海の女の子へ
甘堂くるみ
第1話
カキカキ...。今日もぼく・カイは手紙を書く。そして近くの浜辺に置いておく。僕がこんな習慣を始めたのは一週間前の事件が理由。
その日、僕は海でいつものように泳いでいた。気付けば夜になり、ぼくは泳いで浜辺に向かおうとした。だが何かが普段と違った。波が激しく、海藻に引っかかり、手足が動かない。顔がだんだん海面に近づき、口のなかに塩辛さが一気に広がる。僕は焦って必死に海藻を解こうとしたが、全く動けない。そこから、真っ暗になった。
目を開けた時、僕はいつもの浜辺にいた。夢だったのかと思ったが、夢ではなかったことを証明する物が手の中に握りしめられていた。手紙だった。
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カイくんへ
大丈夫だった?ふふ、これを読んでるなら大丈夫かな。大変だったね。カイ君もカイくんよ。海には危険がいっぱいなんだからちゃんと気をつけないと。私がいなかったら死んでたかもしれないのよ。私、ほんとに心配したんだから。でも、ほんとによかったわ。また泳ぎにいらっしゃい。
海の女の子より
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一瞬ぼぉっとした。誰だろう、この海の女の子は。僕は目を閉じてみた。
波が激しく揺れる。僕の体が沈んでいく。もう僕は死んでいるのか。絶望したその時、僕の体が上がっていることがわかった。誰かが僕を上にあげてくれてる。そしていつもの浜辺に僕を引き上げ、僕の手に手紙を握らせた。そして、僕を助けてくれた女の子はどこかに消えていった。
目を開けた僕は夜の空を反射させた輝く海を眺めた。大きく、力強く、優しい海。ふっと女の子のことを考えた。なんとなくだけど、会ったことのないその子が海に似ているような気がしてならなかった。いや、違う。この子自体が海なんだ。きっとそうだ。
僕は家に帰ってすぐ、海の女の子に返事を書いた。名前も知らない女の子。そして僕はその朝、返事の手紙を海に置いた。
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