「役立たず」とパーティを追放された俺のスキルは《ダメージ吸収》……ではなくて、 あらゆるものを消去できる《存在消去》なんだが? あ、先に言っておく。パーティーには戻らんぞ?

りさき

第1話 追放されたんだが?

「おいデリータ、お前もうパーティー出てけ」


 モンスター討伐依頼とうばついらいえてギルドに戻ったその瞬間。

 俺はその文言もんごんを突きつけられた。


「……唐突とうとつに何を言い出すんだよディオス」

「二度は言わねぇぞ。お前はもう俺のパーティーにはいらねぇ」


 は……? なんで俺が? と困惑こんわくの目をディオスに向ける。


 だがディオスの顔には微笑ほほえみ一つない。それでもまだ信じられない俺は軽口かるくちを叩くノリで、


「おいおい冗談キツイだろ。二ヶ月も一緒にやってきて」

「このが冗談言ってるように見えるか? ええ?」


 ……まぁ、見えないな。人殺しそうな目してるし。


 ショックだった。二か月前にディオスが俺を――それも底辺冒険者と呼ばれるGランクの俺をパーティに誘ってくれた時、あの時は心の底から嬉しかった。


 わかりやすいランク制度がある中で、ディオスは『重要なのはランクじゃねぇ。活躍かつやくできる力があるかどうかだ』と言ってくれたからだ。


 俺はディオスに期待されていると信じていた。だから俺なりに考えて行動してきた。


 なのになんで――。


「理由を知りたいって目、してんな。逆に聞くがお前の役目はなんだ?」

盾役シールダーだよ。敵の攻撃を吸収してパーティーへのダメージを軽減する」


 それが俺のスキル《ダメージ吸収》の役割。

 確認されなくたってちゃんとわかってる。


「そ、ダメージ吸収。それがこのパーティでお前に与えられた絶対の役割。……なのに最近のお前はなんだぁ?」


 ドガッ……! と背中ににぶい痛みを感じる。ディオスが胸倉むなぐらを思いきりめあげてきた。


「盾どころか吸収すらもできてねぇ。まともにまえ立ったと思ったら当たり前のように後衛こうえいに攻撃が飛んでくる。なんのつもりだお前」


 考えなしにそうしてる訳じゃない! 俺はパーティ全体のことを考えて――と口にしようとするが、ディオスの怒りが言葉を粉砕ふんさいしてくる。


「俺らは遊びでモンスターと戦ってんじゃねぇんだよ。いのちけてやってんだ。その戦場にお荷物にもつかかえていく余裕よゆうなんかねぇんだよ」


 ……ダメだ。今のディオスに何を言っても聞く耳は持ってくれないだろう。


 期待されていたはたらきはしていたと思う。


 後衛こうえい回復かいふく中に攻撃をそらしたのだって、実際の戦場を想定しておかなければ訓練にならないと考えたからだ。


 そして同時に、ディオスならその意図いとに気づき、俺の考えを支持しじしてくれると信じていた。


 だけど、俺からの期待には応えてくれないのか――ディオス。


「……他の二人も同じ考えなのか?」


 ディオスの後ろに立つ女二人ふたりへ問いかけた。彼女たちなら俺の意図いとにも気づいて――


「そうね。下馬評うわさ通りの活躍を期待してたけど、残念ながらあなたの動きはそれをはるかに下回るレベル。ディオスのパーティーには相応ふさわしくないわね」


 言い切ったのは魔法使いのテュア。


「え、ええ……大変もうし上げにくいことではありますが、わたくしの回復魔法中に攻撃が飛んでくることも再三さいさんでしたし……これではパーティーの意味がなくなります……」


 目をらしながらつぶやくのはヒーラーのアリアン。


 なにか、こう、あきらめにも似た感情が、強力な毒のように全身をじわじわと汚染していく。


「そういうことだデリータ。お前は今日限りで俺のパーティーをクビだ」

「……俺がいなくなっても大丈夫か? 困らないか?」

「お前耳ついてねーのか? 必要ないって言ってんだよ、むしろジャマだ」


 もう一度壁に叩きつけられる。


 ここでわかってもらえないなら、聞く耳を持ってもらえないなら、もう無理だろうというのは直感的にわかっていた。


 俺は一縷いちるのぞみをかけて、二か月前のディオスを、俺に期待をしてくれていたディオスを見すえるように、最後に聞いた。


盾役シールダーはどうするんだよ。ディオスだってパーティから急に欠員が出たら困るだろ?」

「なに、心配には及ばない――おい、ちょっと」


 ディオスが体の大きな男を呼び寄せた。誰だ?


「俺らCランクパーティともなれば加入希望者かにゅうきぼうしゃくらいいててるほどいんだよ。コイツはお前の代わりに入った防御特攻ぼうぎょとっこう型の人材。すずめの涙ほどもダメージ吸収できないお前の完全上位互換かんぜんじょういごかんだ。わかったら俺の前から消え失せろ」


 なにかがこわれる音がした。


 ――そうか。俺は勘違かんちがいをしていたんだ。


 ディオスは俺に期待していたのではない。俺の持つ《スキル》に期待をしていたんだ。


 だからいくら俺が彼らに期待をしようが、パーティのことを思って動こうが関係がないのだ。どれだけパーティを大事にしていても、メンバーを大事していても……俺が大事にされることはない。


 だから余計なことをすれば……こうしてお払い箱ってわけか。


「……そうか。少しの間だけどディオスたちと一緒に冒険ぼうけんできて楽しかったよ。ありがとな」

「こっちは迷惑めいわくかけられっぱなしだったけどな。さっさとその辺で野垂のたにしちまえよ雑魚ざこ


 ディオスに背を向ける。それと同時に心に決める。


 俺は大切にしよう。

 ――《スキル》ではなく『俺自身』を大切にしてくれる人たちを。

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