頑張ってるんだけどなぁ

「はい、毎度あり! いつもありがとね、おばちゃん」


「吉備さんちの団子は美味しいからねぇ、桃太ちゃんもいつもお手伝いしてえらいねぇ、ところで今日ここに並んでる団子は桃太ちゃんが作ったのかい?」


「いや、俺はまだまだ見習いみたいなもんなんで……」


「そうなのかい、この団子の絶妙な柔らかさを出すのがすごく難しいって桃太ちゃんのおばあちゃんが言ってたからねぇ、桃太ちゃんも頑張るんだよ? それじゃあまたね」


「はい! ありがとうございました!」


 最後に残っていた団子をすべて買ってくれた常連のおばちゃんを見送り、今言われた事を思い出し、ため息をつく。


 はぁ…… 頑張ってるんだけどなぁ。

 うちの団子はすべて手作りで、特に団子の生地が美味しいと評判で、昔馴染みのお客さんがよく買っていってくれる。

 だけど俺は、他の作業は何とかこなせているが、生地だけはまだ上手く作れない。


 素人からしたら上手く出来ている団子なんだろうとは思うが、自分で食べてみると俺の作った生地の団子は何かが違う。

 その何かが分からないから、いつも閉店後に色々練習しているんだが、なかなか上手くいってない。


 材料の配合もばあちゃんのレシピ通りなのは親父にも何度も確認しているから間違いないと思う。

だから…… やっぱり生地のこね具合なのか?


 かといって親父にコツを聞いてみても


「んー? こう、こねこねっ、と優しく、撫でるように揉んでだな、そうだなぁ…… こんな感じか?」


「きゃっ! もう、パパったら! ……エッチ」


「うへへっ、おっと手が滑った!」


 ふざけてばっかりで全く参考にならないアドバイスばっかり!! 

 でも親父はばあちゃんの作る生地を完全に再現出来ている…… やる気がないし、隙あらば母さんとイチャイチャしているのに腕は確かなのが何だか凄く悔しい!!


「親父に負けないように練習あるのみ…… だよな」


 材料を無駄には出来ないから何度も練習は出来ないし、これから学校にも行かなきゃいけない、閉店してから少しの時間だけでも練習しよう!


 そう思い生地を作りの練習を始める時間になるといつも……


「桃くん、今日も頑張ってるね!」


「おぉ! 千和、おかえり」


 学校帰りの千和が毎回店に寄ってくれる。

 そして調理場に入ってきた千和は置いてある椅子に腰掛けて俺の作業を見守っている。


「千和、今日も試食頼むな!」


「うん! えへへっ、毎日のように桃くんの団子を食べられて嬉しい」


「でも団子ばっかり食べてると太るぞ? いつも試食させている俺が言う事じゃないけど」


「桃くんヒドイよぉ! でも私太ってない事…… よく知ってるでしょ?」


「……まぁな、千和は太ってないよ」


 確かに太ってはない…… 一部を除いては。


「……どこ見てるの?」


「いや、何でもない」


 年々大きく育ってるなぁ、千和の小さな身体にはアンバランスな立派でたわわなメロンが。


「……エッチ」


 千和は俺の視線から胸を隠すように腕を組んで怒っている、しかし顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている様子が少し面白くて笑ってしまう。

 それに見られて恥ずかしがるなんて今更なんだよ…… おっといけない、今は団子作りに集中しよう!


「千和、毎度の事だがこんな作業見てて楽しいか? 家の中で母さんにお茶でも出してもらって待っててもいいんだぞ?」


「ううん、見てると楽しいから大丈夫、それに…… 団子作ってる時の桃くんカッコいいし」


「そっか、ありがとな」


 カッコいいか…… 言われて悪い気はしないが、ちょっと照れ臭いな。


 ちなみに言っておくが、俺と千和は別に付き合ってる訳ではない、まあ普通の友達とか幼馴染って関係よりかはかなりはしているが。


 千和の俺に対する好意は十分伝わってくるけど、どうも千和には千和なりの特別な考えがあるようで、直接言われた訳ではないがそういう話題には触れてこないし触れさせないようにしているのが分かる。 


 俺も今の所、恋愛よりこの『吉備団子店』を継ぐために身に付けなきゃいけない事がたくさんあって、その事で頭がいっぱいだから恋愛は考えられず、千和の絶妙な距離感にはすごく助かっている。


 でも、いつかははっきりさせないとなぁ……


「んっ? どうしたの桃くん?」


 自分のため、期待してくれている千和のため、ばあちゃんが守ってきたこの団子店、そしてこの店が好きで来てくれる常連さんのために…… 頑張ろう!


