23 見捨てた

「はー、あんまり女に興味ないふりしすぎると、後々辛いことになんぞ? お前と違って彼女がいる俺が手伝ってやろうか?」

「いらねーよ。どっちかっつったら元の方に頼むわ。」


 こちらに気づいたのか、控えめに手を振る詞島さんと、それに釣られて手を振る大木さんに挨拶を返し、俺たちは館内の指定された列に並ぶ。

 さて、ここからは立ったまま思考だけで暇を潰す時間だ。

 俺は壇上で誰が聞くわけでもない戯言を垂れ流し続けるジジイの雑音をBGMにぼうっと先日の大木さんとの話を思い出して時間を潰すことにした。



 特にハプニングもなく終業式は終了し、下校前に教室に一度集合する運びとなった。

 面倒な課題は既に学校のサイトにて公表されているようで、持ち帰るプリントや問題集が存在しないことはとても楽で良い。

 ダラダラと意味があるのかないのかわからない注意事項を三ヶ国語で繰り返すと、先生の号令で解散となった。

 わいわいとハーレムグループが教室から出ていくと着席していた男子全員が大きく息を吐き、改めて席を立ち始めた。


——今日どうする?

——俺夜バイト。それまで遊ぼうぜ。

——英ちゃんとこで晩飯食うやつ、誰かいねー?


 クラスから一定の人間がいなくなることによってクラスが活気付くというのはいかがなものだろうか。

 まぁ、そんなことを考えても詮無いことだ。

 じゃぁな、と足早に教室を出ていく古賀の背を見送り、俺は元の席に近寄った。


「俺はしばらくしたら部活に顔出して帰るわ。

 元はどうする?」

「特にすることもないから、そのまま帰ろうかな。

 一応課題も出てはいるから手は着けておきたいし。」

「真面目だな。

 ま、確かにやっとかにゃならんもんかね。」

「うん、いつもできるだけ早めに済ませておくんだけど。っと、ごめん。」


 スマホの方にメッセージが来たのか、スマホを眺め、文字を打ち込んでいる。

 改めて見ると、かなりゴツい。

 そのスマホのおかげで古賀と元が知り合って、そして俺もこうやって話す仲になったんだと考えると、人生なにがきっかけになるか分からないものだ。


「ルカ達はクラスの子達とちょっと遊んで帰るって。

 で、明日なんだけど大木さん誘って課題の大幅消化を目指すってさ。

 俺は巻き込まれてるけど、シュウも一緒にやる?」

「明日ぁ?いきなりだな。

 まぁ問題ねえよ。バイトも二週目からだし。」

「そか。

 んじゃあ俺とシュウ参加って返しとくね。」

「おう。

 ってか、お前もチャットアプリやろうぜ。一括送信できないのめんどい。」

「うーん、簡単に書けるのがどうも嫌でさ。

 あ、でもルカとはコレ使ってるよ。」

「お前、これ業務連絡とかする用のビジネス的なやつじゃん。」

「でもこれ推敲も編集もできるし、でっかい画像とかファイルとか送れるし、招待制の会議とかもできるから割と便利だよ。」

「ふーん、じゃぁ俺も入れるから、誘ってくれよ。グループ申請とかいる?」

「QRで済むから、すぐやろうか。」


 元の見せる画面から二次元バーコードを読み取り、3クリックほどで元のいるグループに参加完了。

 勝手に部屋を作っても良いが、招待無しだと何も連携されないようで、変に知らない人間のグループに巻き込まれることもないのは確かに楽かもしれない。

 と、大木さん、詞島さんからもコンタクトの要請が来た。

 それを承認し、新しく作られたらしいグループに参加する。

 グループアイコンには以前のゲーセンで撮った写真が貼られている。

 こう言った行為も元はスムーズに、素早くこなすものかと少し感心してしまう。


「これでお前ともチャット的なやり取りができるな。」

「まぁそうだね、なんかごめん、どうもスタンプペタペタやりあい続けるのがなんか苦手でさ。」

「お前と詞島さん、なんか古風なやりとりしてんな。」


 疲れた、腹へった、遊ぶやついる? 暇だからなんかしようぜ。

 常日頃から身内相手にポロポロと色々こぼすことを日常にする身としては、呟く内容に考えを必要とする元の行為には固さを感じ、古風、と表すのが良いような気がしてそう言う。

 ただ、そう言いながらメッセージの簡単なやりとりよりもお互いに言葉を選ぶやりとりを自然に続ける元と詞島さんの二人に、俺はなんとなく羨ましさを感じた。


「ま、そんじゃ俺いくわ。

 明日どこ行けば良いかはこれで連絡くれ。」

「了解。一日目だからって寝坊すんなよー。」

「そこはまぁ、頑張る。」

「断言が欲しいなぁ。」


 苦笑する元に軽く手を振り、教室を出る。

 たまたま郊外を歩く古賀と佐藤先輩の姿が見えた。

 高校に入って初めての夏休み。

 バイトの予定も入ってるし、遊ぶ予定もある。

 流石に大きなイベントは仕込んでいないが、きちんと遊ぶ準備はできている。

 中学までとは違う自由の範囲で、思いっきり遊ぶか。

 そう決意を新たにし、俺は階段を降り、バスケ部の活動場所である体育館に向かった。


「おい筒井。古賀はどうした。」

「彼女とデートして帰るそうです。」

「よし、アイツは明日の朝練に呼び出せ。四時だ。

 レギュラー組の練習に雑用として強制参加させろ。」

「承知致しました!」

「木村、お前が明日連れてこい。」

「押忍!」


 すまん古賀。

 まぁ調子に乗った自分が悪いと思ってくれ。

 彼女いない歴イコール年齢の先輩が太ももの横で震わせる握り拳を見つめ、俺は心の中でそう古賀に謝りながら、先輩達の目の前でメッセージを送った。

 ちゃんと申請すればエンジョイ勢は週二くらいの運動で済ませられるのになぁ。

 デート中にはやたらと反応が遅いこともあり、あいつ気づくの夜だろうな、なんて思いながら俺は夏休み前最後の練習に参加することとなった。

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