分かったからメロンを押し付けるな!

 最近、忙しいような気がする。

 気のせいか? いや、気のせいじゃない!


「ありがとうございました!」


 いつもなら近所の人が大半の売上が、最近新たに来てくれるお客さんの方が上回っている…… 何故かって?


「ここがHATOKOがテレビで話してた店?」


「ご飯が食べられなくて痩せちゃったHATOKOを救った店らしいよ? んーっ、モチモチして美味しい!」


 美鳥のおかげだ。


 グラビアアイドルとして復帰した際、テレビで『吉備団子店』の話をした事がきっかけで、遠くからお客さんが足を運んでくれるようになった。


 俺の団子を食べてもらえるのは嬉しい…… 嬉しいのだが……


「桃くん! あんこが品切れだよ!」


「桃太さん、茹で終わりました!」


 ひぃぃっ! いつもの一日分が午前中に売れてしまった! これは閉店時間を早めないと…… 材料が足りなくなる!


 千和と変装した美鳥も忙しなく動いてくれているからまだ回っているが、千和と二人だったら大変な事になっていた。


 明日からセーブしないと材料の仕入れも間に合わないぞ。 


「いらっしゃいませー」


「あの子、可愛くない? 胸も…… ヤバっ」


 コラッ! 千和をそんな目で見るな! 大変なんだぞ、あとで。


「桃くん…… 私の胸、ヤバっ、て言われたぁ…… どうしよう」


 大丈夫だ千和、ヤバくはない…… うん。


「本当? あとでじっくり桃くんが確認してぇ……」


 う、うん、分かった! 分かったからメロンを押し付けるな! 


「あの人、なんで店の中でサングラスとマスクをしながら調理場に居るんだ? ……よく見ると下半身のムチムチ具合がヤバいな」


 コラッ! さっきから…… うちの店員をそんな目で見たらいけないんだぞ!?


「……桃太さん、私の下半身ってヤバいんですか? もしかして桃太さんもヤバいって思って……」


 大丈夫だって! なんで不安そうにしてるんだよ、グラビアでも売りにしてるんだろ?


「でもぉ…… あとで桃太さんの目でちゃんと確認して下さい……」


 分かった! だから桃を押し付けるな!


「えへへっ」


「うふふっ」


 コイツら…… わざと俺を困らせてるな?


「お夜食、抜きにするぞ?」


「「…………」」


 二人とも聞こえないふりして仕事に戻りやがったな! ……本当、仲良くなったな。


 ようやくお客さんが減り、作り置きも出来たので少し休憩…… はぁ、疲れた。


「お疲れ様、はいお茶だよ」


「ありがとう、千和」


「私がテレビで喋ったばっかりに、こんな忙しい思いをさせてすみませんでした……」


「いや、気にするなよ美鳥、逆に店の宣伝をしてくれてありがとう」


「桃太さん……」


 うん、大丈夫だから、ねっ? そんな抱き着かなくても…… 


「じゃあ私も…… えへへっ」


 千和は今、関係ないだろ…… まぁ、いいか。



 ◇



「じゃあ私は仕事があるので、行ってきます」


「ああ、気を付けてな、頑張れよ」


「桃太さん…… うぅっ、離れたくないです」


 さっきからハグしてばかりだな美鳥は。

 ただ、こういうスキンシップが心の安定になると言われてしまうと断れない。


「千和ちゃんも……」


「はーい、頑張ってね、美鳥さん」


 俺だけではなく千和とも長いハグをしてから、名残惜しそうに美鳥は仕事へと向かっていった。


「えへへっ、美鳥さんってお姉さんなのに甘えん坊で可愛いよね」


「確かにな、寝る時もくっつきたがるし」


「桃くん、抱き枕にされてるもんね? ふふっ」


 美鳥に抱き枕にされ、千和には柔らかアイマスクをされて…… それでもグッスリ寝ている俺も俺か。


「じゃあ私は一回実家に帰るから、また夜に…… ねっ?」


「ああ、いってらっしゃい」


 千和も両親に呼ばれて一旦帰るみたいだし、今日は一人か。


 さて、仕入れの確認も終わったし、明日の準備も済ませた、学校も休みだし…… 何するかな?


