第5話

『謎の魔法少女が現れて早一ヶ月が経とうとしていますが、凄まじい勢いですねー』

『この短時間で彼女が倒した魔物の数は100を越えようとしています。更にその中にはレベル3の魔物も含まれているそうで』


 ニュースは今日もまた、謎の魔法少女について報道していた。


 それをファミレスで聞いていた3人の少女の顔は、どこか浮かないものであった。


「何というか……助かるけど、何もしないでお金貰うのもなんだかなー」

「それに、実績が積めない。このままじゃランカーなんて夢のまた夢」

「……」


 魔法少女にはそれぞれ担当となる地域が存在している。


 魔物の強さをレベル別に決められ、最低の1から最高の7まで存在し、各地域には最低でもレベル3までの魔物を倒せるだけの戦力が出揃っている。


 だからこそ、経った3人であるにも関わらずその地域を任されていた彼女らにはある程度のプライドがあった。


「このままってわけにはいかないんじゃないかな」

「私もそう思う。野良であること、私達にも事情があること。その辺を詳しく彼女と話してみたい」

「……」

「葵?ずっと黙ってるけど大丈夫?」

「え!!」


 話しかけられた少女、葵はハッとしたように顔を上げる。


「ご、ごめんなさい。少し考え事をしていて」

「珍しいね、葵がボーッとするなんて」

「玲奈はいつもボッとしてるけど」

「私は関係ないでしょ!!」


 玲奈と呼ばれた少女はイジけたようにテーブルに置いてあるポテトを食べる。


「それで、葵はどうしたの」

「……大したことじゃないの。ただ、あの子が目的が見えなくて」

「そういえば葵は例の魔法少女に会ったことがあるんだっけ!!どんな見た目なの?」

「あ」


 尋ねた玲奈、そして直ぐにそれが悪手だと気付いた少女、早月は深くため息を吐く。


「天使よ」

「……ん?」

「玲奈のバカ」

「あの子は天使の生まれ変わり!!雪のように真っ白な肌、吸い込まれそうなくらい綺麗な翠色の瞳、そして絹のように滑らかなあの金髪は、正に世界遺産に残すべき美しさを持っているわ!!」


