第59話 ライオンの恩返し

 ここは、宮城県のとある遊園地。

 夏休み期間ということもあり、子供連れやカップルなど様々な人がごった返している。

 俺達はそんな所に遊びに来ていた。


「遊園地だぁぁぁ!!!」


「「おぉぉぉ!!!」」


「「はぁ……」」


 はしゃぐ三人、元気なく返事する俺と猫宮さん。


 瑠璃は昨日のことが嘘のようにすっきりした顔で笑って駆けまわり。

 牛山さんと藍ちゃんが、混ざってはしゃいでいる。


「何であんたと来なきゃいけないんだし」


 三人から離れたら、猫宮さんも猫を被るのをやめて、俺に辛辣だ。

 まぁ、前より話しやすくはなったけど。


 俺は肩をすくめる。


「そう言うなっての……瑠璃が俺も来て欲しいって、聞かなかったんだから仕方ないだろ?」


「……このシスコン」


「シスコンじゃ――いや、もうそれでいいよ……」


 反論するのも疲れるので、それ以上は口にしなかった。

 だが、反論しないならしないで猫宮さんは、機嫌が悪そうだ。

 クソ兎で慣れてるから、別に気にもしないけど。


 猫宮さんは半眼でこちらを見る。


「結局一睡もせずに見張ってたの?」


「あぁ、そうだよ。おかげで寝不足だよ」


 ふわぁ~と俺は欠伸をする。


 いつ襲われるか分からないから、ずっと起きていた。

 弱点看破で辺りを警戒し、黒い靄や異変を気付けるように、弱点看破を使い続けたことで、もうどこにどんな人がいるのか、手に取るようにわかるレベルにまで成長している。


 そして、今も当然警戒は解いてはいない。


「今の所問題はないな」


「……あんた、そんなにスキル多用してたら、そのうちぶっ倒れるよ?」


「心配してくれるのか? 優しいね猫宮さん」


「……やっぱ倒れればいい」


「ひどい!?」


 そんな漫才みたいなやりとりをしてると瑠璃がこちらに手を振る。


「お兄ちゃ~ん! 桃ちゃ~ん! 早く行こう!」


「分かったし☆」


 猫宮さんが満面の笑みで手を振り返して走り寄っていく。

 急にテンションが切り替わるからびっくりする。


「俺も行くか……」


 俺も女子高生ズに遅れないようについていく。


 遊園地の定番ジェットコースターで藍ちゃんが気を失いかけたり。

 よくカップル達がこぞって乗るコーヒーカップで瑠璃が目を回してフラフラ状態。

 夏に人気なお化け屋敷などでは牛山さんが絶叫していた。

 ――などなど、様々なアトラクションを俺達は堪能した。


 そして、楽しい時間はあっという間に時間は過ぎていく。

 辺りは夕暮れで、そろそろ閉園時間だ。


「楽しかったね♪」


「それな☆」


「面白かったデス!」


「……部長は、普通に……お化け屋敷、ビビってた」


「それは言わない約束デス!?」


 四人全員楽しんだようで、何よりだ。

 俺は警戒しながらだったが、久し振りの遊園地を楽しむことが出来たな。


 瑠璃が突然、元気よく指差した。


「じゃあ、最後に観覧車乗ろう♪」


「「「賛成」」」


「了解」


 だが、ここで問題が発生した。


「申し分けありません……この観覧車は定員が四名ですので、五人だとちょっと……」


 そう遊園地のスタッフに断られる。


「じゃあ、お兄さんはぼっちだね☆」


「――随分嬉しそうに言うな?」


「気のせいだし☆」


 ニコニコと猫宮さんが笑う。

 まぁ俺は別に一人で乗ってもいいんだが……


「じゃあ、二人と三人で分かれよ♪ じゃんけんで勝った人が二人で♪」


「……負け、ない」


「勝ち負けあるデス?」


何かみんなやる気満々で言い出せる空気じゃない。


「じゃあ、行っくよ☆」


「「「「「じゃんけん! ポン!」」」」」


 その結果は……


 ゴンドラに揺られる二人の男女。

 片方は超不機嫌、もう一人は苦笑いしか出ていない。


 まぁ、俺と猫宮さん何だけどね……。


「何でこの組み合わせなんだし!」


「仕方ないだろ? じゃんけんなんだからさ?」


「ほんと最悪だし」


 猫宮さんはそっぽを向く。

 俺もこの組み合わせは不本意なんだよな……。

 これじゃ、あの三人守るの難しい位置どりだ。

 今の所周りにはいなそうだからいいけどさ?


