第44話 進捗63%

「泊まることが出来れば、もっと下まで行けるのにね」



《アリス、それはまずいだろ》

《なんでだよ、こうやってずっと配信してれば問題ないじゃん》

《配信してるのわかってるならいいけど、配信に気づいてないのに、生活ずっと垂れ流しはそれはそれで……》



 3階までは降りられるようになったが、夜までに地上に戻るには、そこまでが限度だった。下に降りるごとに魔物は強くなっていったけれど、プペがいるから負けることはなかった。


 テントも買ってあるんだよね。

 わたしたちはダンジョンに泊まるのなんでもないけど、おばちゃんに正直に言えるかというと、言いにくいから、それはやはり良くないことかっていう自覚があるのだろう。


『もっと下に行きたいんですか? よい心がけです。ふたりのやる気が嬉しいです。優遇したかいがありました!』


「プーペ」


 プペが嬉しそうに鳴いたけど、何が嬉しいのかはわからない。





 帰り道で出くわした真っ白なツノの生えたライオンみたいのも、そう手こらずに倒すことができた。魔石とドロップ品が転がる。




《テプロス、瞬殺かよ》

《成長の度合いがおかしくない?》

《それ言ったら、あの武器も、何もかもだよ》

《それにしても、アリスとクマはいったいいつ配信していることに気づくのかな?》

《視聴者もかなりな人数になったからとっくにボーナス出てるはずだよな?》

《ペイだってかなり入ってるはずなのにな》

《本部の人も、この配信チェックし出したって聞いた》




「優梨、どれ持ってく? 早く決めろ」


「どれもほしいけど、ガーちゃん来てくれないかな?」


「2時間前に来たからな、今頃またどっかでいろいろ吸い込んでるんだろ」


 試しに持ち込んだ掃除機は、目論見通り進化した。ガーちゃんは、物を溜めておくことができるので重宝だ。ダンジョンに入っているときは時々来てもらって、ドロップ品や魔石を持っていってもらってる。最後に入り口で受けとる。


「あー、アイテムボックスほしい」


「ないものねだりしてもしゃーねーだろ」


 それはそうなんだけど。


『5階までおりたら差し上げますよ』


「これを換金するのに、行かなちゃいけないのが面倒だね」


 ウチダンジョンの方が強くなれる気がするから、こっちをメインにしている。

 夏休み前までに強くなっておきたいからね。

 一気に換金はできないし。そこもめんどくさい。


「それな。いっそうのこと、アプリで換金できたらいいのにな」


「ああ、焼きダンで?」




《また、何言ってんの、こいつら?》

《あ、見てないんですか?》

《何をですか?》

《このダンジョンの中でネットショッピングするんですよ、アリスとクマって》

《え? ああ、このダンジョンは深くなくてケータイが通じるってことですか?》

《5.5配信見るといいですよ、ぶっ飛びますよ》

《5.5ですか?》

《ダンジョンの中でネットショッピングすると、次の瞬間、届くんですよ。買ったものが》

《冗談、ですよね?》

《そういうライブ映像が出るので、人気なんですよ。予想がつかない》

《ヤラセだってわかればスッキリするのに、なんか見ちゃうんだよな》




「そうやって換金できれば、国のダンジョン行かなくてすむじゃん? そしたら、こっちに集中できる」


『……換金できれば他のダンジョンに行かなくて済むんですか? そしたらこちらに集中できて、今まで以上にエナジーを集められるということですか……』


「換金できたら、魔物を倒して手に入った魔石とドロップ品を売るでしょ。お金が入るでしょ。そして焼きダンのアプリで物を買う、届く。もうダンジョンの中で暮らせちゃうね」


「プーペ!」


 プペが嬉しそうに鳴いた。触手を出してきたのでハイタッチしてみた。


『ダンジョンの中で暮らす……なるほど、そんなエナジーを集めることに積極的だったんですね。換金はちょっと高度になるので面倒ですが。やってみますか!』




《なんかそういう小説ありそうだな》

《ダンジョンの中で暮らせちゃうか、そうなったらすげーな》

《国のダンジョンってどこの行ってんだろう? 札幌かな?》

《この暑いのに、長袖の厚手の着てますしね》

《北海道でもあの格好暑くねー?》




「プぺぺぺぺぺぺぺ」


「プペ、どうしたの?」


「優梨!」


 健ちゃんに抱きかかえられる。地響きが聞こえる。

 わたしたちは固まってあたりに目を走らせる。

 なんかおっきい魔物が来るとか?


『よし、多分できたと思います』


 ピロピロピロピロ〜


「な、なんの音?」


「ケータイからしなかったか?」


「ケータイにこんな音あった?」


 わたしたちは揃ってケータイを開いた。


「プーペッペ」


 あれ、なんか焼きダンのアプリが点滅してる。


「健ちゃん、アプリ点滅してる……」


 アプリを開くと。


「優梨、見たか?」


「見た」




《えー、何、何? 何が起こってんの?》

《まさかこの流れ、換金できるようになってるんじゃ》

《え、アプリで換金?》




 健ちゃんがゴクリと喉を鳴らした。


「やってみるか?」


 健ちゃんはケータイを操作する。

 恐らくアプリ内の換金ボタンを押したんだと思う。


『何を換金しますか?』


「「しゃべった」」




《誰が?》

《何言ってんの?》

《ふたりには何か聞こえたのか?》




 健ちゃんはわたしを見て頷く。


「この魔石を換金したい」


『翳してください』


 健ちゃんは魔石をケータイに見せるようにした。

 魔石にスキャンされるように光が当たった。




《な、どっから光!?》





『日本円で2050円になります。換金しますか?』


「換金します」




《消えた!》

《消えた!!》

《嘘だろ?》

《消えた?》

《消えた!》

《うっそぉおおおおおお》

《消えた!!!!》




「お、2050円、残高が増えた」

 健ちゃんと目を合わす。

 嘘みたい! アプリで換金できちゃった!




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