第2話
『結局カッコいい台詞つけたんですね』
「うるさいです」
魔物は倒した。
もうここに用はない。
「帰りますよ」
『あれ?いいんです?今あの魔法少女の元に行けば王子様として惚れられるチャンスなのに』
「そんなんで落ちるバカがいますか。それに、俺は魔法少女と関わる気なんかないんですよ」
『そんな!!あんな可愛い少女達にですか!!』
「お前の趣味は聞いてねーんです。分かったらさっさと帰りますよ」
『はーい』
この時俺は気付くべきだった。
自然とこのカスを受け入れていること、そして
「あの女の子……」
魔法少女がどれだけ頭のおかしい存在かを。
◇◆◇◆
「エニ、聞こえる?」
『聞こえていますし見えていますよ』
魔法少女は電話越しに巨大な氷のツララへと近付く。
『凄まじいですね。間違いなく属性魔法:氷でしょう。でなければこれ程の力は出せませんし、だとしても相当強力ですね』
「ええ、やはりランカーの人かしら」
『どうでしょうか。確かに目を見張るものではありますが、ハイランカーと比べると一段劣るかと。それに、トップ層の魔法少女がいるという情報は来てませんね』
「じゃあもしかして」
『はい、おそらく野良の魔法少女かと』
野良の魔法少女。
その多くはステッキと契約し、私利私欲の為に魔法を使う者が多い。
「最近見たってことは、連盟に登録してないわけでしょ?」
『そうですね。ステッキなら必ず魔法少女連盟の存在を伝えるはずです。それを無視して活動しているということは』
「結構危ない……ってことね」
魔法少女は顔を顰める。
『彼女は相当な実力者です。アオイ、くれぐれも1人では接触しないよう』
「ええ、でも許せない。せっかくみんなを守れるだけの力があるのに、それを全部自分の為に使うなんて」
『人とはそういうものです。誰も彼もがアオイのように清く正しく生きられないのですよ』
「……分かってる。だからこそ、もっと頑張らないと」
『そうですね。とりあえず戻って怪我の治療をしましょう。応援してくれた皆さんもきっと心配していますよ』
「ありがとうエニ」
電話を切り、魔法少女アオイは静かに思いをたぎらせるのであった。
◇◆◇◆
『お、早速ニュースになってますよ。謎の魔法少女登場。氷の魔法が天から降り注ぐ!!ですって』
「お前どうやってニュースなんか見てるんです?手も目も携帯もないのに」
『ステッキですので』
明らかにテレビも携帯もないのにおかしな情報を掴むキモ生物。
早く死なねぇかなぁ。
『うーん、ですがやはり世界中にこの金髪幼女を公開出来なかったことが悔しいですねー』
「一生してたまりますか。俺がこんな姿になってるなんてバレたら社会的に死んでしまいます」
『えーむしろ大歓迎でしょう。というか世界中の生き物全てが幼女になった方が世の為じゃないです?』
「死んで下さい」
とりあえず空を飛びつつ、自分でも魔法少女について調べることにした。
このステッキの情報は信用ならんし、これ以上後手に回ったらたまったもんじゃない。
「えーと……へぇ、魔法少女ってランキングがあるんですね」
『ですよー。まぁ100位までしか載ってませんが、魔法少女の数なんて数が知れてるのでランカー入りくらい簡単ですよ』
「ふーん……待って、まるで俺がこの中に入るような口ぶりで喋りますね」
『別に入れってわけじゃないですけど、あなたの強さなら自然となるでしょうし』
いや俺ってそんなに強いのか?