 部屋の片付けは…… 千和と美鳥がやってたしな。

 しかし俺の部屋、千和と美鳥の荷物が増えてきたな。

 俺の使わない物を違う部屋に移さないと部屋が狭くなってしまう。

 よし、一人のうちに部屋からいらない物を片付けよう!


 

 ちょっと待て、これ、俺のタンスだよな? 千和と美鳥の服ばかりなんだけど…… 俺の服が別の場所に収納されてる! いつの間に…… 


 そういえば最近は着る服を千和や美鳥がすべて用意してくれて、洗濯物も二人が片付けてくれていた…… えっ? ちょっと二人とも、なんでこんな派手な女性物の下着まで俺の部屋に置いてあるんだ?


 俺の私物は!? あっ…… クラスのやつが無理矢理渡してきたムフフな本! 千和にバレたらマズい…… な、ない! えっ? 押し入れの奥に隠していたのに。


 ま、まさか…… あっ! だからこの前……


『どう? 桃くん、ウサギさんが好きなんでしょ?』


『は、恥ずかしいけど、桃太さんになら……』


 ち、違うんだ二人とも! 本当にクラスメイトに無理矢理渡されただけで、俺にはそんな趣味……


『えへっ、ウサギさんって、年中お腹ペコペコなんだって、私もお腹ペコペコ…… 桃くんのおだんご、食べたいなぁ……』


『ニンジンもいいですけど…… 私は桃太さんのおだんごの方が大好きです……』


 うん、あれはあれで…… いかんいかん! 片付けだ!


 ……ちょっと千和、『おだんごを美味しく食べるためのモノ』買い過ぎじゃないか? 何回食べるつもりだよ。


 あとはやたらタオルとかティッシュが取りやすい場所に配置されてるのも気になる…… うん、片付けは諦めてリビングでテレビでも見てよう。



 ……あっ、美鳥がテレビに出てる。


『HATOKOちゃん、復帰してから綺麗になったねー!』


『うふふっ、そうですか? ありがとうございます』


『さては…… 彼氏でもできたでしょ?』


『彼氏なんて…… 体調を整えるのに精一杯でしたから』


『そうだったね、でも本当に綺麗になったねぇ、何か秘訣でもあるんでしょ? 教えてよ!』


『秘訣ですか…… うーん…… おだんご、ですかね?』


『お団子!? お団子が美容に良いとか聞いた事ないんだけど!』


『おだんごは良いですよ、私も食べれる時はいつも食べてますし、ついつい食べ過ぎて…… うふふっ』


『……あっ! この前、別の番組で見たわ! えーっと…… 団子屋さんのおかげで健康になって仕事に復帰出来るまでになったとか言ってたね、確かお店の名前は……』


『『吉備団子店』ですね…… 本当に、あの団子屋で…… おだんごに出会ってから、毎日が幸せです』


『……どんなお団子なのか気になってきたわ』


 美鳥…… また喋っちゃったのか。

 明日からまた忙しかったら大変だ、風呂に入って早めに寝よう。


 そして風呂から上がると……


 美鳥、仕事から帰って来てたのか、俺の姿を見て土下座しているけど。


「桃太さん、すみませんでしたぁ! 収録でスタッフさんに団子屋さんの話はカットしてもらうよう頼んでおいたのに…… また放送されちゃったのを見て、慌てて帰って来ましたぁ!」


「うん、仕方ないよ、また宣伝してくれてありがとう…… 明日、店を手伝ってね?」


「はい…… あの、桃太さん…… こんなおしゃべりな私を…… おしおきして下さい」


「おしおき?」


「桃太さんのおだんごで、おしゃべりなお口を塞いで下さい!」


 それ、おしおきなの? 美鳥にとってはおだんご食べられるし、ご褒美じゃ……


「お願いします! 私に罰を与えて下さい!」


 うーん、どうしよっかなぁ……


「も、桃太さん?」


「とりあえず、部屋行こうか?」


「は、はい……」


 その後、美鳥の言う通りにおだんごで口を塞ぐのはご褒美になると思い、逆に食べたくても食べられないよう繰り返していると……


「ひぐっ、ぐすっ…… 桃太さぁん、お腹が、お腹がペコペコなんです! お願いします! 私のいやしいお口に、早く、おだんご食べさせて下さい…… おねがいしますぅぅぅっ!」


 そして、涙とヨダレをダラダラ流した美鳥に、おだんごを嫌と言うまで滅茶苦茶食べさせた。

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