悪役令嬢は遊びたい、悪役令嬢を遊ばせたくない

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 悪役令嬢は遊びたい。


 やがて悪役になる定めだが、今はただの少女。


 十にも満たない年。


 遊び盛りのただの子供だった。


 だから、悪役令嬢は遊びたかった。


 しかし遊ぶことはできない。


 遊ぶことは悪いことだと、周りの大人たちが言い聞かせていたからだ。






 悪役令嬢の家は、名前のある家だ。


 だから、その家の名前にふさわしくあらねばならなかった。


 だから遊ぶことよりも、学ぶことの方が重視された。


 遊ぶことは怒られることで、学ぶことは褒められること。


 悪役令嬢は、そう学習していた。


 だから、その状況は、彼女が破滅するまでずっと変わらない。







 そんな悪役令嬢をかわいそうに思ったのが、とある神様。


 やがて出会う恋をかなえられず、醜い心に支配され、味方なく一人で人生を終える。


 そんな少女をかわいそうに思った。


 だから、神様はその悪役令嬢を助けてあげたいと思った。


 それはただの気まぐれで、崇高な目的や、大いなる意志などなかった。






 神の気まぐれは、やがてとある世界へ伝わり。


 一人の少年の心を揺り動かす。


 遊ぶことを知らずに育ち、人生を破滅させる少女の存在を知った少年は、異世界にわたったのち、悪役令嬢に手を差し伸べる。


 だから悪役令嬢はかなわぬ恋を知って狂うことはない。だからヒロインも、恋をかなえるために多くの障害を経験することはない。


 悪役令嬢を遊ばせない大人たちは変わっていき、多くの者たちが幸せな結末を迎えた。


 悪役令嬢は新たな恋を知って、新しい世界をひらいていく。


 そこには、本来あった苦痛や悲しみや、むなしさなどはなかった。






 悪役令嬢は、遊びたい。


 そう思ったとき、遊ばせたくない者たちはいないから。


 遊びたいと思った時には、いつでも遊ぶことができる。



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