第29話 ドラゴン肉で祝杯を!

「それでは皆さんグラスは持ちましたね! 乾杯!!」


「「「「「乾杯!」」」」」


 ここは東京のとあるパーティー会場。

 ドラプロの社員や関連企業などが集まり祝杯を挙げる。

 その中に俺と龍巳さんも参加していた。


 俺達はパーティー会場の隅っこでパーティーを眺める。


「すごいな……俺初めてだよこんな大きいパーティーに出席するの」


「橙矢君、緊張して顔こわばってますよ」


 陽子さんはフフと笑う。


 俺は正装が無いので、死んだ父親のスーツとネクタイを借りて出席している。

 龍巳さんは白いパーティードレスに身を包む。


「でも、良かったです。ここまで動けるように回復して」


「ほんと、みんなに感謝しかないよ」


 俺が倒れた後、陽子さんが階層ポータルまで運ぼうとした所に宇佐美達と遭遇して、みんなで急いで外へ連れ出したみたいだ。


 途中で宇佐美の回復ポーションや風音さん、陽子さんの回復スキルを使ってもらい。

 俺は何とか一命を取り留めたようだ。


 その後、傷は治ってはいるが目覚めないため、俺は病院に運ばれたらしい。

 二週間近くベットでずっと眠っていたと後から聞いた。

 起きて一番最初に瑠璃が泣きながら抱き着いてきたのをよく覚えている。


「俺が眠ってる間、かなりの変化あったんだよな」


 陽子さんはコクリと頷く。


「そうですね。一番大きい変化はやはり――」


「スダモと福田の倒産だよな」


 俺のレッドドラゴン討伐配信を受けて、挑んだ裁判はもちろん完全勝利。


 しかも、他にもスダモの会社ぐるみの不正が芋づる式に出てきたことで、スダモはダンジョン事業取引停止どころか、会社倒産にまで追い詰められたらしい。


 福田の会社も、俺や他の従業員への不当な解雇、情報漏洩などが発覚し、スダモとともに罪に問われた。


 もちろん罪に問われたのは会社だけではない。


 吉田夫妻は殺人教唆、脅迫、恫喝などの罪。

 副社長は殺人未遂の罪で捕まった。


 副社長の面会に行った時には、初手で土下座謝罪されて俺はかなり困惑した。


 俺は気にしていないし、むしろ副社長は被害者だって言ったんだけど……、


「それでも罪は罪です。これから償っていきます。それにあの夫妻を道連れに出来るのなら本望です。ようやくあなたのために動くことが出来ます」


 との事だった。

 副社長の証言で、吉田夫妻が脅していたことも分かり。

 吉田夫妻には副社長より重い罪が課されるだろう。


 そういえば、吉田夫妻は捕まる前、病院にいたらしい。

 理由はスダモに再雇用出来なくなったと分かった探索者からの報復にあったからだそうだ。

 二人共見るも無残な状態で発見された。


 幸いと言っていいのか、しぶといと言えばいいのか分からないが、命だけは助かったようだ。

 病院を退院したら、刑務所暮らしの生活を送ることになるだろう。

 刑務所抜けたとしても元の生活には絶対に戻る事はない。


 これから二人は、俺なんかよりひどい生き地獄とも言える道を歩むのだ。


 俺から二人には、この言葉を送らせてもらうよ。

 一生罪を抱えて生きていけ、と。


 陽子さんがこちらをうかがうように見る。


「あと、良かったんですか? ドラプロだけとはいえ、レッドドラゴンの調理法を教えていただいて」


 俺は晴れやかに笑う。


「いいんだ。その分の謝礼金は貰ったし。それに――」


「オレの店や風音の店、宇佐美嬢ちゃんの店とも業務提携してもらったしな」


「いい取引だったわ」


 俺達が声のした方へ振り向く。

 そこにはパツパツのスーツを着た親方と、隣を並んで歩く、緑のパーティードレスを着た風音さんが現れる。


 俺は二人にお辞儀した。


「改めて、ありがとうございました。みんなのおかげで俺はここに立てています」


