仮装

キザなRye

仮装

 朝晩の気温が二桁を下回り肌寒くなってきたマンスター地方の小学校の教室の隅に数人の子どもたちが集まっていた。

「クレッグ、ハロウィンの仮装は決めた?」

ブロンドの髪の男の子が尋ねた。クレッグと呼ばれた茶髪の少年は

「実はまだ決めていないんだ」

と申し訳なさげに言った。周りにいた子どもたちは驚いたという表情をした。

「もう一ヶ月無いんだから早く決めなよね」

先程のブロンドの髪の子が肩をトンと叩きながらそう言った。周りにいた他の子たちも早く決めなよとクレッグを促した。

 クレッグは家に帰ってからすぐに小学校であったことを彼のママに話した。

「周りの子たちは皆決めているらしいから僕も早く決めなくちゃ!」

「そうね……毎年毎年ギリギリまで悩んじゃうよね」

ママはこれまでクレッグが何の仮装をしたかを思い出していた。ここ最近はアニメのキャラクターの仮装が多かったなとママは思った。

「最近はキャラクターが多かったからフランケンシュタインとかそういうのにしてみない?」

ママはノリノリでフランケンシュタインを勧めた。クレッグはどうやらフランケンシュタインというものを知らなかったようで頭の上にはてなが浮かんでいた。

「フランケンシュタインって何?」

ママはクレッグの言葉を聞いてすぐに携帯を手に取って画面をクレッグに見せてながら

「フランケンシュタインっていうのはこういうの」

と言った。画面を見たクレッグはどうやらフランケンシュタインに興味を持ったようで

「僕、フランケンシュタインの仮装したい!」

と笑顔で言った。その言葉を聞いてママは嬉しそうだった。

 ハロウィン当日、クレッグはママに着るのを手伝ってもらいながらフランケンシュタインの仮装をした。フランケンシュタインの仮装はパパから好評でクレッグは両親に快く送り出されて外に出て行った。クレッグは小学校に皆と集合して街を歩き回るのだ。

 クレッグは小学校に向かう道中に魔女の服を着た女の子に会った。その女の子はクレッグのことを見つけると笑顔になって走って近付いてきた。

「クレッグ!」

急に名前を呼ばれてクレッグはびっくりした。この女の子は知り合いだったかなと記憶を巡らせたが、クレッグの記憶には当てはまる女の子はいなかった。でもなんだか彼女に親近感が湧いてきていた。

「僕が覚えてないだけかもしれないけど僕と会ったことあったっけ?」

クレッグの言葉を聞いてその女の子はハッとして早口で喋り出した。

「私としたことが自己紹介していなかった、私はベイヴィル。クレッグとは会ったことなかったわね」

クレッグは女の子が一方的に自分のことを知っていただけであることを聞いて、自分が忘れていたわけではないと分かって少し安心した。

「これから友達と一緒に街を歩き回るんだけどベイヴィルも一緒に来る?」

「行って良いの?!」

「うん」

「じゃあ、付いていかせてもらうね」

 クレッグが小学校に着いたときには他の皆は既に来ていた。皆はアニメのキャラクターの仮装だったりジャック・オー・ランタンを模したコスチュームだったりを着ていた。クレッグが集合場所に表れてまず後ろにいる女の子に注目が集まった。

「クレッグ、後ろにいる子は誰?」

どうやら皆も彼女のことは知らないらしい。

「さっきここに来る途中で会ったんだ。一緒に行きたいらしいんだけど良いかな?」

「もちろん」

「大丈夫だよ」

「一緒に回ろう」

皆が口を揃えてベイヴェルと一緒に回ることを受け入れた。女の子は女の子同士が話しやすいのか、ベイヴィルは女の子と2人で話し始めた。

 クレッグは皆と商店街に行った。商店街では子どもたちにお菓子を配っていてクレッグたちはこれを貰いに来たのだ。皆が笑顔で受け取っている中、ベイヴィルは少し大人びた表情を見せていた。お菓子を食べながら商店街を歩いて商店街の人と話をしていた。仮装を褒めてくれたり最近どうかといった話だったり子どもたちを楽しませていた。

 その後もハロウィンに伴って開催されているイベントに参加して存分にハロウィンを楽しんだ。街の広場ではアップルボルビングゲームが開催されていてクレッグたちは上手く出来なかったが、ベイヴィルだけは上手に出来ていた。皆でベイヴィルを取り囲んで上手く出来たことを喜んだ。

 イベントを一通り楽しんだクレッグたちは皆で1人の家に集まって大人たちの指導の下でコルカノンを作った。コルカノンはハロウィンで伝統的に食べる料理である。元々は4人来るという聞いていたのがベイヴィルが加わったので5人に変わったが、嫌な顔せずに用意してくれた。作ったコルカノンを皆で食べてから解散してそれぞれが家に帰った。帰路に着く頃には空が暗くなり始めていた。

 クレッグは皆と別れた後でベルヴィルと一緒に歩いていた。

「ベルヴィルはお家どこら辺なの?」

少しだけ間を置いてベルヴィルは口を開いた。

「こっちの方」

ベルヴィルはクレッグの家への帰り道の方向を指した。帰り道が一緒なんだとクレッグは単純に思った。

 クレッグは家へとベルヴィルと話をしながら歩いていた。様々な話で2人は盛り上がっていた。

「ね、ベルヴィル」

クレッグが話の途中でベルヴィルに同意を求めて隣を見るとそこには誰もいなかった。今の今まで隣にベルヴィルがいたはずだが、急に姿を消してしまったようである。クレッグは気付かないうちにベルヴィルの家に着いていたのではないかとポジティブに考えた。家も近いのだからまたすぐ会えるだろうと思った頃にはクレッグの家に着いていた。

 家に帰ってからクレッグは今日会ったことを両親に話した。商店街でのことやアップルポッピングゲームのことやコルカノン、そしてベルヴィルのこと。両親はニコニコとクレッグの話を途中で少し質問をしながら聞いていた。パパはベルヴィルという名前がクレッグの口から出てきたときに何かを思い出したような表情を見せた。それに気付いたママがどうしたのかとパパに聞くとパパはゆっくりと口を開いた。

「実は僕のおばあちゃんのおばあちゃんがベルヴィルっていう名前なんだ。うちの近くでいなくなってしまったというからもしかしたらそのベルヴィルなんじゃないかなと思ったんだ。ハロウィンは死んだ人の魂が家族の元に帰ると言うからそういうことかもしれないな。」

クレッグはなんだか少し嬉しい気がした。ずっと自分のことを見ていてくれたような気がしたのである。

「ベルヴィルとまた会えるかな……」

「次のハロウィンにまた会えるかもしれないな。ベルヴィルがまた会いたいって思ってくれたら会いに来てくれると思うぞ」

パパはそう優しくクレッグに言った。

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仮装 キザなRye @yosukew1616

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