俺の事を知ってるの?

「二人とも、どうしたの?」


「いや…… 何でもないよ」


「……ふん!」


 美鳥が頬を膨らませてそっぽを向いている…… 俺が美鳥に少々し過ぎたて不機嫌になってしまったようだ。

 

 そんな中、実家から戻った千和が俺達の様子を見て、不思議そうな顔をしながら聞いてきたと言うわけで……


「……桃くん?」


「いやぁ…… あははっ」


「……ふーん」


 目を細めて、まるで全部お見通しだよ、と言わんばかり顔をした千和が、美鳥に寄り添って小声で何かを話しかけている。


 すると美鳥も千和に耳打ちをして何か喋っている…… お、おい! 二人揃ってそんなジト目で俺を見るなよ!


「……ふーん、桃くんってそんなイジワルだったんだね?」


「ヒドいです桃太さん、私にあんなイジワルを……」


 いや、元々美鳥がテレビで団子屋の事をまた喋っちゃったのが原因でね? それをおしおきして欲しいっていうから……


「桃くんは分かってないね、お腹ペコペコな状態がどれだけ辛くて切ないのか」


「そうです! しかも目の前にあってすぐにでも食べられるのに、食べたいとお願いしても食べさせてもらえないんですよ!?」


 それは…… おねだりする美鳥が可愛くて、つい。


「か、可愛い!? 私がですか? ……もう、桃太さんったら…… うふふっ」


 チョロ…… じゃなくて、ちょっと機嫌が良くなったような気がするぞ、もう一押しか?


「美鳥さん、そんな事で許してたら、またイジワルされちゃうよ?」


 おい、千和! 余計な事を言うんじゃない!


「そ、そうですよね、騙されるところでした、じゃあ……」


「ふふっ、私達も…… 桃くんにイジワルしちゃお?」


「……はい!」


 えっ、えぇー!? あっ、ちょっと千和? 美鳥? 


「桃くん、メロンと桃…… 食べたい?」


 いや、その……


「うふふっ、今は食べたくなくても『早く食べさせて』って、言わせてみせますからね?」


 あっ、あぁぁ…… 



 その後、千和と美鳥の見事なコンビネーションで滅茶苦茶イジワルをされた俺。

 ただ、最終的には謝罪の意味も込めたおだんごを二人に滅茶苦茶振る舞ったわけで……



 ◇



「ありがとうございました!」


 ひぃぃー! 予想通りだが忙し過ぎる!!


 テレビの宣伝効果なのか、女性のお客さんが多く訪れて、たくさん団子を買っていってくれるのは嬉しい、ただ……


〖※吉備団子店の団子に美容効果はありません〗


 一応注意書きを店先に目立つように大きく貼り紙をしておいたのだが


「このモチモチが肌をモチモチにさせるのかな?」


「串に刺さってる団子みたいにボンッキュッボンになれるらしいよ!」


「これで私達もHATOKOみたいに……」


 いや、うちの団子にそんな効果ないよ!? しかも食べ過ぎたら、ボンッボンッボンになるから!


「美味しい…… 効果はどうか分からないけど、懐かしい味がしてホッとするわ」


 ありがとう、素直に美味しいと言ってくれるだけで頑張って作った甲斐があるよ。


「えへへっ、良かったね」


「うふふっ、みんな幸せそうに食べてます」


 二人ともお疲れ様、落ち着いてきたし家の中で休んでてもいいんだぞ?


「ううん、まだまだ元気だから大丈夫だよ」


「私もです、もう少しで閉店ですから頑張りましょう」


 いやぁ、二人ともタフだなぁ…… 昨日の夜はあんなにクタクタの様子だったのに。

 ああ、立ちっぱなしのせいか俺は腰が痛いよ……


「すみません、みたらしとごまを二本ずつ下さい」


「あっ! かしこまりました!」


 お客さんか、いつの間にカウンターの前に居たんだ? 気付かなかったよ。

 注文はみたらしとごま、っと…… 


 んっ? 俺の方をジーっと見て、更に奥にいる二人を見てと視線を交互させているけど、どうしたんだろう?


