第46話 主席

「さて、それでは最後に……このヒーローアカデミーへの主席合格者を地発表する」


 教員の説明が終わった所で、バルムンクが再びマイクを握る。主席合格者を発表する様だ。まあこれからこの場所で、この場にいる人間達と切磋琢磨する間柄になる訳だからな。その中で最も優れている人物を発表するのは、それ以外の人間を刺激するのに丁度いい手と言えるだろう。


「では、発表する。その者は……フェイガル王国冒険者、ナユタ・ミツルギ」


「ん?」


 んん? どういう事だ? 俺が主席?


 意味不明な事態に、俺は首を傾げる。実技の際、教官は俺の強さが三番手だと言っていた。なのになぜ俺が主席なのか? 上二人が入学を辞退したのなら分かるが、それっぽい二人はちゃんとこの場にいる訳だが……


「立ってその雄姿を、これからこのアカデミーで切磋琢磨する仲間でありライバル達に見せてやるがよい」


 バルムンクに席を立てと言われ、釈然としないまま俺は立ち上がる。そして、自分の疑問をそのままぶつけるべく口を開いた。


「よろしいですか?バルムンク殿下」


「何か聞きたい事でもあるのか?いいだろう」


「実技の際、俺は教官に3番目だと言われました。つまり、最低でも俺よりっ強い人間は二人いると言う事です。なのになぜ、自分が主席合格なのでしょうか」


「ふむ……確かに、合格者の中にはお前より強い物が2人いるという報告は聞いている。だがこれは試験だ。殺し合いではない」


 試験と言われ、ああ、と納得する。強さなら三番手。だが、試験の成績なら話は変わって来る。俺は魔法とオーラ、両方で好成績を収めており、精神に至っては満点だ。


 恐らく俺より強い二人は、魔法か近接戦どちらかに偏った――多分近接戦闘だろうが――点数だったため、精神の満点と合わせて俺が逆転する形となったのだろう。


 ……そういや、三番手でも実技は満点って言われたっけな。その影響も大きそうだ。


「理解した様だな。お前は全ての面において、高水準の成績を残している。総合点数だけで見るなら間違いなくトップと言えるだろう」


 まさかの思わぬ形での主席。正直、一番強い訳でもないのに一位になるのはもやっとすると言わざる得ない。ここは強さを求める場なのだから。


「更に付け加えるなら、お前の若さも大いに評価の加点要素となっている」


「若さ……ですか?」


「人というのは、若ければ若い程急成長を遂げる生き物だ。お前より強い二人は20代半ばだが、お前はまだ18の小僧にすぎん。当然その成長速度――将来性には大きな差が出て来る。つまり、お前は将来有望だという事だ。そこも含めて考えるのなら、間違いなくダントツと言えるだろう」


 将来性か……


 明らかに年下のバルムンクに小僧呼ばわりされるのはあれだが、能力が似たり寄ったりなら、若い方が将来性に期待出来るのは確かだ。それは間違っていない。ただ、その中で考慮されていない条件があった。


 ――それはクラスだ。


 俺は戦闘面では最低の『市民』クラスだからな。まあ地球側の体でも訓練するので、誰よりも成長する自信自体はある。だがそれは秘密にしているので、学園側は知らない事だ。その上でなお、俺の将来性を有望と判断したのだろうか? ちゃんと書面でクラスは記入してあるので、知らないという事は無いはずだが……


「因みに……ナユタ・ミツルギのクラスは驚くべき事に市民だ」


 市民である事はちゃんと把握していた様だ。


「市民クラスが主席だって……」


「え?市民って強いのか?」


「そんな訳ないだ」


「俺達より優秀とかありえないだろう」


 バルムンクの告げた俺のクラスを聞き、周囲の人間が騒めく。


「え!?兄貴って市民だったんですか!?」


「ああ、まあな」


「やばいですね!市民でその強さとか流石兄貴です!」


 ネイガンは至って好意的だが、他の奴らは市民クラス如きに評価で負けている事をどう思うか? まあわざと発表したんだろうな。他の人間のプライドを刺激する為に。上手く使われた物である。


 まあ先導役に選ばれた事を、光栄にでも思っておくとしよう。それで他の人間がやる気を出す様なら万々歳だしな。


「普通ならあり得ない優秀さと言えるだろう。だがそんな事は関係ない。彼はこの中で誰よりも優秀で、そして将来性がある。それが全てだ。諸君らも、ナユタ・ミツルギに負けないよう励んでくれたまえ。では私は用事があるので、これで失礼する」


 バルムンクが此方に背を向け去って行こうとする。が、その足を止めて振り返って俺を見た。


「ああそうそう、ミツルギ。ここにはいないが、このアカデミーの唯一の魔法教授である大賢者アトモスが君に会いたがっている」


「俺に……ですか?」


 大賢者と呼ばれる人物に知り合いはいない。なので急に会いたいとか言われても意味不明なのだが。


「なんでもお前に魔法について教わりたいそうだ」


「は?」


 魔法を教わる?大賢者と呼ばれる様な人物が?意味不明にも程がある。


「お前の使っていた魔法――無詠唱魔法とやらに興味がある様だ。是非教示して貰いたいそうだ」


 無詠唱魔法か……成程、納得ではある。とは言え、教えてくれと言われても教えられるものではない。何故なら、天才ゆえの超絶マルチタスクがそれを可能にしているだけだから。まいったな……


「まあ後で使いが来るだろうから、その時はアトモスに教えてやってくれ。ではな」


 バルムンクは今度こそ本当に去って行った。俺が周囲に視線を這わすと、全員の目が此方を向いていた。そこには嫉妬だったり、懐疑の色なんかが浮かんでいる。


 ここで一発、他の合格者を『天才である俺に追いついて見せろ!』とか言って煽ろうかとも思ったが、止めておく。まあ流石に品がないからな。


 だいたい、俺より強い奴が2人もいる訳だし……

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