 それから怒涛の勢いで喋り出した葵の様子に、2人はただただ呆然とするしかなかった。


「ハァ……ハァ……どう?伝わった?」

「……うん、十分すぎる程」

「これを2回聞くハメになった私に誰か同情して」

「葵って普段は真面目でしっかりしてるのに、小さい女の子の話になると……なんか怖いよね」

「そもそも魔法少女に興味を持ったキッカケが小さな魔法少女を見てかららしいし」

「うわぁ生粋じゃーん」


 冷たい目線を向けられた葵は少し恥ずかしそうにするが、コホンと咳払いをする。


「そう、あのプリティーキュートな魔法少女に会った私だからこそ、分からないの。多分だけど、あの子の性格は自ら魔物を倒す性格とは思えない」


 葵はあの日の出来事を思い出す。


 ほんの少しだけしか話さなくても分かることがあった。


 あの魔法少女の生き方は閉鎖的だ。


 人に対してあまりに淡白であり、あの時見せた自分との間に生み出した氷の壁には、魔物を攻撃した時よりも絶大な魔力が込められていた。


 他者を絶対に重んじない。


 信じることが出来るのは自分だけ。


 そんな体も心も小さなあの子が、果たして積極的に魔物を倒すかと言われたならば、葵は迷うことなくNOと答えるだろう。


 だからこそ、最近活発的に活動する彼女の目的があまりに不鮮明過ぎるのだ。


「その年齢で野良の時点で何かしら理由があるんでしょ。少なくともあの強さは普通じゃない、それだけはわかってる」

「まずは何より会ってみないと何も始まらないよね。私としては一緒に戦いたいなーなんて」

「私もよ。例えどれだけ強くても、あの子はまだ子供。私達が守ってあげないと」


 全てはあの魔法少女に会ってから。


 そう結論づけると同時に、まるで世界が導くように


「「「魔物」」」


 3人の携帯が同時に鳴った。


『丁度よかった、3人とも一緒だったんですね』

「なんか久しぶりに電話来た気がする」

『最近は例の魔法少女が倒してましたから……。それより急いで下さい。あなた達のいる場所から丁度北に1キロ、そこに魔物が現れました』

「レベルは?」

「3です」

「多いわね、最近」

『そう……ですね』

「?」


 どこか歯切れの悪いエニを不思議がるが、葵は特に気にせず立ち上がる。


「さぁ、行きましょう」

「ひさびさ」

「いっちょ暴れてやりますか!!」


 3人は外に飛び出し、一斉に叫んだ。


「「「変身」」」


 ◇◆◇◆


「目標を捉えたわ。体長およそ3メートル、分類はゴーストよ」

「「了解」」


 魔物には大雑把に分けて三つの種類が存在する。


 一つは獣型。


 身体能力が高く、主にその爪や牙といったものを武器に攻撃してくる魔物。


 感情的で分かりやすいが、その分戦闘能力事態が極めて高い。


 二つ目に機械。


 動きが緩慢だが、遠距離攻撃の手段が豊富であり体に纏う装甲も硬く並の攻撃には通じない。


 火力のない魔法少女であればそれだけで詰むと言われるほどである。


 そして最後に、ゴースト型。


 身体能力も低く、防御力も低い。


 一見弱そうに見えるが、最も攻略が困難な魔物としても有名である。


 その理由は


「魔法効かない!!こいつ遠距離魔法無効だ!!」

「これで玲奈が戦力外」

「いや近接攻撃もできらい!!」


 そう、ゴースト型は特殊な能力を有しているのだ。


 今回のゴーストの特徴は遠距離魔法の無効化。


 つまり


「私の出番ね」


 近接戦闘、しかも魔法ではなく物理的攻撃に特化したアオイが攻め込む。


「サポート任せて」


 ゴーストの浮遊する手を弾き飛ばす魔法少女ルナ。


「なんで2人だけで戦ってる感出してるの!!」


 後ろから大声で騒ぐ魔法少女レナ。


「ハッキリ言っておくわ魔物。悪いけど私達」


 魔物の体が綺麗な線を描き


「強いの」


 消え去った。


「いやーうん、なんだろ。アッサリし過ぎてなんかビミョー」

「相性が良かった。元々アオイは新人だけど弱くはない。ただそう……今まで運が悪かった」

「悪かったわね!!最近負けっぱなしで!!」


 アオイの強みはそのスピードを活用したもの。


 その為相性が有利であれば、正に一方的な勝利を掴むことが出来る。


 逆に言えば相性が悪い場合、特化した戦闘スタイルというものは簡単に瓦解するものである。


 だからこそ魔法少女が単独で戦闘を行うことはない。


 どれだけ強くても、絶対が存在しない場所で生きているのだから。


 そう、だからこそ


「でも、なんで魔法少女Xは現れなかった?」

「X?」

「そう、名前も不明だから」


 疑問に思ったルナだったが、直ぐにその疑問は解消されることになる。


『気を付けて下さい!!魔物が接近しています!!』

「えぇ!!」

「丁度いい。消化不良だった」

「油断しないでねルナ」


 そして告知通り、確かに魔物は姿を現した。


 その姿は巨大な翼、強固な鱗に身を包み、その口から見える凶悪な牙を持ったドラゴンのような見た目であった。


 その強さは下手したらレベル4すらもあり得る程の凶悪性。


 仮に正面から衝突した場合、負けていた可能性があっただろう。


 だが、今回に限っていえばそれらは全て杞憂に終わるだろう。


「なんだ」


 巨大な腹を撃ち抜く巨大な氷塊。


 その上に悠々と立つ少女は


「もう終わってましたか」


 無表情に口ずさむのだった。

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