第12話
「イーヒトちゃん」
「!!!!」
「って知ってる?」
「チッ、ビビらせやがって」
教室で突然健斗が話しかけてきた。
俺の正体がバレたのかと思ったが、例の如く魔法少女オタクが出ただけのようだ。
「知らん。誰だそいつ」
「魔法少女イヒトといえば今最も熱い魔法少女さ。相変わらずだな〜カレンちゃんは」
「別に魔法少女なんて知らなくても生きていけるからな。あとちゃん付けするな」
「カレンちゃん最近魔法少女に興味持ってたから食いつくと思ったけど、やっぱりカレンちゃんはカレンちゃんのままか」
そう言ってどこか残念そうに自身の席へと戻る健斗。
「俺が俺のまま……ね」
『レベル3の魔物が出現したそうです。魔法少女アオイが現場に向かっているそうですが』
「また1人で向かってんのか?どんだけ死にたがりなんだよ」
時計を確認する。
「また授業は遅刻か……」
俺は最近より冷たくなった先生からの視線を想像しつつ、学校の外へと飛び出した。
そして
「変身」
『花がないですね〜』
他の魔法少女はまるでアニメかのようにド派手に変身するが、俺の場合は瞬きの間に終了する。
「再度改めて言いますが、俺はあくまで魔法少女になれるだけの一般人です。そういうものをお求めなら別の魔法少女を頼って下さい」
『はいはい、僕が悪かったですよ。それより急がないと』
「分かってます」
魔力を込め、俺は空へと飛び上がる。
「はぁ、魔法少女なんて本当に面倒です」
連盟へ挨拶をそれから早数週間。
こうして人手が足りない場合、俺も魔物退治を手伝っている。
と言っても、あの3人はなかなかやるらしく俺が出動する機会は精々3日に一度くらいのものだった。
実績を立てなければランカーにはなれないらしいが、それの為に今の生活が崩壊しては元も子もない。
クソステッキの契約は時間制限があるわけでもなく、気長にやっていこうというのが今の俺の考えだ。
そうこう思いを巡らせていると、いつの間にか目的地へと辿り着いていた。
「結構やれてるじゃないですか」
下では既に魔物と魔法少女アオイが戦闘に入り、その状態は拮抗していた。
「これなら不意打ちで直ぐに終わりそうです」
『勿体ない、勿体ないですよ。ランカー入りを目指すなら世間にあなたの凄さを宣伝しないと。ほら、ド派手でプリチーな技で魔物を殲滅し』
「氷の棘」
『ああ!!』
俺の放った魔法が魔物を貫く。
弱っていた影響もあり、想像以上に容易く倒すことが出来た。
「帰ります」
『ちょ!!彼女こっちみてますよ!!』
「知りません。これ以上遅刻したら俺の学校での評価が地に落ちます」
『もう同じようなもんですよ!!』
ギャーギャーと叫ぶステッキを無視し、俺は学校へと戻ったのだった。
◇◆◇◆
「エニ、イヒトちゃんの協力の元魔物を撃退したわ」
『ご苦労様です。ルナとレナの方も丁度終わったようです。授業中だったにも関わらずすみません』
「いいのよ。勉強は連盟で学び直せばいいだけだもの」
『ですがせっかくの青春の時間を奪うのは心苦しいものです。特にアオイは最近魔法少女になったばかり。本来ならもっと時間をかけて成長させるべきですが』
「魔物が異常発生しているんだもの。仕方ないわ」
エニは申し訳なさそうに再度謝る。
これは平行線になるなと判断したアオイは話題を変える。
「それにしてもイヒトちゃん、やっぱり強いわね」
『ですね。他の追随を許さない圧倒的魔力量は勿論のこと、あの距離から精密に魔物を射抜く技術もさすがとしか言いようがありません。……ですが』
「何か気になることでも?」
『はい。気になる点が数多く存在します』
1つ
『これは報告でもありましたが、彼女の魔力の起こりが遅いというものです。有り余る魔力量でカバーしているものの、アオイの速度と比べればあまりに遅すぎます』
「それは私も感じていたわ。遠距離特化と言えば聞こえはいいけれど、なんだか違う気がする」
『属性魔法:氷ではない?いえ、それこそあり得ません。仮にそれが事実であれば、彼女の本当の実力は……』
ゴクリと誰かが唾を飲む音が響く。
『それだけではありません』
2つ
『彼女の行動には矛盾が数多く目立ちます』
「矛盾?」
『はい。誰が見ても分かるほどの人間不信。信じるという言葉は、彼女にとっては存在してはいけないかのような振る舞いは、とても放ってはおけないものです』
「ええ。だからこそ私達がこうして……ってあれ?」
『気付きましたか』
電話越しでエニが何かを飲む音が鳴る。
『そう。そんな彼女が何故アオイ達に協力してくれるのか』
「私達が死ぬことが気に食わないから……とか?」
