第88話 ネクロダンジョンでアイ スクリーム(1)

 ネクロダンジョン。

 そこは京都の山奥にあり、アンデット系モンスターが数多く蠢き、薄暗くジメジメとした光景が広がる、おどろおどろしい形相のダンジョン。


 物理攻撃が効きにくい反面、魔術攻撃が効きやすいのでシューターやサポーターには絶好の狩場である。


 ……まぁ、この男にはそんなのは関係がないことだ。


 タヌポンがいつものように配信をスタートさせた。


「はい、どうも! ネクロダンジョン九十層からこんにちは! タヌポンです!」


:のっけからツッコミさすなwww

:九十層からこんにちは(意 味 不 明)

:初見勢がドン引くからやめたまえやめたまえ

:い ま さ ら

:レッドドラゴン倒してる配信者やぞ?

:そりゃあ当たり前に九十層くらいいるだろ

:何それ怖い


 コメントもいつもの調子、だがすぐにタヌポンは声だけになり、固定カメラの映像に切り替わる。


「いきなりの配信で申し訳ない。急遽S級試験の様子を撮る配信許可が下りたからカメラを回してる」


:よく下りたな!?

:レッドドラゴンの時もそうだけどさ?

:ダンジョン協会やけにタヌポンに甘くね?

:ダンジョン協会タヌポンファン説

:タヌポンのファン……てこと?

:バックアップが手厚www

:そりゃあ(レッドドラゴン倒すような優秀な探索者をほっとくわけがない)そうでしょ?


「いやはや全くもってその通り!! 優秀な探索者には我らダンジョン協会も協力は惜しまないさ!! はっはっはっ!!」


 腕組みをしたダンジョン協会の制服を着たやたら元気なイケメン男性がカメラに向かって笑いかける。


:すっごいこの人元気ね!?

:イケメンな元気はつらつお兄さん

:意外とタイプかも……

:ウホッ! いい男!


「はっはっはっありがとうみんな!! 絶賛我はお嫁さんは大募集中!! 画面の可愛い子ちゃん、我とかいかがかな!!」


:なんだこいつ……

:あっ……やっぱいいっす

:ただの三枚目でしたね

:ちょっとそういうのは……

:ごめんなさい


 イケメンはカメラに向かってサムズアップするが、これには視聴者もドン引きである。

 だが、そんなこと気にしていない様子でキザ男は笑い飛ばす。


「はっはっはっ!! タヌポンの視聴者はシャイなのだな!! 恥ずかしい時は後でこっそり我の電話番号にでも電話するといいぞ!! 番号は……」


 その時、ドガァァァン!! という轟音が響く。


:何だ何だ!?

:すっごい音したけど!?

:おい、ちょっと待てそう言えばここって九十層のどこなんだ


 イケメンから音の方へフォーカスした配信用のドローンカメラが捉えたのは、うすぼんやりと青白く輝く大きな人魂だ。

 人型をとっており、目は聖者への恨むつらみがこもっているように見える。


 九十層ボスモンスター、ソウルエンペラーだ。


:あれれ? おっかしいぞ~?

:俺達はS級試験の配信って聞いていたはずなのだが

:てっきり走破のほうだと……

:何でいきなりラスボス戦なんすっかね!?

:いままで見てたコンちゃんの配信は!?

:それはほんまに夢やから忘れろ

:ボケてる場合か!?


「今回は本人の希望により、九十層ボスモンスターのソロ討伐で合格としてほしいとのことだった!! 面白そうなので許可した!!」


:面白そうなので!?

:意 味 不 明

:いやいやいや!?

:S級試験の様子を配信します(分かる)

:試験ではボスモンスターを倒します(まぁ分かる)

:九十層ボスモンスターに挑みます(分からない)

:数ヶ月立ってまた最難関に挑むって……

:バカなの?


「しかも今回は料理と案件も並行して行うそうだぞ!! いやはや前代未聞過ぎだ!!」


:ちょっと情報増やさないで貰っていいっすかね!?

:えっ……普通に挑むだけじゃ飽き足らず?

:案件と料理するって言いました今?

:何してはるんですかタヌポンはん!?

:あたおか配信者がここにいると聞いて……


「まぁ、前回の攻略よりも俺も強くなったし、今回は妨害もないから、平気平気」


 気の抜けるような声でタヌポンは返答する。


:前より強くなったって言葉が恐怖しかない

:あれ以上強くなるのか(ドン引き)

:化物をこれ以上化物にせんでください……

:↑パワーワード過ぎるwww


「とりあえずタイトルコール」


 ドンッという効果音の後テロップが表示される。


「ソウルエンペラーで料理してみた!」


:えっと……りぃありぃ?

:ついに魂まで捕食対象に……

:ソウルエンペラー食べるんか?

