第7話:宵の明星たちの軌跡①




 人々に語り継がれる、とある伝説があった。

 昔々、大陸は西南部の小国・ローザンブルクに舞い降りた、異世界からやってきた三人の勇者の物語だ。彼らはそれぞれに得意な分野を持ち、力を合わせて困難を克服し、国を救うために戦ったという。

 一人は、魔石の杖『麗しの太陽ベル・ソラール』を携え、奇想天外な数多の魔法を操った『紅玉の魔女』。

 一人は、聖なる錫杖『満ちる月フォル・モーント』を携え、治癒と浄化の力で人々を救った『蒼天の聖女』。

 そして今一人は、大剣『導きの星ステラ・マリス』を携え、立ち塞がる敵を光の刃で断ち切ってのけた『白衣の騎士』。

 常に互いを思いやり、強い絆で結ばれた三人の活躍は、数え切れないほどの物語を生んだ。それは二百年の時を経た今日も、民草の間で高い人気を誇っている――








 ということは、一応知っていた。知ってはいたのだが。

 (実際に他人の口から聞くと、何ていうかめちゃくちゃ居たたまれないな……!!)

 照れくささと嬉しさと、それに加えて『そんな大層なもんじゃないんです!』という若干の申し訳なさが入り混じったものがこみ上げてきて、今すぐこの場で転げ回りたい気持ちになるのだ……というのを、リオノーラは十七年間生きてきて初めて知った。いや、昔も含めたらもうちょっと長いか。何歳まで生きたか、詳しい年数は覚えてないけども。

 「――はい。どうぞ」

 そんな新感覚をぼーっと反すうしていたら、横合いから湯気の立つカップが差し出された。そちらに視線を転じると、にこにこして佇んでいる同行者の姿がある。

 「蜂蜜を使ったレモネードだそうです。姫、いえ、リオンの口に合えば良いんですが」

 「あ、ありがとうございます! 酸っぱいの好きだから嬉しい」

 急いでお礼を言って受け取ると、相手――言わずと知れたアスターだが、とにかくさらに嬉しそうに笑みを深めた。それはもう、道行くお姉さん方がちらちら二度見するくらいにはまぶしい笑顔だった。大丈夫か、こんなに目立って。

 (信じてくれたのはありがたいけど、何でそのまま付いてきちゃったんだろうなぁ、このお兄さん……)

 協力者がいてくれるのはありがたい。ありがたいのだが、この人は本当にそれでいいのだろうか。いや、本人が良いからここにいるんだろうが。

 ――神殿から聖剣を強奪し、追っ手を蹴散らして逃亡してから数日。リオノーラ改めリオンたちは、アルテミシアの南隣にあるマルヴァ公国との国境近くに来ていた。


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