第78話 矛と盾の輪舞
射出音とパンッと弾く乾いた音が輪唱のように地下フロアに響く。
宇佐美が射出する回避不可能弾幕を事もなげに叩き落とし、縦横無尽に動き回る二人の男女、立ち位置を入れ替わり立ち替わりし、避けると同時に死角からの攻撃も潰す。
「すごい、すごいやん橙矢! うちのやりたいこと、したいこと全部出来てるで!! あんたをパートナーにしてほんまよかったわ!!」
「そりゃあどう、もッ」
軽口を叩きながら、前へと進む
銃弾が舞う、槍が弾く、メイスが叩き潰す。
同じようなやり取りに見えるが、着実に宇佐美との距離を縮めている。
イライラと不機嫌を露にする宇佐美。
その様子を傍から腕組みをしている雷蔵がぼそりと呟く。
「あいつら本当に初心者か? 赤髪の嬢ちゃんはスピードも動きもS級、いやそれ以上の動きだ。それに相方の坊主も嬢ちゃんの死角や動きに合わせて寸分の狂いもねぇ防御する完璧な連携してやがる」
「長年連れ添ったパートナーみたいね♪ 昔のわたし達みたいに♪」
「……オレ達みたいかはともかく、だ。少しあいつらに興味が出て来た。あいつらを鍛えればもしかしたら」
「わたし達を超えることも出来る、かもしれないわね」
俺達は駆ける。
宇佐美との距離も段々と迫り弾幕も激しくなってくる。
流石に捌ききるのも難しくなってきてるな。
すると、田貫さんが脇にダッシュする。
「橙矢、十秒稼いでや!」
意図は理解出来ないが、何か作戦があるのだろう。
「了解、【スキル:挑発小】発動!」
瞬間、宇佐美の視線、攻撃がグリッと俺の方向に逸れる。
俺はニヤリと笑う。
「ようやくこっち見たな?」
「わたくし達の勝負に横槍を入れないでくださいまし!」
「はぁ~? わたくし達の勝負? そんなの知るかっての――俺は俺の目的のためにお前を倒すだけだ」
左腕を前に出し、防御スキル発動の姿勢をとる。
「【スキル:鉄壁弱】発動」
オーラが左手をコーティングし、障壁となる。
両手を目一杯使い、右手でメイスを振い、左手で水弾を弾き落とす。
「あなた最初見た時から、自分は他人に優しいんですって態度がムカつきますわ!! 本当に腹立たしいですわね!!」
「奇遇だな? 俺もあんまり人の好き嫌いはない方だが、お前のその回りくどい優しさを押し付けるやり方が気に食わない!!」
俺達は軽口を飛ばし、互いに睨み合う。
だが、銃弾が一層激しさを増し、被弾も多くなる。
ドンドンとダメージが重なり、体の動きが鈍くなった。
「さす、がに……もう、無理」
俺は地面へと突っ伏す。
やれやれと、宇佐美はため息をつく、
「やっと気絶しましたか……さて」
その時宇佐美の視線がようやく俺から外れ、脇に避けた田貫さんに目が行く。
田貫さんの周囲には激しい炎が滞留している。
炎が形を成し、二匹の狸が田貫さんを囲む。
「ナイスや橙矢、ギリギリ間に合ったで!」
槍を両手に平行に持ち、体の重心を下げる。
田貫さんは深く呼い込む。
「菜月ちゃんは強いさかいな。うちのとっておきで相手したる」
「あら、じゃあわたくしも乗って上げましょうか」
宇佐美の魔方陣が幾つも重なり一つの魔方陣を生成する。
お互い大技、ここで勝負を決めるつもりだろう。
武器の切っ先が交差した。
「【
「【
魔方陣から放たれた圧倒的な水量のウォーターカッターが田貫さんへと迫る。
それを槍先周りを炎の狸がグルグルと螺旋を描きレーザーのような大量の水に向かって放出され、せめぎ合う。
両者の攻撃が弾け、水が蒸発し辺り一帯に煙がかかる。
煙が段々と晴れると両者が武器を互いが眼前に向けあっていた。
二人ともニコニコと笑う。
「引き分け、ですわね」
「あぁ、そうみたいやな」
二人が友好の握手を交わす。
だが……。
「勝負ありだ。勝ったのは赤髪の嬢ちゃんと坊主だな」
「「はっ?」」
近づいてきた親方に驚いた様子で二人が振り返る。
「お、おじ様? どう見てもわたくしと茜の勝負は引き分けでしたわ」
「あぁ、そうだな。お前たちの大技勝負はな?」
親方が宇佐美の後ろを指差す。
二人が振り返るとそこには、宇佐美の腰の位置でメイスをいつでも振り払えるようにしている俺が立っている。
「なっ!?」
「橙矢生きっとったんか!?」
「人を勝手に殺さないでくれますかね!!?」
俺が叫ぶと雷蔵さんはバンバンと俺の肩を叩く。
「狸寝入り決め込んで、最後の瞬間に同時攻撃仕掛けるとは、勝利に貪欲な所が最高だぜ坊主! 心意気が気に入った採用だ!」
「そんなの有効ですの!?」
「確かに彼は地面に転がりはしたけど……ちゃんと気絶してるか、確認しなかった宇佐美ちゃんにも落ち度はあるわよね?」
風音さんからの擁護もあり、宇佐美は苦虫を嚙み潰したような表情になる。
「こんなの……絶対に認められませんわ」
宇佐美はその場からスタスタと走り去ってしまう。
まぁ、こんな大衆の面前で恥かかされれば、そうか。
田貫さんが肩をポンと叩く。
「後でうちがフォローしとくわ。菜月ちゃん意外と繊細やねん」
「俺にはそう見えないけどな」
「というか橙矢はやけに菜月ちゃんに当たりきついやん? 何かあったん?」
「別に、ただ……」
宇佐美は最初からパーティー参加に反対していた。
多分、田貫さんを危険な探索させたくないからか、パーティー参加を阻止しようとわざとパーティーでの参加にしたり、男の俺を田貫さんに近づけたくないから俺にきつく当たったりと、あいつの優しさが遠回しすぎてムカつくんだ。
そう言おうと思ったがやめた。
多分、あいつはそういうのを田貫さんには知られたくないんだろうからな。
ここは俺が大人になってやろうじゃないか。
俺は肩をすくめる。
「暴言吐かれたからムカついただけだよ」
「やけに子供っぽい理由やった!?」
「ほら、そんなことよりも……」
俺達は親方と風音さんに振り返る。
「ようこそ、疾風迅雷へ! 歓迎するぜ!」
親方は豪快に笑い、風音さんはフフフと朗らかに笑う。
「よろしくお願いします」
「よろしゅうに♪」
こうして俺達は疾風迅雷への試験に合格した。
そこからの日々は楽しくて今でも鮮明に思い出せる。
宇佐美とのわだかまりはあったものの、訓練やモンスター討伐と概ね順風満帆に過ごしていられたんだ。
あのネクロダンジョンのS級試験を受けるまでは……。
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