46 出発した
SNSに備わっているダイレクトモードでの送信。
元から佐藤先輩への連絡はどうやら通ったようで、俺が空けられる、といった日に会うことにしたようだ。
あんまりそういったことをしない奴だし、メッセージアプリすら使わない奴なのにアカウントを持っていたのか、と驚いたがどうも閲覧専用で一言も送信をしたことがないらしい。
捨てメアドから作られたアカウントというそれは、クーポンやツリーの読み込みぐらいにしか使われていないということだった。
「でも、よく直接会う約束できたな。」
「そりゃまぁ、困ったふりをしてお願いしたからね。」
駅近くのコンビニのイートイン。
誰もいないそこで、少しだけスペースを借りて俺たちは話をしていた。
話題は先ほど元がまとめた佐藤先輩との話し合い、それに関することだった。
どんなやりとりをしたのか、聞きたいような怖いような。
とりあえず元は先輩と会うことができて、それはあちらも了解した上でのことらしい。
ちょっとは変な感じを受けたりしないんだろうか。
そう言う風に聞いてみたところ、そんな人間に思われてない事はわかってたから、と返された。
何もかも、元の思う通りに動いている。
いいことなのだろうが、なんとなくムカつく。
「よくわかんないんだけどよ、お前ほんとに大丈夫なのか?」
うまくいく目算なんて、本当は殆ど無いんじゃないか。
所詮高校生の浅知恵なんか、逆手に取られてしまわないか。
そんな気持ちを込めた俺の言葉に、困ったような笑いを浮かべて頭を掻いた。
「んー、実は結構頑張ってるからね。大丈夫だと思う。」
思うとか、そんな希望的観測が足を引っ張るんじゃないか。
そういうふうに言おうとしたところで、元の目を見てその言葉を止めた。
顔も口調も笑いの成分を十分に含有しているはずなのに、目の色が、まぶたに挟まれ、若干細い目の中が、どろりと泡立っているように見えたからだ。
「こう見えてさ、結構怒ってんだよね、俺。」
俺ではないどこかを見ながら、元が呟いた。
「あの人たちが何をしてきたか、どうするか。
それを見つけるのは簡単だったんだよね。」
それ、の詳細はどんなもんなんだろう。
聞こうとするも、どうも拒絶の意を感じてしまい、うまく踏み込めない。
短い時間ながらつきあってきた関係はそれなりの深さを持っているつもりなのだが、最近解らなくなってきた。
「今から佐藤先輩の指定した所に行く。
問題なければ万々歳。けど、もし……」
後を継ぐ言葉を発することはせず、元は悔しさに歪んだようないびつな笑顔を浮かべ、溜息を吐いた。
なにを考えているんだろう、どういうことを想像しているんだろう。
隣にいる男は俺の友人で、共通の友人である古賀のために一緒に怒っているだけの筈なのに。
見ている先、見えている情報が違いすぎて俺は何故か自分が小さく思えて悔しさと悲しさをほんの少し感じてしまった。
「あ、来た。」
「ん?」
元が見せたのは佐藤先輩からの連絡のメッセージ。
細かい時間の指定は当日しかできなかったという佐藤先輩からの連絡があったようで、その細かい時間、というのを今決めるらしい。
「ふーん、ちょっと時間あるね。」
そういいながら、元が返信の文章を打ち始める。
横から見ていて思うんだが、あんまりフリック入力は好きじゃないようで所々ミスをしている。
くすりとつい笑ってしまうと、少しすねた表情でこちらを軽く睨んできた。
キーボードの方がなれてるんだからしょうがないっしょ、の言葉に笑いを漏らしながらそうだなと相づちを打つ。
なんでもないやりとりなのだが、それがずいぶんと久しぶりのような気がして気が楽になった。
「ん、よし。」
「なに返したんだ?」
「今居る場所と、いつぐらいに行けるか。あとは合流場所の喫茶店の道筋確認かな。」
「ふぅん。」
ずいぶんしっかり連絡するんだな、と思うが相手のお誘いに乗る形だし、まぁそんなもんか。元はこれでいて結構固められるところは固めるタイプだ。
まぁところどころ気になるところはあるが、もうそんなことに気を回せるほどうまく思考が回らない。
はぁ、と一つ息を吐くと隣の元も同じタイミングでため息をついたようだった。
考えてみればそうか。こいつもこいつで見たくもないものを見ていることになる。
もっと下衆な性格なら大笑いもできるんだろうが、少なくともこいつはどこまでも普通の感性しか持っていない、はずだ。
「行こうか。」
「ん、あぁ。」
「あー、ヤダヤダ。高校入って一年目の夏休みなんか、もっと遊ぶつもりだったんだけどな。」
「ほんとになぁ。ま、頼んだぜ元。」
「まぁね、やるだけやってくるよ。
そっちもお願いね。」
「おぉ。」
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