他の魔法少女がどんなもんかは知らんが、さすがに男の俺が強いとは考え辛いな。
「参考にランカーって人の動画見てみますか」
俺は魔法少女ランキング5位のハレという奴の戦いを見てみる。
「……これ大丈夫なんです?」
目の前には家一つ分程の大きな魔物。
それが足早に動き、ポツンと立っている少女へと近付いていく。
動体視力の上がった俺でさえ認識することがやっとだ。
「これまさか、速すぎて気付いてない?」
ハラハラドキドキしながら画面を見る。
魔物がフェイントを織り交ぜ、遂に魔法少女の目の前へと接近した。
そして次の瞬間
「危!!……おぉ」
魔物の爪が魔法少女を切り裂こうとした瞬間、その爪が切れる。
その伸ばした腕も切れ、そして最後にはその巨大な体全てがバラバラと崩れ去った。
これは……うん。
「俺より全然強ぇ〜です」
なんだよ、ランカーすげぇじゃん。
というか初めて魔法少女の戦いを見てみたが、案外面白いな。
『どうです?魔法少女になってよかったですよね』
「それはないですが……まぁ案外戦うのは面白そうですね」
『それは何よりです。では、これからも魔物狩りを頑張って行きましょー』
「生きるためです、しゃあなしってやつですね」
俺はそのままコンビニで夕ご飯を買い、その日は家族にも会わずに静かに過ごすのであった。
◇◆◇◆
それから3日が経ち、月曜日となった。
こうしてまた、学校という地獄が始まるのだった。
『いやーそれにしても驚きましたね。まさか本当にこの3日一度も魔法少女に変身しないとは』
「当たり前だろ。誰が好き好んで魔法少女になんかなるか」
『別に素直になってもいいんですよー。安心して下さい、お風呂の時間はいつも席外してますので』
「お前は一回マジで死ね」
「おーいカレーン」
セクハラゴミステッキをバッグに詰め込む。
『だから僕は他の人には見えないから大丈夫ですよ』
「お前のことは信用ならん」
『酷い!!』
どっちの台詞だクソ野郎が。
それはさて置き、朝から面倒なのにあっちまった。
「よっす、おはようカレンちゃん」
「俺のことは宮下って呼べって言ってるだろ。あとちゃん付けはマジでやめろ」
「オッケー分かった。ところでカレンちゃん知ってる?3日前、近くで新しい魔法少女が現れたって話」
「知らん」
相変わらず話を聞かない奴だ。
普段ならひたすら面倒な奴だが、今日に限って言えば少しありがたいかもな。
「なぁ健斗。少しいいか」
「何?」
「魔法少女について聞きたいことがある」
「……え?」
ぽかんとした顔をする健斗。
コイツは生粋の魔法少女ファンであり、いちいちネットで調べるよりコイツに聞いた方が早いと思ったが、なんだ今の反応。
「何だ、なんか変なこと言ったか?」
「いや、まさかカレンちゃんが魔法少女に興味持つなんて意外で」
「漫画の延長線みたいなもんだろ」
「だとしても、カレンちゃんが現実に興味持つなんて……今日は槍でも振るのかな?」
一発ぶん殴ろうかと思ったが、そっちの方が後々面倒そうなのでやめることにした。
それよりも今は
「お前の驚きは知らんが質問には答えろ。魔法少女になって一ヶ月以内にやめた奴っているのか?」
「まさかカレンちゃん、魔法少女30日契約説を知ってるの?」
なんだそれは。
「魔法少女になって30日以内に辞めた魔法少女が存在しないことから名付けられたものだよ。だから界隈だと魔法少女は必ず一ヶ月以上は続けないといけないって予想になってるんだ」
「ふ〜ん」
結局、30日はこのままってわけか。
まぁその間に俺が魔法少女だってバレる可能性なんて限りなくゼロに近いだろ。
我慢するしかない、か。
「他にも聞きたいことがあってだな」
「いやーカレンちゃんが魔法少女に興味持ってくれて嬉しいな。だからこそ、ここは僕以上に魔法少女に詳しい人を紹介させてくれない?」
「お前より詳しい?」
このガチオタク以上に詳しい奴がいるのか?
「まぁ……お前より詳しいってんなら」
「そっか、よかった。って、噂をすればなんとやらだ。早速呼んでみよう」
「あ?俺にはただの人混みしか見えんが……おいまさか!!」
健斗は手を大きく広げ
「おーい!!葵ちゃーん!!ちょっとこっち来てー」
俺は全力で廊下を走り出した。
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