第46話 進捗100%(前編)
頭に響いてくる声は優しそうだった。
その声の持ち主はダンジョンマスターだという。
界渡りをしてきたダンジョンで、元の世界に帰りたいからエナジーを集めているそうだ。エナジーはダンジョン内の魔物を倒したりすることで、蓄積されていくらしい。
今までもずっとわたしたちに話しかけていたそうだ。やっと言語の相互理解が100%に達成したという。
「ここ、ローストダンジョンっていうんですか?」
『いやだな、おふたりがそうつけたんじゃありませんか』
健ちゃんが吹き出す。
どうもドローンさんへ記憶させたあれこれを参考にしたようだ。
わたしはロストダンジョンと言ったのに。ローストダンジョンになっている。
焼いたダンジョンって、何だそれ。
異界人との初コンタクトだったので、名前をつける名誉を与えたと、よくわからないことを言われる。
そういえば、初めて入ったときにそんなことを言われたような……。
《なぁ、これもやらせなん?》
《もう、ドラマじゃん。いいんじゃん? ドラマとして楽しめば》
「ダンジョンマスター、あなたは俺たちの敵ですか? 味方ですか?」
「て、敵?」
健ちゃんの言葉に、わたしは慌てて布団叩きで身構えた。
声はするけど姿はなし。どこに矛先を向ければいいのかはわからなかったけど。
「マスターっつってもダンジョンだろ。要するに魔物だ」
《クマ、すげー。確かに》
《確かに》
『ひどいですねー。今までどれだけあなたたちに尽くしてきことか』
「尽くして?」
『そうですよ〜。場を整え、優しいといいというから、優しさを学びました! 武器を強くして、魔物を選んで通しました。どれだけ優遇してきたか。それも、あなたたちにエナジーを集めて欲しいからです。マスターであっても、自身でエナジーを集めることはできませんから』
「え、武器を強くして切れたのマスターさんなんですか?」
「ひょっとして、アプリも?」
健ちゃんが言った。
あ、焼きダンってアプリ。
『そうですよ。健太と優梨が欲しがっているので、できることはしてきました』
わたしと健ちゃんは顔を見合わせる。
「魔物だけど、わたしたちを攻撃はしない?」
『何で攻撃するんです。エナジーを集めていただける唯一の異界人なのに』
《何話してんだよ。スッゲー知りたい》
《あのアプリダンジョンマスターが用意したって言ってるっぽいよな》
《ダンジョンってそんなことできるの?》
《換金もできるようになってたよな?》
《ダンジョンがそんなシステム作れるってこと?》
『健太と優梨はアイテムボックスが欲しいんですよね? 5階まで降りたら、差し上げますよ』
わたしたちはまたまた顔を見合わせる。
「あの、アプリとか、武器を強くしてくれてありがとう。とても助かったの」
わたしはなんとなく上の方を見て、お礼を言った。
「それから、ここにポーションを置いてそれをおばーちゃんに飲んでもらったら、とても良くなったの。本当にありがとう」
『それは私のしたことではありませんよ。普通のダンジョンならエナジーが溢れる場所ですからね。物も普通に威力を発揮します。優梨たちが持ち込んでいるものはダンジョンの遺品でした。だから力がなかったのです。それをこの活ダンジョンに入れることで本来の姿となったわけですよ』
「どういうことだ? ダンジョンの遺品って」
『界渡りをした時に、ダンジョンの核が破損したのでしょう。だからこの世界のダンジョンはダンジョンの死骸のようなものなのです』
「……ダンジョンが死骸……」
《ど、どういうこと、何言ってんだ?》
「あなたは活ダンジョンってこと?」
『はい、そうですよ。喋っているでしょ。私は核が壊れなかったんです』
「健ちゃん、ロストダンジョンの話は本当だったんだ。世の中にあるダンジョンはもう核が壊れたダンジョンで、このローストダンジョンだけ、生きてるダンジョンなんだ!」
「だからこのダンジョンのドロップ品や魔石は高エネルギーなんだな!」
《何、言ってんだ、こいつら》
《だ、だからドラマなんだよ》
《そうだよな。小説みたいなこと言ってるもんな》
「わたしたちを強くしてくれているのも、マスターさんですか?」
『それは違います。活ダンジョンですから、経験値は普通に入ります。他と違って。だから成長が著しく思えるのでしょう』
「活ダンジョンだと経験値が普通に入る、か」
《何だと?》
「わたしも強くなったって感じるけど、ステータスボードで調べても変わりはそんなにないんです」
『ステータスボード? ああ、よく冒険者が見る、数値化したものですね。最初よりずいぶんふたりとも強くなってますけどね』
「え、わたしたちのステータスがわかるんですか?」
『そりゃ、私はマスターですから。ボードを見てみればいいじゃないですか』
「国のダンジョンに行かないと見られる機械がないんです」
『冒険者たちはみんなボードを召喚してますよ』
「はい?」
『ステータスオープンと唱えればいい』
え?
健ちゃんと目を合わせ、モジッとしながらもわたしたちは唱えた。
「「ステータス、オープン」」
透明のアイパッドみたいな画面がわたしの前に現れた!
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