第3章 異世界に来てみたら

第48話 ダンジョンの外

 夢を見た。


 テレビにお母さんが出ている。


「ごめんね、お母さんたちが悪かったわ。だから帰ってきて……。もうどこにも行かないわ。家にいるから。お願い」


 お父さんに支えられながら、ハンカチで涙を抑え、そして訴えている。

 アナウンサーにマイクが戻る。


「相原優梨さん。お父さん、お母さん、テレビには出ていませんが、控室にはお姉さんがいらしています。皆、あなたに会いたがっています。優梨さんは気がとても優しくて、家出をするようなお嬢さんではないということです。もしかしたら事件に巻き込まれて、帰りたくても帰れない状況なのかもしれません。

 カメラさん寄ってください。これが優梨さんの写真です。視聴者の皆さん、力を貸してください。このお嬢さんを見たことがある、見たかもしれない、優梨さんの情報ならなんでも結構です。今から1時間受け付けています。こちらの番号まで情報をお寄せください。そしてこちらのアドレスではインターネットからの情報も待っています。よろしくお願いします」




「優梨、優梨」


 ハッとして目を開ければ、健ちゃんとプペに覗き込まれていた。


 ああ、夢だ。夢を見ていた。小さい頃見た、行方不明者を探して欲しいと訴えるテレビ番組。その行方不明者がわたしになり、家族がわたしの家族に変わったものだ。こちらに来てから何度となく見た夢。


「お前がうなされてたからだと思う、プペに起こされて呼ばれた」


 隣の部屋から来てくれたんだ。


「ごめん、ふたりとも起こしちゃって」


「いや、もう朝だし」


 健ちゃんが見えない壁の外を見やる。


「怖い夢か?」


「そうだったのかも。でも起きたら忘れちゃった」


 わたしはうそぶいてから伸びをして、体を解した。




 わたしたちが界渡りをして3ヶ月ほどが過ぎた。

 それぞれスケジュール帳を買って、向こうの日付で日記のようにあったことを書きつけているから確かだ。今日は元の世界は10月13日のはずだ。

 って、向こうと時間の流れが同じだった場合だけどね。


 わたしと健ちゃんのことはどうなっているんだろう。行方不明、神隠し。ふたり一緒にいなくなったことから、何かふた家族の間に起きていないといいのだけれど。

 でもこれはもう考えても仕方ないので、考えないようにしている。

 焼きダンアプリは使い放題なのに、電話、それからメールなどは機能しなかった。




 最初の3週間は何もする気にならず、ボーッと過ごした。

 そしたら、マスターさんに訴えられたんだよね。


『優梨、健太、お願いがあるのです』


 朝食を食べていると、マスターさんが悲壮な声を出した。


『早く魔物を倒してください。このままでは私は枯渇して野良ダンジョンになってしまいます』


 野良ダンジョンって……。


『もし私が野良ダンジョンになって、意識を失い優梨たちのことを忘れたら、二度とあなたたちはあの世界に帰れなくなってしまいますよ?』


 健ちゃんと顔を見合わせる。


「それってどういうこと?」


『言葉の通りです。一度野良になってしまうと自我が消えてしまうのです。優梨のことも健太のことも忘れ、異界に渡っていたことも忘れてしまいます。そうしたら、元の世界に帰れる可能性が消えてしまいます!』


 それは困るので、わたしたちはダンジョン攻略を再開した。

 結構な量の魔物を倒したのに、マスターさんの反応は良くない、

 どうもわたしたちの世界よりエナジーが溜まりにくいみたいだ。

 というか、推測なんだけど、その世界のものが戦う方がエナジーが溜まるんじゃないかというのだ。

 わたしたちがよく飲み込めずにいると、詰まるところ、現地人を呼んできて魔物を倒させないと、野良ダンジョンまっしぐらだというのだ。


 現地人って現地人?

 わたしたちにダンジョンから出て、人を呼び込んで来いって?

 異世界人とコンタクト?

 それはやっぱり、興味深い反面怖くもある。

 だって考え方とか全く違っていて、いきなり捕らえられたりしたら怖いじゃん?

 何があるかわからないし。

 でもマスターさんのいう通り、エナジーを集めないとだから、わたしたちは異界人との初コンタクトを試みるためにダンジョンから出た。





 外の空気を吸いにテントから出る。

 キンと冷えた空気。

 北海道より寒いんじゃないのかな。北の方らしい。

 元々マスターのダンジョンのあった場所は、もっと寒いって言ってた。そこのことだったらわかるけれど、ここはその大陸でもないらしい。わたしたちという異物が入り込んでしまったために、違う座標に落とされたのではないかという見立てだ。でも南の方に向かって3日ぐらいのところに人族がいそうな気がするというので、わたしたちは南に向かっている。

 2日歩いてきたので、今日は異界人と会えるかもしれない。


 マスターさんのいう通り、ダンジョンの周りには魔物はいなくて、獣は出たけれど難なく倒すことができた。こちらの世界に来てから、健ちゃんが空間魔法、わたしが鑑定の力が生えたので、なかなか快適に過ごせている。

 ネットショッピングしたテントに健ちゃんの空間魔法で広げ、中は3DKの部屋のようになっている。ベッドも入れているので背中が痛くなることもない。キッチンのお水のタンクもトイレにしても、空間魔法でダンジョンの住処と繋げているので、何不自由のない暮らしができた。昨日まではバイセーで走ってきたけれど、ここからはいつ人に出会うかわからないから歩いて行った方がいいだろう。


「今日は、人に会うかな?」


 健ちゃんがあくびをしながらテントから出てきた。


「異世界交流だよ! すごいよね?」


「一応、確認だけど、〝設定〟覚えてるよな?」


「うん。わたしたちはツワイシプ大陸のユオブリアの民で、素材集めの安全と言われているダンジョンに入ったら、中が揺れて、ダンジョンから出たら見覚えのないところに出たんだよね」


「そうだ」


 ダンジョンをみつけたら国に報告するのがセオリーらしいので、その報告も兼ねるんだとか。



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3章では、週2回投稿を目標とします。

よろしくお願いします。

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