11 越えると決めた
先輩が以前よく行っていたような場所が争奪戦の参加時に行ったことがあるところなら思い出してしまうかもしれない。
デートコースを新しく二人で作るにも、今は避けたほうがいいんじゃないか。
そんな元の提案に、
「確かに!」
と大きく頷いた古賀は、同系統の画風の作者の個展が他の美術館で開かれていると言うことを元に教えてもらった。
繋げてその市の市役所で割引販売しているというチケットの話も教えて貰うと聞、放課後に早速Webから申し込みをしていた。
どうやら先輩の方も都合がついたようで、その夜には好きそうな画風だ、センスがいいと褒めてもらったと嬉しそうに俺たちにメッセージで報告してきた。
そんな友人が一歩進むことが出来そうなその週末。遊びに繰り出そうとしたのだが元は詞島さんとの用事があると言うことで都合がつかず、結局俺は一人で街に行くことになった。
いつものルートからなにをするか考えてみるが、映画館は大作と邦画の上映ばかりで俺のアンテナに反応するものがなかったためスルー。
食事も一人で元に紹介してもらったところに行く気にならず、ブラブラと駅やモールを歩き、一人で時間を潰すこととなった。
本屋を冷やかし、スポーツショップでシューズやボールを見て、コンビニで漫画を読み、気づけば俺の足はゲームセンターに辿り着いていた。
詞島さんと大木さん、元と一緒に行ったあの店舗。
あの時とは違い、自分の周りにはあたりからの視線を優越感と共に感じられるほどの美人な女性も、自分の言動に反応してくれる元気な声も、遠慮というものをどこかに放り投げたようなツッコミもない。
「んむ。」
静かな自分のパーソナルスペースについついため息をつきそうになるところをなんとか抑えた。
一人の休日は、珍しいものではない。
一度味わってしまった賑やかさを毒にしたくないという思いで下を向きそうになる視線をまっすぐに保った。
自動ドアを抜け、アーケード筐体の間を歩く。
どれにしようか、あれは人が多い、あれは今の時間は動物園だから近づかない。
そうやって歩いて、気がつけば俺が居たのはシールの機械が置かれているスペースだった。
休みだからか、そこには華やかな女子たちがスペースに溢れていて何となしに足を踏み入れにくい。
もちろん、シールを作る気はなかった。
ただ、何となくあれはないこれはないとぼうっと歩いていたら足が向いただけだ。
四人で入ったシール機に人が並んでいるのを見ると、俺はすぐに踵を返してエスカレーターでまたゲームのコーナーに向かった。
立ち戻ったゲームのフロアではアーケードゲームが喧しく効果音を吐き出していて、メダルゲームやクレーンゲームは射倖心を掻き立てるような鐘の音が響いていた。
ふと、シューティングゲームでボロボロに元たちに負けたことを思い出す。
これでも、それなりにゲームには造詣があるつもりだ。
あの一ステージ終了は、俺と大木さんの譲り合いの結果だ。
つまり、俺と大木さんがどちらも大人だったからだ。
あれは決して俺の実力ではない。
むしろ元こそ詞島さんに良い格好しようとしたブーストの結果に過ぎない。
そう考えると、沸々とやる気が湧いてきた。
元たちの記録を抜いてやる。
無理でも、一ステージくらいは越えてやる。
そう意識を新たにし、俺は目的のゲームに向かう。
幸い誰も並んでいなかったのが遠目に見えたため、スマホのeマネー残高を確認。プレイには問題ないようだと視線を戻すと、ちょうど良く俺の目の前でカップルがゲームを開始しようとしていた。
もう体全体でチャラ男とギャルというものを体現する、少々、かなり騒がしい二人。
今行けば日本人らしからぬ肌色と髪色、唇の二人のその後ろに行列として並ぶ。
しかも、一人で。
流石にそれは、と撤退を考える俺の隣に、同じタイミングで並ぼうとした人がいることに気づいた。
あちらを見る、あちらも見る。
「大木さん?」
「あ、筒井君。」
目を合わせ、同時にぎゃーぎゃーと騒ぐカップルに目線を移し、再度目を合わせる。
無言の会話があった。
戦士の会話である。
一人ではダメでも、二人なら。
どちらも右足から踏み出し、同じ歩調で横並びに歩き、順番の床のテープに沿って立つ。
ふと、そこまでやってお互いに話してもいないのに二人プレイをすることを選んだことに自分で驚いた。
「大木さんって、一人でもこういう所来んの?」
「んー、積極的にくるわけじゃないけどね。個人的には誰かいないと寂しさを感じちゃう時あるし。さっきまでみたいなのとか。」
「あぁ、確かにな。」
「カップルの後ろに並ぶのに一人とか、勇気がいるんじゃなく、何かが無いからできるんだと思うんだよ。」
「素晴らしく頷きたいけど、世の野郎どもに睨まれそうだからやめとくわ。」
大木さんの服は、この前の詞島さんと一緒にいた時よりもシックな感じのシンプルな服装に見えた。
かけているカバンも、あの時ほどデザイン性を重視したものではなく、容量を第一に考えた帆布鞄のようで、かけているメガネもフレームが厚ぼったい感じのものだった。
「筒井君の方は、練習?」
「いや、リベンジ。」
「なるほど。」
ふむふむ、と頷く姿はどことなく小動物的なものを感じた。
詞島さんの動作に感じたものとは違う暖かさが不思議と胸に湧いてくる。
「うん、これはやっぱりそういうふうにしろっていうカミサマのお告げだね。
筒井君、二人プレイでいい?」
「おう、俺もそのつもりだったぜ。」
むしろ、ここで大木さんが二丁拳銃を持ち出したら家に帰った後で泣いていたまである。
「よし、目指すはルカと山上君越え、最低でも最初のステージクリア!」
俺と同じことを考えていたことに、ついつい口が笑みの形になった。
「望む所だ。で、役割なんだけど基本的には大木さんが弾幕重視でガンガンリロードするタイプで、俺は隙間を埋めるタイプで行きたいんだが。」
「うん、いいよ。
反射的に向けるのはいいけど、正確に狙おうとすると私片目瞑っちゃって見えなくなるわ時間かかるわで足引っ張っちゃいそうだし。」
「あー、わかるわぁ。
エイムに気をつけようとするとやりすぎちまうんだよな。」
お互いの習性や得意そうなことを話し、役割を分担していると目の前のカップルが最初のステージをクリア、次のステージへと進んだ。
ピクリ、と俺のこめかみが引き攣った。
大木さんの方も微妙に表情が固くなっている。
「筒井君。」
「おう。」
絶対、何が何でも一ステージだけは越えてやる。
俺と大木さんの意志が一つになった瞬間だった。
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