『それも確かに理由の一つなのかもしれませんが、僕には何だか自然と人助けに進んでいるように感じるんです』
言っていることとやることがチグハグ過ぎる。
仮に偶然の賜物だとしても、人を信じない、それでいてしっかりと物事を判別する力がある彼女がそれ程まで自身の想定外への道を進むものだろうか。
3つ
『彼女の言葉遣い、違和感を感じませんか?』
「なんだか男っぽいことかしら?」
『それもですが、それ以上になんだか無理をして喋っているように感じたんです』
「無理矢理敬語で喋っているということ?」
『いいえ、むしろ逆です。わざと荒々しく喋っている。そう感じるんです』
あくまで感覚ですがと付け加えるエニ。
『何に関しても情報が少な過ぎるという話でもありますが』
「これからよ。いつかみんなが手を取り合って、それで笑い合えるようにする。それが私達魔法少女の使命なんだから」
『ふふ、その通りですね。やはりアオイを魔法少女にして正解でした。ところで話は変わりますが』
アオイは頭にはてなを浮かべる。
『学校、大丈夫です?』
「あ」
◇◆◇◆
「というわけでこうして連盟に来たってわけ」
「長い」
「長い!!」
アオイ含めた3人は現在、連盟が開く学校にいた。
魔法少女は当然殆どが中高生。
学校に通うことが当たり前の中、魔物に対峙するには当然ながらある程度の福利は施さなければならない。
魔物の討伐に向かった際にはその日の授業は全て出席として扱われる。
また連盟内での魔法少女専用の学校を開き、高水準の教育を提供するものなどがある。
わざわざ学校に通わず、連盟の学校のみに通う学生も少なくはない。
「アオイもこっちに転校しなよ。魔法少女だらけだから気を使わなくていいし、女の子だけだから気楽だよー」
「戦いたい時にいつでもバトれる。ここは天国か」
普通の学校には通わず、連盟に籍を置いている2人はアオイを勧誘する。
だが、アオイは首を横へ振る。
「前から言ってるでしょ。向こうには友達が沢山いて、ちょっとした思い入れもあるの。それに」
アオイは周囲を見渡す。
そこでは、皆が派手な髪色をし、様々な服装で着飾っている。
「何だか味気なく感じるのよ」
魔法少女の学校では、皆が既に魔法少女へと変身し登校している。
それは個人への追求を避ける為の、独自の制服と言ってもいいだろう。
その匿名性をありがたく思う人物もいれば、快く思わない人間もまた存在する。
アオイにとってはそれが後者だっただけだ。
「だから、私はやっぱりここには通わないわ」
そんな言葉に、ルナとレナは仕方ないなと表情を浮かべる。
「あーあ。せっかくアオイと登校出来ると思ったのに」
「それならルナが私の学校に来るといいじゃない」
「えー。今から馴染めるかなぁ」
そんなたわいもない話をしていると、突然教室の扉が開いた。
「おーいお前らー。一回席つけー」
中へ入って来たのは、アオイ達のクラスの担任である國枝。
既に成人を迎えてはいるものの、未だに魔法少女として活躍する人物の一人である。
「ちゃんと席に着いたな。魔法少女だからってリアル空気椅子しちゃダメだぞー」
そう言いながら教卓の前で何もない空間に腰を下ろす國枝。
どこから突っ込めばと皆が思考する中、お構い無しに話を続ける。
「さてお前らも薄々気付いていると思うが、最近妙に魔物の活動が激しい。これは良くない兆候の前触れだと上の連中は考えている」
それは、魔法少女全員が感じてきていたことだ。
「この未曾有の事態。下手をすればレベル6……いや、レベル7の魔物出現を予期しているかもしれない」
レベル7
その言葉に魔法少女達は僅かばかりに身震いをした。
それは言わば災害。
人類の存続さえ危うくする程の脅威を持った化け物だ。
そんなものが現れるかもしれない。
それが例え小さな可能性だろうと、恐怖を感じるには十分だった。
「ここまでの話を聞いて、おそらく察しがついているだろう」
「まさか、本当にレベル7の魔物が現れ」
「そう、今日は転校生を紹介する」
全員が一斉に思った。
は?と。
「というわけで今日からクラスメイトとなる」
「んんん!!!んんん!!!」
「イヒトだ。仲良くしてやれよ」
口を閉ざされた少女は、必死に何かを叫ぶも、それが言葉となすことはなかった。
「んん!!」
されど、その場にいた人物へと目線を送った。
それを受け取った少女は何かを確信し、大きく手を挙げた。
「先生!!」
「ん?どうしたアオイ」
「私」
アオイは大きく息を吸い
「私今日から学園に通います!!」
元気一杯に答えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます