14 不死VSゴブリンロード

前回のあらすじ

 順調にゴブリン討伐を進めるシド。だが正体不明の魔物によって影霊が次々と消滅していくトラブルが発生。謎の魔物は影霊をなぎ倒しながらシドの前に姿を現すのであった。

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『グオオオオオオッッッッ!!!!』







「ッ!?」


 咆哮を上げながら、茂みを突き破りながら何者かが飛び掛かってくる。

 表示させている板を全て収納して視界を確保し、横跳びでその攻撃を回避する。


「ありゃゴブリンの親玉か……実物を見るのは初めてだが、恐らくゴブリンロードかッ!?」


 身の丈2メートル半、顔はゴブリンの面影を残しながらも、体格や筋肉量はオークに近い。

 オークよりでかく、ミノタウロスより小さいサイズ感。


「オークを消滅させたのはやはりお前か」


『グオオオオオオッッッッ!!!!』


 ナイフを構えながら問いただすと、咆哮で返事が戻ってくる。

 得物である大剣を振りかざすので、ステップで回避。

 ゴブリンロードの図体がデカすぎて大剣が長剣スケールに見える。


『ゴブリンは大量に繁殖するため、突然変異が生まれやすい。戦闘に特化したゴブリンウォーリアーや魔法に特化したゴブリンシャーマンなどが良い例じゃな。その中でもゴブリンロードは激レア、影霊にする価値は十二分にあるぞ?』


「ああ……思わぬ収穫だ。もし俺が普通の冒険者ならぶち切れてるがな」


 ゴブリン退治に来たらオークをもぶっ殺すゴブリンロードがいました――なんて事になれば普通は冒険者協会にキレても文句は言われないだろう。


「やはりゴブリン種は頭が良い。手下が大量に殺されている状況下で、一直線にボスである俺の元にきやがった」


『影霊には匂いがないからのゥ、唯一匂いを放つ侵入者が大将だとあたりをつけたのじゃろうな』




『グオオオオオオッッッッ!!!!』


「うおッ!? 凄い連撃ッ! 死ぬのかな?」




――キィン、キィン、キィン、ザシュッ!



「ぐっ!?」


 常人なら振り回すだけで苦労する大剣を片手でブンブン振り回してきやがる。

 ナイフで何合が弾いたものも、胴に一撃をくらってしまい吹き飛ばされる。





――HP490/680





 視界の端に表示される板が、俺の残りHPを知らせる。





――HP500/680

――HP510/680

――HP520/680

――HP530/680





 だがその数字は1秒ごとに増えていき、切り裂かれた胴部の傷も塞がっていく。




――HP680/680




 やがて完全に傷が塞がり、HPも全快する。


「これが始祖の吸血鬼の血の力か」


『左様。生きているのに生の実感を得られぬつまらん力じゃ』


「なにそれ吸血鬼ジョーク?」





『グオオオオオオッッッッ!!』





 ――キィン!





 ゴブリンロードが再び突進からの連撃を繰り出すので、ナイフで受け止め、バックステップで距離を取る。


『苦戦しているようじゃのゥ――不死の力がある故、負けることはないが、このままでは服の方がおしゃかになってしまうぞ? 全裸で帰宅したくなければミノタウロス達を呼び戻してはどうじゃ? もしくは、妾が手を貸してやろうか?』


「いや、その必要はねェ――こいつは手下も連れずに1匹で俺の元にきやがった。だったら俺も、同じ大将として部下に戦わせる訳にはいかねェだろ。そんなの示しがつかねェし……何よりそんな戦い方じゃいつまで経っても強くなれねェ――手ェ出すんじゃねェぞ!」


 エカルラートに釘を刺し、ゴブリンロードをナイフで刺す。





『グオオオオオオッッッッ!!!!』



「うおおおおおおッッッッ!!!!』





 ナイフと大剣が重なる。





――バキンッ!





 限界を迎えたナイフが折れる。

 元々ボロかったものだ、大剣の斬撃を何度も受けていたら、壊れるのも無理はない。


 だが、武器がなくとも拳がある!


「おらッ!」


 ゴブリンロードの口に拳を突っ込む。

 ゴブリンロードは強靭な顎と鋭い牙で俺の腕を食いちぎろうとしてくるが、お構いなしに更に奥へ奥へと腕を突っ込んでいく。


「いってぇ……やっぱ痛覚も戻ってやがる。だが、お前も苦しいだろう?」


『ゲオ゛ッ!? ゲオ゛ッッ!?!?』


 ゴブリンロードは気道が塞がれ呼吸が出来なくなる。

 いくら顎に力を入れても、傷が再生し続ける俺の腕を食いちぎるには至れない。


「そしてこうだああああああッッッッ!!!!」


 喉奥に突っ込んでいる腕と、ゴブリンロードの下顎の隙間に、もう片方の腕を刺しこみ、下顎を掴む。

 それを脳のリミッターの外れたフル稼働の筋肉と、レベル36の膂力で引きちぎるッ!!




――ブチブチブチッッ!!





『ギャアアアアアアアアアッッッッ!?!?』





 ゴブリンロードの下顎が千切れ、喉奥に突っ込んでいた腕が自由になる。

 対するゴブリンロードはあまりの痛みで蹲り、持っていた大剣を落とす。


「これで――トドメだッ!」


 ゴブリンロードが落とした大剣を拾って握りしめると、腰を捻って半回転スイング。

 遠心力を乗せた横薙ぎの一閃が、ゴブリンロードの首を刎ねた。





――レベルが上がりました。



――レベル36 → 38





「はぁ、はぁ……勝った」



 ゴブリンロードの亡骸を前に腰を下ろし、乱れた呼吸を整える。


『なんと、見事なもんじゃ』


「へッ……どんなもんだ……まァ、随分無様な勝ち方だったけどな」


『そんなことがあるか。格好良かったぞ。特に、あ奴が1匹で来たのだから、大将であるシドも1人で戦うという下り、思わず心臓がキュンとしてもうたわい』


「お前もう動いてねェだろ、心臓」


『フハハ! なんじゃそれは、ネクロマンサージョークか?』


「そんな所だ」


 そんなくだらないやり取りをしながら、俺とエカルラートは同時に笑った。




 ゴブリン狩りから2時間後。


 俺は240匹のゴブリン、2匹のゴブリンシャーマン、1匹のゴブリンウォーリアー、そしてゴブリンロードの影霊の抽出に成功。

 森の中のゴブリンを根こそぎ殲滅し、のべ243個の魔石と共に王都に帰還する。




***




「おかえりなさい、シドさんっ!」


 冒険者協会に帰還し、クエスト達成の報告をして報酬を貰う。

 ゴブリンロードと出くわしたことを告げ、証拠である魔石を渡すと、受付嬢のエミリーさんは申し訳なさそうに頭を下げる。


「まさか群れにゴブリンロードがいただなんて……! 流石はシドさんです!」


 エミリーさんは協会の上司にかけあった結果、特別手当として報酬を上乗せして貰えた。

 魔石の売却額と合算して50万Gになった。


 日頃仲介手数料と称してクエストの報酬額をピンハネしたり、魔石の販売ルートを独占していたりとズルい商売をしている協会だが、気前がいい事もあるもんだ。


 更にはゴブリンロードを討伐した実績を評価され、一気に冒険者ランクをC級まで昇格したのであった。

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あとがき

今回のAIイラストは影霊状態のゴブリンロードです。

顔が怖い……


イラストはこちらから↓

https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/16817330665422737397


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