枕が変わると眠れないタイプか!?
「ふぁぁ…… さぁて、店の準備しないとな」
「んぅぅ、もう朝? ……おはよう桃くん」
少し夜更かししちゃったから眠いけど今日も頑張るか、さて、服を着て……
「桃くぅん、起こしてぇ……」
はいはい…… よいしょっと。
「えへへっ…… んー」
……はいはい
二人とも着替えてリビングに行くと、美鳥さんはすでに起きてリビングにあるテーブルの前に座っていた。
「美鳥さんおはようございます、早いですね、ゆっくり休めましたか?」
「おはようございます…… ゆっくり?…… はい、眠れましたよ、何とか……」
んんっ? 目の下に若干クマが出来ているような…… まさか!
枕が変わると眠れないタイプか!?
「私、朝ご飯の準備してくるね!」
千和は元気そうだな…… うん。
「若いから? それとも…… あんなに夜更かしして……」
美鳥さん、また独り言? 千和の方を見て何かブツブツ言ってる。
とりあえず俺は朝ご飯が出来る前に調理場で材料を段取りしておくか。
「俺は店の準備をしてくるんで美鳥さんはゆっくり座ってて下さいね」
「あんなに美味しそうに…… おかわりまでして……」
「美鳥さん?」
「へっ!? い、いや、美味しそうだなんて思ってない…… はっ! あっ、すいません! はい、ゆっくりさせて頂きます」
何を慌ててるんだ? 少し顔が赤いけど…… さては、お腹が空いたのか? 昨日の晩におかわりまでしてたのに。
でも食欲があるのは良い事だ、これで少しは調子が良くなるといいな。
千和の作ってくれた朝食を食べ、俺と千和は団子作りを開始、美鳥さんはというと団子作りを見学したいらしいので、調理場にある椅子に座っている。
団子粉に水を加えこねる…… しばらくすると生地がまとまってきて、ここからが勝負だ。
吉備団子店の味、食感に近付くように意識を集中させて……
「桃くん、みたらしとあんこの準備は出来たけど、今日はどうする?」
「うーん、今日はごまも作ってみるか」
「んっ…… えへへっ、はぁい」
うん、今日もモチモチだ。
「どれくらい作る予定なの?」
「とりあえず午前中はみたらしとあんこ三十本ずつ、ごまは十五本くらいでいいかな」
昨日は値段が安い分、多めに買っていってくれた人がいたから余分に作ってもいいと思う。
「んんっ…… はぁん、わかったよぉ」
うん、弾力も出てきた、よし!
生地を一口サイズに切り分け、横にいる千和が手で丸く形を作っていく、そして出来たものをお湯に入れ茹でる。
千和も慣れたもので手早く形作りを終え茹でる作業に取り掛かってくれているので、俺は串と焼く準備をしよう。
「桃くん茹で上がったぁ、んっ…… よ」
うん、いい具合だ…… よし、あとは俺が串に差して焼くぞ。
「じゃあ仕上げのタレの準備も頼む」
「うん…… みたらし、もう、出来てるよぉ……」
さすが千和、しっかりと準備を整えているな。
ふと気になって、チラリと美鳥さんの様子を横目で見ると、凄く真剣な眼差しで俺達の様子を見ていた。
そんな注目されると照れくさいんですけど……
団子店で作業を、しかも調理場に座って見る機会なんて滅多にないからな、仕方ないかもしれない。
「団子作りしている合間に二人で何して…… でも桃太さん、凄く真剣な顔をして作ってますね…… 作業している時の桃太さん……」
おっ、独り言ですか? 癖なのかな? ジーっと俺を見つめてブツブツ…… はっ!! もしかして俺じゃなくて、焼いている団子を見つめているのか!? そりゃできたてを食べてみたいよな、できたては美味いぞー。
「千和、この出来たやつを一本、美鳥さんに食べさせてあげてくれ」
「うん分かったよ、できたては美味しいからね、はい、美鳥さん! ふふっ」
「えっ…… あ、ありがとうございます…… それじゃあ、いただきますね」
美鳥さんは団子を受け取り一口、しかも初めて店で食べた時の様子とは違い、一玉分をパクっと口の中に入れた。
その様子を見た俺と千和は自然と笑顔で顔を見合わせた。
「んっ! お、美味しいです…… 柔らかいのにモチモチと歯ごたえのある弾力、みたらしも優しい甘さで…… 何個でも食べられちゃいそうです!」
パッと目を輝かせ、一口、また一口とあっという間に渡した団子を食べてしまった。
「千和、あんこのも食べさせてあげて」
「えへへっ、うん!」
あんこの団子を渡された美鳥さんは更に笑顔になり、パクパクと味わいながらもすぐに食べ終わってしまって、自分で食べたのに、手に持った何も刺さってない串を見てしょんぼりとした顔をしていた。
どうせならとごまの団子もあげて、申し訳なさそうにしつつも美味しそうに食べてくれた。
「俺の団子でも食べて笑顔になってくれるのを見ると自信がつくよ」
「そうだね、桃くんの団子はどんどん美味しくなってるから自信を持って大丈夫だよ」
よし! 今日も買ってもらえるように、美味しい団子をどんどん作るぞ!
