第77話 パーティー参加試験
赤髪の少女からは焦りの表情が見られた。
「ちょ、ちょい!? 何でや!? うちごっつ強いでぇ、今なら誰の誘いでも乗るでぇ、お買い得やなぁ!」
必死に赤髪の少女はセールストークするが、皆遠巻きに見るだけで、誰もパーティーを組もうとしない。
そして、ヒソヒソと内緒話が聞こえてくる。
「だって、あの子って田貫茜でしょ? パーティーメンバーと息合わせず一人で突っ込んでく猪突猛進女」
「あれと組むと作戦も何もあったもんじゃない。組んだとしてもあいつ一人の手柄になるじゃん」
「組むなんてよっぽどの物好きだよ」
概ね言われてた理由で彼女とは組もうとしない者が多い。
アピールする場所においてどれだけ目立てるかが重要だ。
あの鮮烈な印象の少女を誰も選びはしないだろう。
不人気ポジションで誰にも誘われない者以外は……。
俺は一人でいる赤髪の少女に話しかける。
「なぁ、良かったら俺と組まないか? 俺もあぶれたんだよ」
「ほんまに組んでくれるんか! おおきに!!」
くるりと赤髪の少女が声を掛けた俺に振り返る。
ぱぁと表情が明るくなり手を握ってきた。
「あまり期待に答えられるかは分からないが、タンクとして守れるよう頑張るよ」
「守るって、ナイト様みたいなことゆっとる。いや~でもほんま助かったわ。えっと……」
「葉賀橙矢だ。好きに呼んでくれて構わない」
「橙矢やな! うちは田貫茜や! よろしゅうな!」
「距離の詰め方……まぁ、いいか。よろしく田貫さん」
互いに握手を交わし、その後スマホのダンジョンアプリで臨時パーティーの申請、承認がされた。
試験官役の小さい少女はスマホで時間を確認すると、マイクを口に近づける。
「では、時間になりましたので試験を開始しますわ。準備出来たパーティーから順々に来てくださいまし」
「よっしゃ!」
その言葉を待ってましたと田貫さんが前へ出ようとしたのを首根っこ捕まえた。
キョトンとした目でこちらを見てくる。
「なんでや? はよういかんと決まってしまうで?」
「心配しなくても決まらないよ……ここらへんの連中程度じゃね」
「……橙矢、案外辛辣なんやな。誰も自分誘わんかったことに腹立てとるん? さっきまでの優男フェイスが崩れとるで?」
「別に意地悪で言ってるわけじゃないよ。ただ事実を言っただけさ。まぁ、見てなって」
俺の言った通り、何十というパーティが挑んだが誰一人として合格判定を貰えてない。
そして、段々と数が少なくなり俺達を残すのみとなった。
「橙矢の言った通りになったわ! エスパーかいな!」
「スキル使って強さを調べただけだよ――本来の使い方じゃないけど」
俺が田貫さんを選んだ理由もそこにある。
弱点看破の応用で、弱点が少ない程探索者は強く、弱点が多いほど弱い探索者と判別して見た結果、ほとんどが弱い探索者だった。
例外は……俺の隣にいる田貫さんだ。
疾風迅雷のメンバーとほぼ同等の弱点の少なさって、どんだけ才能の塊なんだよ。
だからこそ、俺はこの子と組むことを選んだ。
俺は……このパーティーに入らなければいけない理由があるから。
「それじゃあいこっか、田貫さん」
「あぁ、やったるで! うちと橙矢の長年のコンビネーション見せたるで!」
「結成してまだ数分しか立ってないけど!?」
俺達はスタスタと前に出る。
宇佐美と呼ばれた少女はニヤリと笑う。
「あら、組んでくれる人いましたのね」
「せや、橙矢ゆうんや!」
「今日はよろしくお願いします宇佐美先輩」
「……」
宇佐美先輩は……いや、宇佐美は俺を見ると一瞥してそのまま田貫さんへと向き直る。
「対戦相手は誰にします?」
「もっちろん、菜月ちゃんやで! 前の雪辱晴らしたるで!」
「いいですわね、かかってらっしゃい」
紅い槍を構える田貫さん、魔銃を構えた宇佐美。
それを見ていると、まるで小説の主人公とライバルの戦いを見ているかのような感覚になる。
あぁそうですか、俺なんて眼中にないってことですか。
弱い探索者に、モブには興味ないと……。
「――ざっけんなよ。絶対こっち向かせてやる」
「……? 橙矢何か言うた?」
「いや、何でもない。それより開始の合図は……」
「「コインが地面に落ちたら」」
宇佐美が硬貨を頭上に放り、空中で回転する。
しばらくの浮遊――そしてカツッと金属音を立て、コインが地面に落ちる。
瞬間、田貫さんが突っ込む。
揺れる赤髪が火球の如く迫る。
だが、宇佐美も負けてはいない。
目にも止まらぬ速さで魔方陣を展開し、ガトリングさながらの水弾の雨あられで迎撃をする。
真っ直ぐ突っ込んでた田貫さんだったが、水弾の発射を見てスピードを若干落とし、体を捻って避けてはじわじわと前へと進んでいく。
「やりますわね!」
「そっちこそ前より腕上げとるやん! でも、そんなのいくら撃とうとうちには当たらへんよ!」
「それは、どうでしょう?」
田貫さんの地面がウニョウニョと蠢く。
いや、正確には地面の水溜まりが形を成そうと動いているだけだ。
「なっ!?」
下から水弾が射出され、田貫さんへと迫る。
「あっ、流石にこれは……あかん」
田貫さんに水弾が触れるその瞬間、
「おいおい、俺を忘れてんじゃねぇぞッ!!」
メイスが田貫さんへと当たりそうな水弾を全て弾き、攻撃を防ぎきる。
田貫さんは俺が振るったメイスを見て目を白黒させていた。
「橙矢……あんたこんなに動けたんかいな?」
「人を勝手に戦力外にしないでくれよ……言ったろ? あんたを守るってさ? 俺はこのパーティーに入りたい理由がある」
俺はメイスを宇佐美に向けて持ち上げてニヤリと笑う。
「俺は勝って疾風迅雷に入りたい。だから田貫さんは自由に動いてくれ、多分それが一番勝利率が高いんだ」
「で、でもうちは……」
「どんな動きだろうと俺が完璧に合わせて守ってやる、だから――あいつに二人で勝とうぜ?」
「ほ、ほんまに?」
田貫さんは恐る恐ると言った感じで、俺を見てくる。
「うち結構無茶苦茶するで? 昔から何考えてるかようわからんって言われるし――ほんまに、こんなうちに合わせられるん?」
俺は肯定の代わりに無言でうなづく。
すると、田貫さんはニヤリと笑う。
「なら、背中は任せるで?」
「おう、任せろ」
二人は笑って向き直る。
そこには宇佐美が絶対零度の冷笑でこちらを見ていた。
さぁ、仕切り直しといこうか?
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