妹におねだりされたので魔王を討伐したが、次に結婚してとおねだりされたら修羅場になりました

@teki-rasyu

第1話 妹へのプレゼント

『魔王』

 それは世界に破滅と絶望を撒き散らす存在。

 国を滅ぼし、人を殺し、魔族を増やす。

 そうやって世界を我が物にせんと勢力を拡大させる絶対的な悪。

 絵本や小説では悪の親玉として描かれるほどの恐怖の象徴であり、現実においてもそれは存在する。


 だが、それに対をなす存在がいる。

 人々に勇気と希望を持たせて、魔王を討たんとする英雄。

 その者はいつしか『勇者』と呼ばれ、人々の思いを背負い、魔王との戦いに挑む強き存在。

 魔王が誕生すれば勇者も誕生すると言われるほど2つの存在は密接に関わっている。


 しかし、必ずしも勇者が魔王を倒すわけではない。

 現実は絵本よりも小説よりももっとおかしく、より想像すら出来ない結末が待っている。


 某日。魔王城に1人の人間の侵入を許した。

 そして…。


「ウゴォォォ!!」


 城に断末魔が響く。

 それは終戦を告げる鐘の如く城内に響き、騒々しかった魔物達は唖然とし、静寂が流れる。

 魔王だった者はサラサラと砂のように崩れ、姿を完全に消し去る。


「やっと……終わった」


 その人間は半年にも及ぶ旅の末、ついに魔王を討ち取る。

 達成感と無事に終わった安心感で心が満たされていく。

 しかし、まだ終わりではない。


「魔王様が……負けた?」「そんな馬鹿な!」「おのれ!人間!タダで帰れると思うなよ!」


 魔王が討たれても尚、配下の魔物達はまだ闘争心が宿っており、狼狽える暇もなく襲いかかる。

 だがそんなの意に介さず、無駄な戦いは避け、軽い足取りで城から脱出した。

 魔王は討ち取ったが帰るまでが旅である。


 魔王を倒したが、その者は勇者ではない。

 じゃあ何で、勇者でもないその者が何故、魔王を撃つたびに出たのか。

 それは半年前に妹から言われた一言から始まる。



 何気ない日常。

 もう時期15歳で成人を迎えると言うのに、未だに姉離れが出来ない妹。そして、その姉。

 そんな2人が普段通り一緒に本を読んでいた時のことだった。


 勇者が魔王を倒すまでの英雄譚。

 何度も読み直す程好きな内容だが、その日は読むだけでは終わらなかった。

 そう、アレは突然のことだった。


『お姉ちゃん❤️魔王を倒して❤️』


 無邪気な笑顔と砂糖のように甘い声色で、いつものようにおねだりをする妹。

 大人も「あらあら」と微笑み、2人の仲慎ましい姿を笑顔で見守っていた。

 もちろん、妹も冗談のつもりで言ったのだろう。

 だがそれを間に受け、2つ返事した馬鹿がいた。


『OK。任せな!』


 その子は必要最低限の荷物を持ち、夜な夜な人知れずに村を出ていった。

 さあ、そんな馬鹿な子とはいったい誰でしょう?

 ……私でございます。




「でもね!仕方ないじゃん!妹が可愛すぎるんだもん!」


 魔界で1人、妹への惚気を吐き出す私。

 今思えば冗談だったとわかるけど、あの甘え声には勝てなかった。

 チクショウ!私としたことが妹の期待に応えようとしたばかりに半年も時間をあけてしまった!


 自分でも重度のシスコンと認識しているが、別に悪いことではない。

 むしろ、これは姉妹愛と言うもの。妹を大切にしたいと思うのは当然だ!

 それに半年も会ってないから妹の状況が気になり不安で仕方ないのだ。


 あぁ、私がいない間に変な男に捕まってないだろうか?

 求婚とかされてたら、お姉ちゃん泣いちゃうかも。

 まあ妹が幸せになるなら全然良いんだけどね。


 しかし、言葉とは裏腹に足取りがどんどんと速くなる。

 やがて誰の目にも止まらない速度まで達し、出るまで1週間ほどかかる魔界を数時間で脱出する。

 結局、私も人の子。家族の顔を見たくて仕方なかったのだ。


「ぜぇぜぇぜぇ……やっと娑婆の空気を吸えたぜ」


 牢から脱した囚人の如く、地獄からの生還を果たす。

 後ろにはこの世と魔界を繋ぐ門。文字通りの門であり、門の中心には禍々しい黒い渦が渦巻いている。

 これがなかったら、もっと旅は長くなっていただろう。


 森の中を散歩していたら偶然見つけた門。

 なんかそこにあって、なんか開いてたから、とりあえずくぐってみた結果、なんか魔界に通じてた。

 多分、神隠しの原因はこの門かもしれんな。知らんけど。


 何故、ここにコレがあるのかは知らないけど、この場にあるのは危険だ。魔物も出入りするからね。

 だから、コイツは破壊する。


「消えなさい!シャット!」


 光が魔界の門を包み、光の中に消えて行く。

 そして、光が収まると門は姿形をなくしていた。


「……さて、帰ろう!」


 そう言えば、もうすぐ期妹の誕生日だ。何なら明後日だ。

 何かプレゼントを買ってから帰った方が良いよね?

