【1話から見直し中】スライムテイマーの異世界改革 ~スライムは意外となんでもできますよ? ご存じでない!?~
物部
プロローグ
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「ここは、どこだ……?」
気が付いたら周囲には何もない白い空間にいた。
記憶があやふやで、なぜここに自分がいるのかがわからない。
『気が付きましたか?』
どこからか綺麗な声が聞こえる。
その美声は凛としていて、耳が幸せだなんて今の状況にそぐわない感想を抱く。
揺り起こすかのような声に、あやふやだった意識がハッキリと覚醒し始める。
「俺は、死んだのか……?」
『はい、あなたは地球で亡くなりました。死因は伏せておきますね』
「ん? なんで伏せるんだ? それはそれで気になるんだが?」
聞こえる声に質問をすると、頭上から光が差してくる。
視線を上に向けると、美しい女性がゆっくりと降りてくるのが見えた。
腰まで届く夜空を思わせる髪色は黒。意志の強さを感じさせる金の瞳。
染みひとつない白磁の肌を包むのは、素人の目にも繊細だと感じさせる白い布だ。
たしか、トーガって言うんだっけか?
見た目だけで神様だと思わせるほどの美女が口を開く。
『突然のことで混乱しているでしょうから、今はこれからの話をしたいのです』
「これからの話?」
『はい。落ち着いて聞いてくださいね』
たしかに突然のことで頭が混乱している。一旦落ち着くことは大事だ。
こんなときは深呼吸だな。
すう、はあ、すう、はあ。……よし、少しだけだが頭がスッキリした気がする。
今までのことは一度置いて、この神様。いや、女神様の話を聞こう。
「続きをお願いします」
『わかりました。あなたにはこれから私が作った世界に転生してもらいます』
「あなたが作った世界ですか? それに、転生?」
『私の世界、トピアで生を受けてもらいます。つい先ほど、訳あって小さな童が亡くなりました。その子にあなたの魂を定着させます』
「な、亡くなった子供に俺がなり替わるということですか!?」
死んだという話を聞かされて、また生を受けるという話に驚く。
そして、話を聞く限りでは、俺は死んだ子供に憑依する形で生まれ変わると言う。
大丈夫なのだろうか?
『大丈夫、安心してください。その子はその身に宿す魔力の多さに身体が耐え切れなかっただけで、ほかは健康体のままですから。今は寝込んでいたせいで少し体力が落ちていますが、それはこれから授ける聖印に補ってもらいましょう』
「まりょく? せいいん?」
『トピアはあなたの世界でいうところの剣と魔法の世界です。魔力と呼ばれる精神力を消費することで、様々な魔法を扱うことが出来ます。あなたもすぐに使いこなせると思いますよ。そして、聖印は創世の女神である私が与える加護です。聖印はあなたの意思で隠すこともできます。普段は目立つので隠しておくといいですよ』
右手の甲に紋章のようなものが浮かび上がる。
これが聖印か。たしかに、このままだとすごく目立つな。
女神様に言われたように消えろと念じてみると、手の甲にあったものが消えた。
『聖印はトピアで生きるための知識、それからあなたに必要だと思う能力を段階的に与えます。……それで、ここからが大事なのですが』
女神様が言いよどむようにして顔を曇らせる。
なんだかおいしい話には裏があるっていう、よく聞く話になってきたな。
『加護を授ける代わりに、あなたにはやってほしいことがあるのです』
やっぱりな。それでいったい、この女神様は俺に何をさせようって言うんだ?
魔王を倒して世界を救え! みたいな争いごとは勘弁してほしいのだが……。
だが、女神様から言われたお願いは予想したものとは違ったものだった。
『あなたには私の世界の文明の発展をしてほしいのです』
「文明の発展?」
『魔法があるせいなのか原因はわかりませんが、あなたがいた地球のような文明にはなかなか発展しないのです。ようやく戦争が終わり平和になったのはいいのですが、私が当初想像していた理想郷にはほど遠いのです』
「それで? 俺はその世界に文化的な刺激を与えればいいってわけか?」
『はい、そうしてくれると助かります。それ以外ではあなたの好きなようにトピアで生活してもらって大丈夫です』
女神様の話で平和な世界に転生するとわかったのは朗報かもだな。
お願い自体もそんなに難しいものじゃなさそうだ。
生前、俺が何をしていたのかはまだ頭が混乱しているために一切わからない。
だが、要は地球みたいに女神様が作った世界を発展させればいいんだろ?
娯楽とか便利家電のようなものを持ち込めば、意外と簡単な気がする。
魔法もあるみたいだし、なんだか楽しそうだな。
依頼されたこと以外では好きに生活していいとも言われた。
なら、なるべく楽しく生活できるように頑張ってみますかね。
地球には娯楽なんて山ほどあったからな、どれを再現するか迷うくらいだ。
『それから、あなたが依り代とする身体の持ち主から伝言があるそうです』
「身体の持ち主からの、伝言?」
女神様が軽くしゃがみ、小さな頭を撫でている。
そこには女神様の足にしがみつくようにして、顔を覗かせる子どもがいた。
転生したら、俺はこの子になり替わるのか。
濃紺の髪色に、利発そうだが今は不安に揺れるアメジストのような紫の瞳。
そんな子どもが恐る恐る俺を見つめている。
『お兄さんがボクの代わりになってくれるの?』
話をしている口の動きと頭が理解している言語がちぐはぐだが、意味はハッキリと理解できた。
異世界の言葉を理解できているのは、たぶん先ほどもらった聖印のおかげだろう。
俺は彼の目線に合わせてしゃがむ。
「ああ、俺がこれから君の代わりになるようだ」
『お父様やお母様、それと兄様たちにボクが謝っていたとお伝えください。ボクからはそれだけです』
「そうか……。わかった、それだけでいいのか?」
『はい。ボクは家族には何もしてあげられなかったけど、それはこれからのお兄さんにお願いしようと思います。ボクの家族をよろしくお願いします』
「……わかった」
彼の目を見てしっかりと頷き、切ない伝言と願いを聞いて頭を撫でてやる。
撫でられて嬉しそうにする彼の代わりに家族に貢献してあげよう。
死んでなお、家族を心配する優しいこの子のために、家族は大事にすると決めた。
女神様が確認するようにジッとこちらを見ている。
それに俺は準備はできたと言うように頷いてから、子どもに「お別れだな」と短く告げて立ち上がる。
さて、覚悟はできた。あとは現地についてからだな。
『では、これからあなたの魂をトピアに送ります』
「わかりました」
『創世の女神プレナスの名の下に、この者の行く先に幸あれ』
身体が光に包まれていき、俺の意識がゆっくりと落ちていく。
沈んでいく意識のなか、小さな彼が叫んで俺に質問する。
『ボクはロイ! お兄さんの名前は!?』
「俺は――!」
返事が聞こえたかは俺にはわからない。
けれど、意識が完全に落ちる前に見えた彼の顔は満足そうに笑っていた。
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