 マスクをしているが、少しまだらになった金髪につり目な大きな目、日焼けした褐色の肌にちょっと濃いメイクと露出の多めなファッション…… 一言で表すとギャルみたいな見た目のお客さんだ。


 見たことないお客さんだから新規の客だろうが、目つきがアレなせいか睨まれているようでちょっと怖いなぁ。


「おまたせしましたー!」


 まあ、お客さんはお客さんだから、笑顔で接客だ!


「はい、会計…… またな、吉備」


 へっ? 俺の事を知ってるの? うーん、誰だろう、見覚えがないな。


「すみませーん! お団子おかわりいいですか? みたらしとあんこを一本ずつ! ふふっ、これで私も綺麗に……」


 お客さん、だからちゃんと店先の張り紙を見てね?



 ◇



 閉店後の片付けをして、シャワーを浴びてから学校へ行く準備をする。

 突然両親が旅行に行って、店を生活のメインにしていたが、行ける時には学校に行っている。


 もうすぐ卒業で、単位も足りるし出席日数にも余裕があるので休んでもいいのだが、クラスメイトと最後の学生生活も楽しみたいので今日は登校することにした。


「桃くん、バッグの中身はちゃんと確認した? 忘れ物はない?」


「んー、大丈夫、千和、お前は母さんか?」


「えへへっ、奥さんだなんて……」


「あっ! 千和ちゃんズルいですよ! 桃太さん、気を付けていってらっしゃい、ん…… うふふっ」


「美鳥さんもズルいよ! 桃くん、んっ……」


 ……ん、行ってくる。


 二人に熱烈な見送りをされた後、学校へと向かうために自転車に跨がった。


 だいぶ寒くなってきて、もうすぐ雪が降りだしそうな季節になってきたな。

 そろそろコタツの準備でもするか…… んっ?


 自転車で五分ほどの近場にある定時制の高校、あまり栄えていないこの辺だと、この時間に高校へ向かう道を歩いているのは同じ高校の生徒が多いのだが……


 あの前を歩いている金髪、見覚えが……


 そして自転車のスピードを落とし、歩いている人の顔を覗いてみると……


「……猿ヶ澤?」


「……ああ、吉備か、さっきぶりだな」


「珍しいな、ずっと休んでたのに…… しかもその髪と格好、どうしたんだよ」


「……別に、イメチェンだよ、イメチェン、はぁ…… 休み過ぎて出席日数がギリギリだよ」


 いや、猿ヶ澤…… イメチェンにしては別人のようだぞ? 顔を見ても分からないくらだ。


 昼間に客として店に来てくれて、今話しているのがクラスメイトの猿ヶ澤輝衣さるがさわ きい


 ただ、連休も絡んでいたけど一ヶ月近く学校では見た事なくて、前にクラスで見た時は、今の格好とはかけ離れた、地味な女の子のイメージだったのだが……


「そういえば吉備んちの団子、美味かったぞ、失敗したよ、全種類買っていけば良かったわ」


「ははっ…… ありがとう、良かったらまた来てくれよ、サービスするからさ」


「ああ絶対行く、ところでさぁ…… 何で吉備んちの団子屋でHATOKOが働いてんの?」


「……えっ? な、何の事かなぁ?」


「とぼけても無駄だよ、サングラスとマスクをしてて怪しいやつだなぁって思って観察してたら、汗を拭くためか、サングラス外すとこ見ちゃったんだよねぇ」


 ………


「別にだからと言って吉備をどうこうしたり、みんなにバラそうとしている訳じゃないけどな、ただ気になっただけ…… なぁ、吉備はHATOKOとどういう関係なんだ? もしかして…… 彼氏?」


 いや、俺は……


「ふーん、まあいいや、今度店に行く時に話をさせてくれよ、ついでにサインも欲しいな」


 ……ここで俺が断ればどうなるか、最悪SNSとかで拡散されたら美鳥に迷惑がかかる、ここは大人しく猿ヶ澤の言うことを聞いておこう。


「あ、あぁ、もし居たらな?」


 最悪居ない時に来てくれればいいけど……


 その後、学校に着いたのだが、猿ヶ澤に言われた事が気になりすぎて、授業に集中できなかった。

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