 近くに街があったはずだから、そこで買うのが良いだろう。

 善は急げ。身体強化で森の中を飛び回り、街に向かった。


「あら?勇者様じゃないですか」「今日も麗しいわ」「どうぞ私のお店に来てください!」


 街について早速歓迎を受ける。再三言うが私は勇者ではない。

 それはもちろん、この街の住人達には教えたはずなのだが、どう言うわけか言葉が通じていないようだ。


「今日はどう言ったご用件でしょうか?」「こ、この後一緒にお食事でもどうですか?」「指のサイズを教えてください」


 ひぃー、怖い。めっちゃグイグイ来られるとちょっと萎縮しちゃうよ。


「え、えっとね、妹にプレゼントをあげたくて。何かオススメって無いかな?」

「妹いたんですか!」「私も妹になりたいです!」「こんな姉を持ったなんてどんな徳を」


 うーん、話聞いてたかな?

 やっぱり自分の足で探すのが1番かも。


「あ、1つ良いのがありましたよ!」


 1人の少女が手を上げる。


「え!どこどこ!?」

「私の家の近くにある雑貨屋なんですけど、そこに綺麗なネックレスが売ってましたよ」

「ネックレスかー、良いね。そこに案内してくれる?」

「もちろん喜んで!むしろ、奢らせてください!」

「アハハ、気持ちだけ受け取っておくよ」


 お店に向かって、私を中心とした団体が街の中を闊歩する。

 うん、懐いてくれてるのは嬉しいけど、ちょっと周りの邪魔にならないかな?

 そんな心配はよそに、彼女達を各々話す。後耳が10個くらい欲しいよ。


 そもそも何故、この街で勇者と呼ばれているのか。

 それは少し前の出来事に遡る。


 アレはこの街に国王が存在し、まだ王国と名乗っていた時のお話。

 国王の圧政により平民は虐げられ、貴族だけを優遇する絶対王政。反旗を翻そうものなら容赦なく死刑にされる。


 初めてこの国に入った時のことはよく覚えている。

 殺伐とした空気、昼間なのに開いていないお店、恐喝に窃盗のオンパレード。

 街のほんの一部しか見ていないのに、それだけの出来事が目の前で起きていた。

 当時のこの街は冒険者すら立ち寄らないと評判だった。


 英雄譚に憧れていた私は事情を聞き、その原因をサクッと倒して、街に平和をもたらしたのだ。

 今思えば無謀だし、余計なお世話だったかも。

 国のことは国に住む人々が解決しなければならない。

 でも、街の人々が苦しそうだったし、見るに耐えない状況だったから後悔はしていません!


「着きましたよ、勇者様!」

「案内ありがとうね。このお礼はいつかまた」

「ほゎー……は!いえ、そのお顔を見れただけ満足です!それじゃあ!」


 女の子は脱兎の如く逃げる。何か奢ろうと思ったんだけどな。

 まあ今日限りの出会いってわけじゃないから、また今度お礼すれば良いか。

 

 とにかく今は妹への誕生日プレゼントを探すのが先決。

 お店に入ると、目的のネックレスはわかりやすい場所に置いてあった。て言うか、入って目の前だった。


 今週の目玉商品と書かれた紙ともに実物が綺麗に並べており、周囲を見渡してもこれ以外のネックレスは見当たらない。

 一つ手に取ってマジマジと見つめる。

 花をイメージされた造形に、真ん中に埋め込まれひし形の石がある。

 ダイヤモンドのように美しい翡翠の光を放ち、小さいながらも金のような重厚感もある。


「どうです?お気に召されましたか?」

「うわ!……いつからそこに?」


 ネックレスに見惚れて、店員さんの存在に気が付かなかった。


「いらっしゃいませ、勇者様。それに目をつけるなんてお目が高いですね」

「いえ、街の人に教えて貰ったんですよ。妹にプレゼントを渡したくて、それでこのネックレスがオススメだと聞いて」

「なるほど、良かったです!」

「え?何が?」

「いえ、私事です」


 なんかめっちゃ嬉しそうな笑顔してますけど……気にしたら負けだね。


「それでどうです?今なら勇者割引でお安くしておきますよ」

「ゆ、勇者割引って……何度も言いますが私は勇者では」

「フフフ、わかっていますよ。でも、貴方が勇者でないとおっしゃっても、我々にとって勇者なんですよ。勇者とは称号でも資格でもありません。勇気ある者のことを指すんですよ」


 ……そう言われると何だか気恥ずかしいな。

 私はただの能天気バカなだけで、そこまで難しく考えたことはない。

 だから、そう言われると更に勇気が湧いてくる。


「ありがとうございます」

「ふへっ、可愛い。あ、失礼。それでどうしますか?」

「安くしていただけるなら是非とも買わせていただきます」


 即断即決。会計を済まして、空間魔法の中に収納する。


「それじゃあ、今度こそ帰ろうか!」


 久しぶりに家に帰れると思うと何だかテンションが上がるよ。それに妹の喜ぶ顔を想像するだけで……うへへ。

 

 ワクワクを胸に帰路へとつくて行くのだった。

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