口の中で転がる鱗が
硝水
第1話
「透明になりたいな」
そっか、じゃあ僕は、光になりたい。と、言えたらよかったんだろうけど。彼女がよそってくれた炊き立てごはんには、彼女の鮮やかなピンクの髪が混ざっていて、僕はそれを黙って食べた。
「どうして透明になりたいの」
彼女は炊き立てごはんをかきこみながら、口に入った横髪を引っ張り出している。前髪はピンクが濃く、後髪は薄く、横髪は中間くらいなんだ、そんなこと本当にどうでもいいんだけど。
「君に見つからないように」
じゃあやっぱり、光になりたい。彼女の屈折率がゼロではないという前提で。と、言えるほどの自信があったらよかったのに。彼女はしゃもじにこびりついた米粒をひとつひとつ剥がして唇の上に並べている。
「君が透明でも、」
透明でも、いないのとは、決定的に違うということを言いたくて、目を閉じたら茶碗を落とした。目を閉じたまま拾えたらよかったのに、僕にはそれができなかった。
口の中で転がる鱗が 硝水 @yata3desu
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