その後、午前中の団子は無事完売し午後の分の仕込みをしている。
夕方には店を閉めるから午前中よりは作る数は少ない、だから一人でも団子作りをこなせる…… だけど
「はぁ…… 千和と美鳥さんでお出かけかぁ」
美鳥さんは観光がてら千和の買い物に付き合うらしいが、そのまま予約日を間違ったホテルに一泊してから明日自宅に帰るらしい。
だから美鳥さんとはお別れになったが、また団子を買いに来てくれるらしいからいつか再会出来るだろう。
でも、どうせなら俺も買い物に付き合うと言ったのだが、千和が『女子会だから桃くんはお店頑張って!』とやんわり断られてしまった。
それはそうだけどさぁ、せっかく知り合って、あんなに団子を美味しそうに食べてくれた美鳥さんともっと仲良くなりたいと思ったのに。
別に仲良くなってどうこうしたいとか下心なんてないけど…… 千和、もしかしてやきもちを焼いてるのか? 焼くのは団子だけにしとけ、なんちゃって…… はぁ、仕事仕事。
午後は想定していたよりもお客さんが来てくれて、追加で団子を作ったりと休む暇がないくらい忙しかった。
とりあえず一人で何とか乗り切り、片付けを終えてからリビングで一休みしていた。
「ただいまー」
玄関の鍵が開く音が聞こえ、すぐに千和の声も聞こえてきた。
「お、お邪魔します……」
えっ!? この声……
「美鳥さん? どうして……」
「せっかく仲良くなったのにこのまま帰っちゃうのは寂しいから私が勝手にもう一泊しないかって誘っちゃった、ごめんね?」
「急にすいません……」
「いや、別にいいんだけど……」
千和はニコニコしていて美鳥さんは何だか気まずそうにしている。
「えへへっ、桃くんにお土産あるから、美鳥さんと二人で選んだんだよ!」
「私はお世話になったお礼に…… 大した物ではないんですが、受け取って下さい」
千和からは新しい下着とパジャマ、美鳥さんからは湯呑みを三個……
「二人ともありがとう、でも何で三個?」
俺と両親の分? それにしては……
「えへへっ、私達みんなで使うためだよ! また美鳥さんが遊びに来てくれたらみんなで使おうね ……ねっ? 美鳥さん」
「…………はい」
何だ何だ? 二人で遊びに行って打ち解けたようだけど、美鳥さんが何か緊張しているような感じがする。
とにかくせっかく選んでくれたプレゼントだ、大切に使おう。
その後、美鳥さんの様子は少し気になったが、昨日と同じように三人で晩ご飯を食べ、交代で風呂に入って(今日も千和はお風呂に突入してきた)、そして就寝…… 出来るはずもなく
「ふふふっ、今日もお夜食におだんごを食べさせてもらっていいかな?」
今日買ったばかりだという、少し大人っぽいパジャマを着た千和にこっそりとおだんごを振る舞った。
「桃くんのおだんご、美味しい…… んふっ」
今日も美味しそうに食べているなぁ…… それにしても、今日の千和は大袈裟なくらいパクパク食べている。
「食べてみたくなったでしょ? ……美鳥さん?」
……へっ!? み、美鳥さん?
千和の視線の先、振り返って見てみると、ドアの隙間から俺達が隠れておだんごを食べているのを覗いていた美鳥さんと目が合った。
「千和ちゃん……」
「ふふふっ、一緒に…… 食べよ?」
「…………」
ドアを開け、美鳥さんが俺達に近付いてくる。
そして……
「桃太さん…… わ、私にも…… おだんご、一つ…… 頂けませんか?」
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