第14話:ローザンブルクのマイスターハンター②


 ぱっと、掛けられたものを跳ねのけるほどの勢いで起き上がった。華美ではないが落ち着いた内装の、明るくて清潔な寝室らしきところだ。まだどういう状況なのかが分からず緊張していると、すぐ近くからほっとした様子で声がかかる。

 「あ、目が覚めた? 大丈夫? いちおう魔法もかけてもらったんだけど」

 「うん、とりあえずは何とも……えっと、ここは?」

 「この辺りでいちばん大きな神殿だね。責任者に話は通してあるから、安心して」

 にこっと笑って請け合ってくれたのは、やはり聖騎士のアスターだった。こちらも大した怪我はしていないようで、密かに安堵する。その辺りで、自分がふかふかのベッドに寝かされているのに気付いたり、起きる前のことをよりはっきりと思い出したりしてきた。正直良く生きてたな、と思わざるを得ない。……いや、それより何より。

 「う、うん、ありがと。……あのー、アスターさん、なんで正座してるの?」

 「そうしないと身を入れて話を聞かないから、だって。彼女いわく」

 「他人事のような口調で言わないでください!!」

 おそるおそる聞いてみたところ、軽く肩をすくめてやれやれ、といった風情で返された。その背後からツッコミを入れたのは、長い銀髪に澄んだ紫色の瞳、繊細な雰囲気をした美人さん――

 (……えっ!?)

 そこまで見て取って、思わず目を見開いたまま固まる。だって、このひとを知っている。知っているのだけど、

 (だって、あれから二百年も経ってるのに!?)

 思考が追い付かずぽかん、とするリオンに、相手はとことこ歩み寄ってきた。『失礼しますね』とちゃんと一声かけてから片手をかざして、何やら小さく唱えると手のひらが淡く光る。ややあってから一息ついて、

 「はい、どこにも異常はありませんね。落下の衝撃と地下水による冷え、そして過度の緊張による心神喪失状態だったんでしょう。

 大事がなくて何よりです。長いことお会いできなくて、心配していましたよ」

 「ご、ごめんなさい……ええと、」

 「――おお、目覚められましたかな?」

 「わあ!?」

 視界の隅からひょこっ、と現れたのは、こっちも知った顔だった。慣れた様子で宙にふよふよ浮いている、とんがり帽子とローブ姿の小さなおじいちゃんだ。上半身をのけ反らせて驚くリアクションがおもしろかったのか、もふもふしたひげを震わせてほっほっほ、と笑って続ける。

 「散々みんなして探しておったのじゃが、まさかアルテミシアにおられるとは思わなんだ。まあ連絡が間に合って良かったのぅ」

 「え、ええっと、あの」

 「――セリリ、ニコルさんも。そろそろ事情を説明してあげないと、リオンが困ってますよ?」

 予想外の事態に目を白黒させる背後から、ありがたいフォローが飛んできた。そこでようやく気付いたらしく、二人で顔を見合わせて、

 「あら、ごめんなさいね! 懐かしくてつい……私、母の実家がエルフと血縁で、他人よりも長生きなんですよ。は言いそびれてしまったんですけど」

 「わしも似たようなもんじゃの。まあうちは血を引くというか、ほぼ妖精族と言うた方が良いかのぅ」

 「何はともあれ、ご無事で何よりです。ローザンブルクへようこそ、リオノーラさん!」

 揃って楽しそうに、しかし結構なレベルのカミングアウトをしてのけて。突如出現したお二人――前世で散々お世話になりまくった、ローザンブルクのベテラン冒険者たちは、温かく歓迎してくれたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る