驟雨に呻く蝋燭火
紫鳥コウ
第1話
何も成しえぬままこの日まで――十月まできた。
カレンダーを見ると、再来週には誕生日を迎えるようである。
数えてみると三十二だ。年齢ではない。今年、公募に応募した小説の数である。結果待ちのものもいくつかあるが、今までひとつの賞も手にしていない。
焦りは募る一方である。自分の実力の未熟さばかりを実感する。このままでは、なんの賞も手にしないまま年を越しそうである――無論、その前に歳をひとつとるわけであるが。
物書きとしての成長を感じないこともない。長篇小説を書くことができるようになった。伏線を張った物語を紡ぐことができるようになった。公募の締切りを諦めることもなくなった。
しかしだ――しかし、なんの結果も出ていない。これほどの苦痛はない。
そんなわたしをさらに苦しめているのが、
舞野は、大学時代からの知り合いのひとりであり、ある偶然のきっかけで、わたしのペンネームを探し当てた人物であり、小説家志望の物書きである。
わたしは彼を憎んでいる。早く縁を切りたいと思っている。しかし、彼はわたしに対して異常な執着を見せており、そして承認欲求を満たすために、わたしを利用している。
今年の六月、約一年ぶりにSNSを再開した。
自作の宣伝がメインだったが、最近では、一日に書いた文字数を記録する用途としても使用するようになっていた。
いまは、一日四千字以上の執筆を目標としており、それは無事に続いているのだが、舞野はSNSのダイレクトメッセージを通じて――知り合いと連絡を取るためのアカウントの方だが――このようなメッセージを送ってくる。
《たったそれっぽっちしか書けないんだね笑》
《進捗を書いて褒めてもらいたいのカナ?w》
《荻山のフォロワーみんなバカにしてると思うよ笑笑》
なにか不愉快なことがあり、虫の居所が悪いのだろうか。それともなんらかの良い結果を手にしているから、マウントを取りたいのだろうか。
どちらでもいいが、こうしたメッセージを受けとるたびに、心身は疲労していく。
このところのわたしは、抗うつ剤を飲まないと、なにも手につかなくなる。小説の執筆は、
《なんの結果もでないのは、お前の実力のせいだから》
という強烈な一言は、わたしを一日中憂鬱にさせる。
まだ結果の出ていない応募作も、なんの賞に入ることもないだろう。
そうした後ろ向きの感情は、どす黒いこんな考えをわたしに抱かせる。
「もしわたしがこの世から消えたならば、舞野はきっといままでのメッセージを消すに違いない」
そんな妄想をなんとか断ち切り、今日の分の抗うつ剤を飲む。
ノートを開いて黒と赤のボールペンを使い分けながら、小説のプロットを書き進めていく。
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