 二人のゴンドラ内はしばらくの間沈黙が続く。

 き、気まずい……何か話さなきゃ。

 何かないかと頭をフル回転させてると、突然天啓のように降りてきた。


「そう言えば。瑠璃とどうやって友達になったんだ?」


「……それ、今話すこと?」


「どうせ暇だし、いいだろ?」


 猫宮さんは、やれやれと言わんばかりにため息をつく。


「友達になること自体はそう難しくなかったし。瑠璃っちの趣味嗜好交友関係、全部事前に調べて置いたから、共通の話題で盛り上がって流れで友達になれたし」


「それ……完全にスト――何でもないです」


 ギロリと猫宮さんに睨まれたので俺は押し黙る。


「あくまで任務としての交友関係だった……けど、本当に友達になったのは、あの時だったし」


 過去を懐かしく思うように笑っている。


「うちさ? まぁ……こんな容姿と性格じゃん? 妬みとか、めっちゃ買ったりしたんだよね」


 ナチュラルで毒吐くもんね。

 猫被ってる時も既に俺に対して辛辣だったし。


「まぁ、うちも周りの評価とかどうでも良かったんだけど、先生にも髪とか色々注意されちゃってさ?」


「……あれ? でも、確かあの中学って」


「そう、服装とか髪は自由なはずなんだけどね。転勤してきた先生で、前の学校のルールとかにめっちゃ引っ張られてたんだよね」


 郷に入っては郷に従えだと思うが、その先生はそれが出来たなかったんだろうな。


「流石に面倒になっちゃって言い返したんだけど、そしたら、もっといじめも増えちゃって、ややこしくなったんだよ」


「あぁ……学校ってそういう所あるよな」


 同調圧力、出る杭は打たれる。

 基本異物を排除しようとするからな。

 学校も社会もそれはあまり大差ない。


 やれやれと言った感じで猫宮さんは両手を広げる。


「流石にこんな状態で友人関係続けるのはデメリットしかないから、高校まで作戦を延期しようと思ったんだけどね……」


「まぁ、瑠璃がそれをほっとくわけがないよなぁ」


「普段は鈍いのにね? そういう時に限って、見逃してくれないんだよ」


 猫宮さんは辛辣な言葉を吐いてはいるが、表情はとても嬉しそうだった。


「ある日ね? 瑠璃っちが髪を金髪に染めてきたんだよ。そしてうちに言ったんだ。これでお揃いだねってさ? 一緒だったら怖くないでしょ? って――」


「あぁ……だから髪をあの時染めたのか」


 瑠璃が理由は聞かないでって言ってたけど、そう言う理由だったんだ。

 なんか言われると思ってたのか、ビクビクしてたみたいだけど、俺が良く似合ってるじゃん、って言ったら、口をぽかんとしてたっけ。


「まぁ、瑠璃っちが金髪にした時から、何故かうちへのいじめがピタリと無くなったんだよね。噂だと藍ぽんが何か裏で手を回したらしいけど、怖くて聞けなかったよ……」


「……? 藍ちゃんが怖い?」


「あぁ……まぁ、しらたきがホットケーキってやつだよ」


「何故に今料理の話を!?」


 まるで意味が分からないし、ちょっと興味あるぞ、その料理。

 困惑する俺を置いて猫宮さんは話し続ける。


「それで聞いたんだよね。何で会って間もないうちに、ここまでしてくれるのかってさ? そしたらさ瑠璃っち何ていったと思う?」


「何て言ったんだ?」


 まぁ、瑠璃が言いそうなことは分かるが、言いたそうにしてたから、空気を呼んで黙っていよう。


 猫宮さんが満面の笑みを浮かべる。


「関係ないよ♪ 私がやりたくてやったことだからさ? それに金髪に一回してみたかったんだ♪ ゲームキャラみたいでかっこよくない♪ だってさ?」


「……瑠璃らしいな」


「人助けのための取ってつけたような理由付けだよね? 本当、瑠璃っちはお人好しが過ぎるよ」


 猫宮さんが微笑むが、真剣な表情に変わる。


「――だから、あの時決めたんだよ。今度は友達として、瑠璃っちを守るんだって……これは任務とか関係なく、ただ私が友達のためにやりたくてやってることだから」


 猫宮さんの瞳には、嘘のない強い決意を感じる。


「じゃあ、これからも瑠璃のことをよろしく頼むよ。友人としてさ」


 俺が笑ってそう答えるが、猫宮さんは、キョトンとした目でこちらを見る。


「……いいの? うちはお兄さんから見たら、ただの怪しい組織のメンバーだよ?」


「自覚はあるのか……まぁ、言葉に嘘はないみたいだし、その言葉を信じてもいいかなって、それに――」


「それに?」


「……いや、なんでもない」


 猫宮さんが小首をかしげる。


 まぁ言えないよなぁ……瑠璃に似てるから、ほっとけないなんてさ。

 口に出したらまたシスコン扱いされそうだし、黙ってるのが吉だな。


 ゴンドラを降り、三人組の方と合流する。

 瑠璃達がワクワクして近づいてきた。


「楽しそうな話してたけど、何の話してたの♪」


「……お話、案件?」


「福田さん目が怖いデス!?」


「そ、そんなんじゃないし☆」


 三人が猫宮さんに詰め寄る。

 顔が引きつってるぞ、猫宮さん。

 ――仕方ない、助け舟出すか。


「瑠璃の面白エピソード聞いてただけだよ」


「ちょっと、私の話って何!? 桃ちゃん! お兄ちゃんに私の何を話したの!?」


 猫宮さんと顔を見合わせ、ニヤリと笑う。


「「ひ・み・つ」」


 俺たちは三人から逃げるように駆けだす。


「あっ! こら、待って二人とも!」


「追い駆けっこデスね、負けないデス!」


「私は……何となく」


 三人が俺達を追いかけて来る。

 ふと、猫宮さんの横顔を見たが、その表情は無邪気な子供のように笑っていた。

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