第21話 vs勇者④
俺達の放った鬼功法が勇者を飲み込み、天を貫く。
「やったか!?」
師匠が叫ぶ。師匠、その台詞はフラグです。いあやまあフラグもなにも、端からこの攻撃で奴を倒せるとは思っていないが……奴のタフさをか考えれば、間違いなく生きている筈だ。
「まだですよ。あれぐらいで死んでくれるなら苦労はしません」
だがそれでも、それ相応のダメージは通っているはず。ここから師匠と合わせて二人がかりでなら、勝機は十分あるだろう。因みに、もう一回鬼功砲で、というのは出来ない。技の性質上、連発が効かないからだ。
「ちっ、とんでもねぇ化け物だな」
上空から落ちて来る人影を視界に収め、師匠が舌打ちする。
「俺がメインでやるんで、師匠はサポートをお願いします」
師匠の攻撃は、殆どダメージにならないだろう。だふがそれでも、相手の体勢を崩したり動きを阻害するくらいならなら出来る。それだけでも十分だ。
ドーンという轟音と共に、勇者が地面に激突して巨大なクレーターを生み出す。
「いま……のは……いたかった……」
「おいおい、どう見てもぴんぴんしてやがるぞ。まさか効いてないんじゃないだろうな?」
クレーターが爆発したかと思うと、跳躍した奴が俺達の眼前に着地する。その姿に、師匠が苦い顔でそう呟く。
「まさか……効いている筈です」
ダメージは確実に通ったはず。だが、奴のぴんぴんしている様子からそれが全く感じ取れないのは確かだ。まさか効いていないのか?そんな考えが一瞬脳裏を過るが、俺は直ぐにその考えを振り払う。
効いていない訳がない。そう、効いていない訳がないんだ。
もし今の攻撃でたいしてダメージを与えられない程の化け物だったなら、そもそも俺の力であそこまで互角の戦いが出来た筈がない。だからあれは只のやせ我慢。もしくは、痛覚が麻痺しているだけだ。
「そう願うよ」
「いく……ぞ……」
勇者が突っ込んで来る。その動きに陰りは見られない。嫌な予感を覚えつつも、俺は再び勇者と激突する。
勇者との戦いは、先ほどよりもずっといい形で進んで行く。ちょこちょこ師匠のアシストが入るだけで、やはり大分違って来る。順調に戦況を押し、そして俺は確信する。
――先程の攻撃は、やはりあまり効いていなかったのだと。
やせ我慢にせよ。痛覚の麻痺にせよ。ダメージが無くなる訳ではない以上、それは絶対に動きに影響して来る。だが追加のダメージまで与えているにもかかわらず、奴の動きには微塵も衰えが見られない。
こうなるともう、先ほどの攻撃も、そして今も続けている攻撃も、奴にはたいして有効打になっていないとしか考えられなかった。
「こいつは本格的に不味いぞ」
「確かに不味いですね。ヒール」
勇者を蹴り飛ばし、間合いを開けてダメージを回復する。いくら戦況を有利に保っていても、ダメージが通らないなら意味はない。この先に待つのは、奴に殴り殺されるか、寿命が尽きる未来だけだ。なにか手を考えなけれな……
「ん?誰かがこっちに向かって来てやがるな。それも大量に」
師匠に言われ、俺もそれに気づいた。勇者も気づいたのだろう。その視線を気配が近づいて来る方へと向ける。
「あれは……」
現れたのは鎧姿の一団。恐らく300名近くいるだろうと思われる。
「あの騎章は、フェイガル王国の騎士団の物だな」
騎士達の鎧の胸元には、獅子の様な模様が刻まれていた。どうやらこの国の騎士である事を示す物の様だ。彼らは街中の騒ぎに駆け付けたって所だろう。
「我が名はクンジャー・シバ!精鋭たるフェイタル王国第二騎士団、団長クンジャー・シバだ!」
ちょび髭をした、全身を金の鎧で包んだ大男――クンジャー・シバが名乗りを上げる。こいつがこの集団のリーダーと思って間違いないだろう。
「魔塔の副塔主殺害!王女エナイス様の殺害未遂!並び!神殿の信徒や魔塔の魔法使いたちの虐殺!さらには、市街地での破壊活動!これらは極刑に値する!」
王女殺害未遂に、魔塔の副塔主殺害、か。勇者は一体何を考えているんだろうか?急に見知らぬ世界に呼び出されたその怒りでもぶつけたとかか?にしてもやりすぎだろうに。
「よって!我ら王国第二騎士団が貴様をこの場で処断する!投降は赦さん!攻撃初め!」
クンジャ―が剣を抜き、勇者へと向けると、弓を手にした者達が一斉にそれを番えて放つ。更に大量の攻撃魔法も一斉に勇者へと降り注いだ。いや、それは勇者だけではない――
「ちっ、思いっきり俺達の所にまで飛んできてるじゃねぇか」
狙いが定かではないのか。もしくは勇者の仲間だとでも思ってか。比較的近い位置にいる俺達にも、騎士団の遠距離攻撃が容赦なく飛んでくる。
「……」
だが俺は飛んでくる攻撃を意に介さず――この程度の攻撃、当たった所で今の俺ならノーダメージだ――勇者をじっと見つめた。
もし奴が騎士との戦いで俺達の事を意識から外してくれるなら――
その時は全力で逃げる。
その隙を見逃さないためにも、俺は勇者を注視した。
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