第2話

【この遺言書が読まれているということは、わたくしはもう、この世にいないのですね。

 

 レオ。わたくしがどのような最後を迎えたのかは、この際脇において、あなたに伝えたいことがあります。


 わたくしはあなたをお慕いしておりました。ですが、あなたの心無い仕打ちに形容しがたい怒りを覚えています。


 恨みうら、憎しみ、嫌悪……ですが、もう、わたくしの声は誰にも、あなたにも届きません。


 そうなってしまったのは、全部、わたくしのいたらなさに帰結してしまうのでしょうね。


 ですが、伝えなければいけないことがあります。


 すべてはあなたの為に。


 わたくしが女神から授かった【寿命を削る回復魔法】について、周囲の人間は誤解しているのです。


 たしかに、わたくしの回復魔法は寿命を削りますが、削る寿命はわたくし自身ではなく、対象者自身の寿命に依存するのです。


 しかし、いくら説明してもみなさまは自分の寿命を削って、助かっている事実を受け入れてくれません。もちろん、あなたも。


 わたくしの寿命が先に潰えたのは、ただ単に、わたくしの寿命があなたより短かったことと、魔王討伐の旅で自身にかけた回復魔法が寿命を削ったからです。


 いずれ、分かることです。


 が狂いそうです。あなたがいない。悲しい。苦しい。そして虚しい。


 てんはどうして、こんな運命を授けたのでしょうか。さて、何度も私の回復魔法で生還し、戦い続けたレオ――あなたは、あとどれくらい生きられるのでしょう。


 また、残された仲間たちはどれくらい生きられるのでしょう。もしかして、女神は普通の人間より寿命が長い者を、魔王を倒す先兵として選別したのでしょうか。


 すべては、女神の知るところ――】


 遺言書を読み終わったレオは、顔を青くした。


 遺言書を渡した仲間は、この手紙をこっそり読んで、自分の寿命が残り僅かだという事実を悟ったのだろう。


 レオにも思い当たることがあった。


 ここ最近続いている不調は、慣れない王族教育のストレスではなく。もしかしたら――。

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