「気にすんな。仲間だろ」


 親方がニカッと笑う。


「そうよ。困ったらいつでも頼っていいのよ。私もいつか橙矢君を頼る時がくるかもしれないわ」


 朗らかに風音さんが笑う。


 本当に俺はいいパーティーに恵まれたな。

 そういえば、パーティーと言えば……


「クソう――宇佐美はいないんですか?」


「来てるぜ。ちょっと準備あってな」


「……準備?」


 俺は首を傾げる。

 その時、パーティー会場が暗くなった。

 壇上にスポットライトが当たり、司会の人が照らし出される。


「皆様! 大変長らくお待たせいたしました! それでは本日のメインイベント! レッドドラゴンの料理ショーを始めていきたいと思います!」


 ウォォォという歓声が湧き上がる。


「……なんだって?」


「サプライズ大成功ですね」


 陽子さんがいたずらっ子のように笑う。


 いや、確かに素材は陽子さんにお任せしたけども、まさかこんなサプライズされるとは思わなかったな。


 ダンジョンの素材を買い取らず、持ち出しする場合。

 基本、売値の半分をダンジョン協会に納めることになっている。


 つまり、一頭買いで家一軒分の値段のレッドドラゴンの一部を、半分の額を払って持ち出したということだ。

 値段聞いただけでソワソワする。


 ちなみに買取の場合の計算方法は、協会が売りに出した場合の金額半分を手数料として考える。

 それに加え、適性なランクじゃないとランク差一つにつき、三割ずつ手数料が増える制度だ。


 あの時はB級だったから、一割を俺の方が払わなければならなくて、そんな額払えないから俺は素材放り出して逃げた。


 まぁこれは無茶な探索をしないようにする為の罰則処置だから仕方ないと言えば仕方ない。


 でも、もうA級になんだから手数料タダじゃん!

 と思っていたのだが……

 A級だから手数料無料って考えはどうやら間違いらしい。


 正しくは会社が手数料払ってくれているから、探索者は払う必要がないとのことだ。

 武器屋でバイト始めて親方からこの話を聞いたときはびっくりしたよ。

 経営者にならないと分からないって、こんなの……


 話を戻そう。

 つまり収益的にはダンジョン協会半分。

 残った半分を3:2の割合で分け。

 3が経費や利益として会社に入り。

 2が給料として手元に来る。


 パーティーの場合、2を分配って形だな。


 今回の分を計算すると俺が全体の1割貰うから、値段が300万って感じかな。

 人数少なかったとはいえ、車一台買えるよ……

 やばいめっちゃ手が震える。


 その値段にビビってたからっていうのもあって、俺も計算まで頭が回らず。

 今回の事に気づかなかった。


 スマホの電卓で弾いたんだが、肉の値段含まれた金額で渡されている。


「いや、お金はちゃんと貰ってるからいいですけど……これ完全に赤字では?」


 陽子さんは笑って首を横に振る。


「いえ、大丈夫ですよ。ほら」


 陽子さんが指さす。

 俺は指の方向を見るとカメラが設置されていた。


「今回この料理ショーを配信して、会社の宣伝も兼ねて広告収入で稼ぐそうです」


「成、程?」


 広告収入って、そんなに稼げるもんなのか?

 俺も詳しくないんだよなぁ……


 配信の収入管理は基本瑠璃に任せっきりだから、そのあたり分かってないんだよな。

 どれだけ稼げたのか今度聞いてみるか。


 そんな事を考えているうちに、進行は進む。


「さぁ、それでは本日の料理人を紹介いたしましょう! 料理店ラビットムーン店長、宇佐美菜月さんです!」


「よろしくお願いしますわ♪」


「……何やってんだあいつ」


 壇上に上がったのはよく見慣れたゴスロリ姿の女だった。

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