
:片腕怪人はお帰り下さい
デン♪ という音が鳴るとイケメン職員はピタリと動きが止まり、タヌポンを指差す。
「文句なしの合格。少年は今日からS級だ!!」
:よっしゃぁぁぁ!!!
:ついに来たぁぁぁ!!!
:ようやく額面通りの探索者に
:額面……通り?
:二つ名持ち以上の偉業してはるけど?
:レッドドラゴン討伐
:ソウルエンペラーを一撃
:これがただのS級か?
「……うむ、凄い経歴だな。なぁ、しょうね――」
「さて、合格発表も貰ったので今回はここまで、次回の料理配信も見てくれよな」
:何かタヌポン焦ってる?
:次のスケジュールでもきついんちゃう?
:あぁ~確かに
:最近本当に忙しそうだからな
:体には気を付けて~
:おつポンでした~
タヌポンは何やら急いでいる様子で配信を閉じた。
その真意を知るのは、この場にいる者達だけだ。
□□□
配信が終了してすぐのことだ。
俺はダンジョン協会の職員から距離をとり、叛逆者を発動させる。
その様子をクスクスと職員の姿をしたあいつが笑う。
「おやおや、随分余裕がないな少年? つい、さっき会ったばかりだというのに、まるで長年の宿敵でも相手にしてるかのような態度だな?」
「――当たり前だろ。お前が隣にいる状態で冷静でいられるとでも思ってんのか? お前にとっては刹那の時間だったかもしれないが、俺にとっては永遠に等しい程長い時間を過ごしたんだ――お前を一片たりとも忘れたことなんてなかった。怠惰の魔王ベルフェゴールゥゥゥ!!」
茜を殺し、俺にトラウマを植え付けた元凶。
この日をどれ程待ち望んだか。
その顔面に拳を突きつける日をどれ程待ち望んだと思う。
「オールスキル発動ッ!! 【
目から得られる情報量、体のオーラ量が増し、俺を強固なオーラが覆う。
その様子をベルフェゴールは頬が引きつらせた。
「おいおい……昨日の報告より強くなってるってどういうことだ?」
「昨日別の魔王に負けてひたすらに考えたんだ……俺が出来る事をも何かをもう一度、俺の原点、それは守ること、攻撃はあくまで手段、ありとあらゆる攻撃を防ぎ切り、最後に止めを刺すことが俺に合ったスタイル、なら何が足りないか? 俺に足りなかったのはお前らの攻撃を防ぐための強靭な盾が必要だったんだ」
拳を構えてベルフェゴールを睨むつける。
「命名【
「……なるほど、少し見ないだけで、ここまであの非力だった少年がこうも変わるものなのか――あの少女が君に期待したのも納得でき……」
「ごちゃごちゃうるせぇ!!」
鉄壁のオーラを足に収束させ、地面を弾き飛ばし、そのまま前方へと進む。
「はっや!?」
「しッ!!」
俺は思い切り拳を振るう。
ベルフェゴールは両手でガードするが間に合わず、そのまま壁まで吹っ飛ばされる。
「いっ!? ……たくない?」
攻撃を受けたはずなのに、ダメージを受けていないのが不思議な様子のベルフェゴール。
「ふっ……ははは!! 見かけ倒しか!! むしろ威力は前より弱――」
カチリとベルフェゴールの頭に何かが突き付けられる。
俺はニヤリと笑う。
「いや? むしろ想定通りの性能だよ。この技は叛逆の槍へ確実に繋げるための技だし――それに俺が最初に殴ったら、そいつに怒られちまうからな?」
ギギギとベルフェゴールは青ざめた表情で、首を横に向ける。
そこには今までなりを潜め、貼り付けたような笑顔で銃を突きつける宇佐美の姿があった。
「ハロ~色男さん? ご機嫌麗しゅう~?」
「や、やぁ~お初にお目にかかるね麗しいお嬢さん? 出来る事なら、その可憐な手から銃を放していただけると大変助かるんだが……」
クスクスと宇佐美は笑う。
「あらあら、口が上手いんですわね? 何ならその口周りをもっと大きくして声が出るようにしてあげましょうか?」
「いやぁ……それは遠慮願……う!?」
逆方向に後退りして逃げようとするベルフェゴールだが、コツンと額に鈍い音が響く。
「あなたに恨みはありませんが、お二人の仇らしいので微力ながら協力させていただきます」
宇佐美の反対方向には杖をベルフェゴールに向けた陽子さんが立っている。
「左右から美少女とは景気がいいな……武器を下げてもらえると特にいいのだが……無理であろうな」
前門に俺、後門に壁、左右からも押さえられているのでは逃げ場はない。
ならば、奴のとる行動は一つ。
「て、転移で……何!?」
転移しようとしたベルフェゴールだが、それがキャンセルされたことに驚愕する。
「はいは~い、転移封じっと……事前にどういう行動とるか分かってれば対策は容易いよ?」
ベルフェゴールの下には魔法陣が展開しており、先輩の手先にも似たような魔法陣がフヨフヨと浮かんでいる。
原理は知らないが、先輩のスキルの1つで足止めしているようだ。
ベルフェゴールは諦めたかのように、フッとキメ顔で目を瞑った。
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