船の汽笛が聴こえる

はな崎カ子

第1章 海の見える丘と聴こえる船の汽笛

「うわぁ〜久しぶりだなぁ〜」

あまりの懐かしさに声が甲高くなる。

今私は祖父の家に3泊4日泊まりに来ている。

「つぼみはここに来るのは何年ぶりかなあ。

とにかく、長旅お疲れ様。ゆっくり休みなさい。」

祖父の優しい声に不覚にも懐かしさを覚え、

気持ちがぞくぞくと高ぶっていく。

「そういえば、今から行きたい場所があるの。

ちょっと散歩してくるね。」

「はい。行ってらっしゃい。」

私が今にも行きたくてたまらない場所。

それは、海の見える丘だ。


丘、と言っても住宅街の道の途中にある土手のような場所で、ガードレールが張ってある。

木々が生い茂る奥には広々とは言えないが、

海が見えるのだ。これが小さい頃、大好きで

祖父の家に行く理由もだいたいはこの景色を見たいからだった。

それに、もっと好きだったものは…

ここから聴こえる、船の汽笛だった。

この住宅街から1番近い港まではそう遠くない距離だったのでたまに運が良ければ聞こえるのだ。これを聴きにも行ってたんだっけ。


そよそよと風が囁くように吹く。

誰かの足音が近づいてくる。

「ここの景色、あなたもお好きなんですか?」

眼鏡をかけた、同じ年くらいの男性に声をかけられた。最初は少しだけびっくりしたけれど話の内容を理解して安心した。

「はい!小さい頃から大好きで…」

「僕もです!まさか同じような人がいたなんて…!なんだか嬉しいです。」

男性の顔が夕陽のおかげで赤いのか、

照れていて赤いのか、全く見当がつかない。

とにかく、嬉しくてたまらないということは

男性の微笑みからわかった。

とても優しい微笑みで私が照れてしまった。

「こ、ここから聴こえる船の汽笛もいいですよね!運がいい時しか聴けないのも良くて…」

私はこの事まで知らないと思って言ったつもりだった。

「僕も、それ大好きです。」

正直、驚いた。このことをわかってくれる人なんて親戚にもいなかったから。

ありえないくらい気持ちが高ぶって、

いつの間にか私たちはここの景色の話題で止まらなくなっていた。


近所の家から夕飯の匂いが外に漂うまで私たちはここの景色のことを話し続けたが、本当に楽しくて飽きる時間がないくらいだった。

「うわっ!もうこんな時間…

今日は楽しかったです。またの機会に!」

ここで彼と別れるのは少し寂しかったが、もうじきに暗くなる。祖父も心配するであろう。

「あの…もしかしたらもう会えないかもしれません。僕も今日たまたま来たもので…

よかったら、連絡先交換しませんか??」

暗かった気持ちが光が急に差し込むように明るくなった。ついにやけてしまう。

「喜んで!!」

声が少し裏返りそうになった。


“辻中 海人”

「海人さんか〜…名前にも奇跡を感じる…」

独り言をぼやきながら夕暮れの道をスキップしながら通っていった。

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