 生地を作り終え、一口サイズに切り分け丸めて串に刺して焼く、ここまでは慣れた作業だ、あとは味、食感だけなのだが……


「うーん……」


「美味しいんだけど、モチモチ感がおじさんのとは少し違うような気がするね」


 やっぱりか…… 美味しいには美味しいんだが、ばあちゃんや親父が作る生地とは何かが違う。

こねる時に力を加えるのが足りないのか加え過ぎなのかすら分からないから、繰り返し練習して修正していくしかない。


「はぁ……」


 ばあちゃんや親父もうちの団子は生地作りの加減が難しいからと、感覚を掴むまでは何度も繰り返しやるしかないとは言ってはいたが、こんなに上手くいかないとやっぱり悔しい。

 でもちゃんと素直な意見を言い、毎回試食してくれる千和にはいつも感謝している、感謝しているが…… 今日も駄目だったかぁ。


「……桃くん、こっちに座って?」


 調理場に置いてある椅子に座っていた千和は、落ち込んでいる俺を見て立ち上がり椅子を譲って俺に座るよう促す。


「元気出して桃くん、また次頑張ろうね、私は桃くんの事、ずーっと応援してるからね…… よしよし」


 そして千和は落ち込んだ俺を慰めるようにたわわなメロンを俺の顔に押し当て抱き締めてくれる。

 千和の柔らかさと香りを嗅いでいると不思議と気分が落ち着いてくる、昔から俺が落ち込んでいると何故か千和がこうしてくれるんだよなぁ。


「ありがと、千和」


「どういたしまして、えへへっ」


 さて、次はどうするかな? モチモチ柔らかく、だけどもベタベタってわけでもなく噛んだ時に弾力もある、まるで……


「んっ…… 桃くん?」


 そう、こんな弾力…… 

 違うか、これはちょっと真ん中にが残ってるな。


「ちょ、ちょっと! 桃くん……」


 しっかりこねてダマを無くさないといけない…… うーん、なかなか無くならないなぁ、むしろダマが少し大きくなったような…… 次はこっちの…… 張りがあってまだちょっと固い、こっちは少し力を入れてこねないと。


「あっ、桃くん、それは……」


 おっ? 指に吸い付くようなモチモチ感が出てきた、もう少しこねればいい感じになりそうだぞ。


「ひっ、そ、そこ……」


 よし、少ししっとりして良い感じだ、力の入れ具合はこんな感じで良さそうだな。


「桃くん! だっ、だめ……」


 さて次はどのを…… んんっ? 家の方で何だかドタドタと音が聞こえるぞ? 集中しているのにうるさいなぁ。


「も、も、桃ちゃーん!! た、大変! パパが! パパがぁー!!」


 母さんの声だ、しかも凄く慌てた様子だ。


「親父? 親父がどうかしたのか!?」


「大変なの!! 桃ちゃん、早く来てぇぇ!!」


 ま、まさか親父の身に何かあったのか!? こねてる場合じゃない!


「も、桃くん! 早く行かないと!」


 千和にも言われ、慌ててから手を離し、急いで家の中に入ると…… 


 












「うぉぉーー!! 桃太、大変だ!! 当たった! 当たったんだよーー!! うひょーー!!」


 あ、親父…… リビングで何してるんだ? 何ともなさそうで安心したけど、当たった? 一体何が当たったんだ? ……あと千和が見てるからそのヘンテコな踊りはやめろ。


「せ……」


「せ?」


「せ……」


「せ?」


「世界一周旅行が…… 当たったーーー!!」


 はぁぁぁーー!? 何だってーー!?

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