92 聖教会最強と冒険者最強

まえがき

今回はちょいちょい登場したS級冒険者――アルムガルドが再登場します。

全身フルメイルの人類最強と呼ばれているあいつです。


※3人称視点になります。

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「本日はお忙しいところ、わざわざお越し頂きまして、まことにありがとうございます――アルムガルドさん」


「お気になさらず。ワタシは冒険者です、依頼であれば大陸の果てだろうと向かいますよ」


「ふふ……流石はS級冒険者――頼もしいお言葉ですわね。先日の大規模ダンジョン崩壊の際のご活躍も、聞き及んでおりますわ」


 王都で最も目立つランドマークが何かと聞かれれば、満場一致で王都民は中央にそびえ立つ王城と答えるであろう。


 では2番目なら?

 それも満場一致。


 王都中央区にそびえる聖教会の総本山――【大聖堂】である。


 その大聖堂の応接間にて。

 人外の領域に到達した強者が2人――ローテーブルを挟み、向かい合うようにソファに腰を下ろしていた。


「して――早速本題に入らさせて頂きたいのですが――シド・ラノルスというシカイ族のことをご存じでしょうか?」


「無論――彼のことなら知っています。少なからず縁のある青年です。最も――今の王都民で彼の名前を知らない者を探す方が難しいと思いますがね」


 片側のソファに腰掛けるのはこの会談のホストである《聖痕の騎士団ナイツオブスティグマ》が《聖痕之弐》――ヨハンナ・ホーエンツォレルン。

 齢70という高齢にも関わらず、若かりし頃の美貌の面影を、色濃く残す上品な佇まいの白髪の老婆。


「あら、名前だけでなく、ご縁が?」


「ええ。【藍蘭湖あいらんこ】というA級ダンジョンでたまたま鉢合わせしましてね。ワタシと同じソロ冒険者だったので、よく覚えております」


 対面に腰掛けるゲストは、現存している唯一のS級冒険者――アルムガルド・エルドラド。

 黒檀色のフルメイルで全身を武装し、聖教会の要職であるヨハンナを前にしているにも関わらず、甲冑は被ったままに素顔を隠している。


 アルムガルドは常に素顔を隠しており、ヨハンナも承知の上で、人類最強の無礼を容認していた。


「それでは話が早いですね――単刀直入に申し上げます――シド・ラノルスの殺害を依頼したいのです」



「ではこちらも手短にお答えします――お断りさせて頂きます」



 ――バチッ。



 ピクリと――ヨハンナの形の良い眉が震え、アルムガルドに意味ありげな目線を向ける。

 普段朗らかな笑みを称える、好々爺然こうこうやぜんとした彼女から放たれたとは思えない威圧感が含まれていた。


 ローテーブルの上に置いてある紅茶の入ったティーカップが、魔力の感応に影響されカチャカチャと音を立てて波打っている。


「…………」


 しかし先方も最強の冒険者。

 聖教会の最強戦力である《聖痕之弐》が放つ無言の圧力を飄々と受け流す。


 水面に波紋を作るティーカップを手に取り、甲冑越しに飲み干す余裕すら見せている。


「美味しい紅茶をありがとうございました、聖ヨハンナ殿。では、ワタシはこれで」


「お待ちください」


「まだ何か?」


「あなたは冒険者協会から個人的に依頼されたクエストを、ほぼ全て請け負っていると聞き及んでおりますわ。例え大陸の果ての辺境であろうと、ダンジョン崩壊の兆しが見えれば飛んでいくS級冒険者の鏡であると」


 ソファから腰を浮かしかけたアルムガルドは、ヨハンナに呼び止められ再び腰を沈めた。

 仕立ての良いソファの重厚な座面が、重鎧の重みにギシギシと音を立てる。


「そして冒険者協会は国営組織――つまり王宮からも、あなたにシド・ラノルス討伐の依頼があったはずです」


「ええ。確かにありましたが断りました。故に――聖教会からの依頼であろうと、ワタシは彼を討つつもりはありません」


「理由をお尋ねしてもよろしいかしら? 彼は王族殺しの大罪人。それを野放しにするというのは――崩壊しかけたダンジョンを放置すること以上に、危険極まりないことであることは、あなた程の者なら想像に難くないはずですわよ」


「ワタシは冒険者であって殺し屋ではありません。人々の安全を守るために魔物を狩ることはあっても、人殺しはできかねます」


「シカイ族は人間ではございません」


「20年前は人間だったのに?」


「長年魔物だと思われていたサーベルタイガーが、実は動物であったことが判明したのは100年前のことです。人類の長い歴史の中で、定義が変わることは往々にして起こりうることです」


「ではシカイ族が人間ではないという根拠は? それに、先の大規模ダンジョン崩壊事件――あれの真の功労者こそ彼ではないでしょうか?」


「はて? なんのことやら」


 聖教会は無論、大規模ダンジョン崩壊におけるシドの介入を承知している。

 だが影霊術師シャドウネクロマンサーの抹殺を掲げる聖教会が、シドの功績を認める訳にはいなかった。


 影霊術師シャドウネクロマンサーの能力が一般に知られていないのをいいことに、枢機卿団は情報統制を行う始末。

 シドは王族殺しの大罪人であり、民衆から批難の対象でいて貰う必要があり、英雄視される訳にはいなかいのであった。


「聖ヨハンナ様も見ているはずです、彼のスキルで使役された黒い魔物が、ダンジョンの魔物を攻撃している所を。しかも、黒い魔物は冒険者を助けこそすれど、冒険者に危害を加えたという報告はなく、むしろ黒い魔物の回復魔法で傷を癒して貰ったという報告まであります」






 しかしヨハンナは、朗らかな笑みを浮かべたまま――しらを切る。







「先ほども申し上げた通り、仰る意味がよく分かりませんわ」



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【おまけ・作中キャラ強さランキング】

(同ランク帯でも上に書いてある方が強い)



Tire0

・シド(影霊使用ありの場合)

・エカルラート

・アルムガルド(人類最強)

・オズワルド(聖痕之壱・もう死んでる)



Tire1

・カイネ(聖痕之肆)

・シド(影霊使用なしの場合)

・ヨハンナ(聖痕之弐)

・ミノタウロス(初期)

・シーナ(聖痕之参)



Tire2

・ルゥルゥ(勇者パーティのアサシン)

・セルヴァ(聖痕之伍)

・フランシス(フロウの母)



Tire3

・アニス(聖痕之陸)

・シルヴァン(勇者パーティの勇者)

・フロウ(聖痕之漆)



Tire4

・ガーレン(勇者パーティの重騎士)

・リリアム(勇者パーティの魔術師)

・リン





シドは1000体分の影霊を所持しているのでもはや最強です。

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