第28話 望まぬ来訪者
ダリムがこの街を去ってから半年。
「うん、いい感じだ」
コニーとベッチ。授業料目当てだったとはいえ、師匠が弟子にしていただけあって二人は中々に優れた資質を持っていた。そんな彼らは俺の教えを素早く吸収し、この半年間で十分過ぎる程の成長を見せている。
「免許皆伝には程遠いが、まあ冒険者として仕事をこなすのはもう問題ないだろう」
この世界には魔物がおり――まあ魔竜なんかいるんだから当たり前だよな――それを狩る仕事を生業にする者達を世間では冒険者と呼ぶ。当然ギルドも存在しており、俺もそこに登録済みだったりする。というか、この半年、俺はそれで生計を立てて来た。
街の復興はまだまだだが、冒険者ギルドは平常運転している。何せ魔物は放っておくと凄い勢いで増えていくからな。常に誰かが間引きを続けないと、崩壊した街中にまで入り込んできかねない。そんな理由から。
まあ、報酬自体は以前よりも相当下がってしまってる訳だが。街にまだまだ破壊の痕跡が残っているこんな状態では、それも仕方ない事だろう。
「本当ですか!?」
俺の言葉に、ベッチが興奮気味に食いつく。彼の家は、母親が重篤な遺伝疾患を抱えているため――俺のヒール程度ではどうにもならない――その治療費を大量に稼ぐ必要があった。だが鍛冶屋で務める父親の稼ぎだけではギリギリで、ベッチがいつも薄汚い恰好をしていたのはそのためである。
彼が下働きで溜めたなけなしの小遣いを払って師匠の元で訓練していたのも、冒険者として働けば、苦労している父親の負担を少しでも減らせると思ったからだ。更に冒険者として成功すれば、一般人とは比べ物にならない程の収入を得る事も可能で。そして大金さえあれば、母親の病気を完治させる事も出来る。
母の病気の完治。
それがベッチの目標だ。
「ああ。但し、仕事は一人では絶対受けてはだめだぞ」
この近辺の魔物は大した事がない。なので、ぶっちゃけ今のベッチ一人でも十分対処は可能だ。
じゃあなぜ駄目なのか?
物事には常にイレギュラーが付き纏う物だ。魔王が勇者として召喚されたのなんか、そのいい例だろう。
まあ流石にあそこまでの理不尽は早々ないだろうが、経験不足なベッチ一人では対処の難しい何かが起こる可能性は否定できない。そういう時に物を言うのが仲間だ。一人では難しい事も、きっと信頼できる仲間がいれば乗り越えられるはず。
「大丈夫ですよ、先生。ベッチには私が付いてますから」
コニーがそう言って自分の胸を叩く。
「二人で組んで、ガンガン稼いで見せます!」
コニーの夢は、冒険者になって活躍する事だった。それは今も変わってはいないが、以前は憧れに過ぎなかったそれは両親を亡くした現在、単なる憧れではなく現実的な生きる道へと変わっていた。なので彼女はベッチと組んで、冒険者業を行う予定である。
……ある程度大きくなるまでは、俺が養ってやるって言ったんだけどな。
コニーはそれを良しとはしなかった。いつまでも人に頼るのではなく、生きる術があるなら自らの足で歩きたい、と。そう言ったのだ。俺から見たらまだ全然子供な訳だが、本当にしっかりした子だと感心せざる得ない。
「ははは。だとさ。良かったな、ベッチ」
「ちぇっ、俺の方が年上だってのに」
「まあ取りあえず、今日の訓練はここまで。街に戻って昼食だ。今日はお祝いを兼ねて、ちょっと贅沢にいくとしようか」
「やったぁ!」
訓練していたのは街の外だ。二人を連れ、昼食を取りに俺達は街へと戻る。その後、二人とは別れて一旦宿に戻ると、宿の前には――
「お久しぶりね。勇者様」
――取り巻を連れた、王女エイナスの姿があった。
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