:実質ソウル〇ーター

:ヴァカめ!

:お喋りの聖剣はお帰り下さい


「……えっ? 霊体は食べられないぞ? みんな大丈夫? 疲れてる?」


 本気で心配した声音でタヌポンはそう返す。


:おまいう!!

:モンスター料理してるやつが何をほざく!!

:正論だけどタヌポンにだけは言われたくない

:それな

:これが本当のお前が言うな

:ば~か!


「おい!? 最後のコメントは純粋な悪口だろうが!?」


 馬鹿なやり取りしてる間にも轟音が今もなお響く。

 ゴホンとタヌポンは咳払いする。


「えっとな? 今回はソウルエンペラーのある技で料理してみようと思うんだ。決して食おうとしたわけじゃないぞ?」


:まぁ、そうだよな

:触れられないのにどうやって調理するって話だよな

:というか、そもそも物理効くんか?

:確かに、あそこのモンスターは魔術スキル必須級

:それか属性付与された武器だな

:流石に今回は武器使う?


「いや、鉄壁スキルで問題ない。鉄壁纏えば霊体だろうとぶん殴れる。みんなも使おう鉄壁スキル」


:いや、普通に無理だろwww

:何かタヌポンが使う鉄壁だけ別次元過ぎる

:こんなの僕の知ってるスキルじゃない……

:えっ!? 鉄壁ってそんな強いんですか!?

:ちょっと鉄壁スキル強化してくる

:↑ や め ろ

:死にたいんか?


「それよりも、案件の話なんだけどさ?」


 ゴソゴソと何かを取り出そうとしてる音が聞こえる。


:それよりもで片づけていい話じゃなくない!?

:ねぇ今ってバトルしながら話してるんだよね?

:九十層ボスモンスター相手しながら余裕ありすぎ

:まぁタヌポンのやることだしな……

:↑妙に説得力あるコメントやめろwww

:それで全部説明できてしまうだろうが!


「今回紹介する商品はこちら!」


 画面がタヌポンの視点カメラに切り替わり、手元が映し出される。

 銀色の球体に開け口が取り付けられて、中に何か入れられそうな物だということだけは分かった。


:ナニコレ?

:見た目デーモン〇アにしか見えんwww

:絶対手を離しちゃダメな奴それぇぇぇ!!

:見た目が不吉すぎるんよ


「デーモ〇コア? 言ってる意味はよく分からないけど、何か名前がかっこいいからそれ採用、デモコ(仮)って呼ぼせてもらおう。まだ正式名称決まってないらしいから名前あると便利だろうし」


:何か名前がかっこいいからwww

:や め ろ 

:どうして自ら死地に赴く真似するん?

:それに略し方が絶妙にダサい

:流石タヌポン!

:巷で、センスのなさに定評あるだけあるぜ!


「ひどい言われよう……まぁ、いつもの事か。今回は俺がひいきにさせてもらってる武器屋雷神からの提供なんだ。何でも、中に入れればどんなモンスターの攻撃からも守れるくらい丈夫でとてつもなく軽いって謳い文句で渡されたな。持った感じ羽のように軽い、アルミ素材って言われても信じそうだよ」


:すっご!?

:つまり携帯できる金庫みたいなもん?

:デモコ意外と優秀やった件

:デモコ浸透するの早すぎwww

:でも現役探索者としては欲しい

:邪魔にならない丈夫なバックとか喉から手が出るわ

:前にも話上がったけど何ものなのその武器屋雷神

:ネットにも公式アカウントもホームページもないし

:店主が強面だってことは分かるんだけどな

:それ以外情報が全くない

:何それ怖い


「中はまだ試作段階だから金属部分が剝き出しになってるけど、こっからクッション性と水分を吸収する素材を取り付けるらしい。じゃあこの金属むき出しの状態で、俺の配信とマッチする紹介の仕方は何なのか考えた結果」


 タヌポンがデモコ(仮)の蓋を開けると、中に白い液体が入ってた。


:何故に液体!?

:普通は耐久テストなら固体とかさ?

:これで料理って……

:想像つかんのだけど……


「中に入れてるのは、生クリームとバニラエッセンス。もちろん煮沸消毒はしっかりしてるよ? そして目の前には冷気を吐き出すソウルエンペラーがいるだろ? じゃあやることは一つだよな?」


:おい、まさか……

:その材料と工程で察したは

:ぶっ飛んでるな……

:絶対想定されてない使い方だ

:えっ? 分かってないの俺だけ?

:古参勢は分かってるっぽいけど

:タヌポンに毒され過ぎでは?

:どゆこと?

:誰か説明プリーズ


 タヌポンは蓋をしっかりと絞め、クルクルとボールのように回転させる。


「そう、今日作るのはアイスクリームだ」

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