第19話 オルティナの指導 ―入門編②―
「一人でですか!?」
ツインズ・ウルフを指差すオルティナに、ラピスは首を左右に振った。
「む、無理ですよ! この間も死にかけて――」
「グルルガァァァッ!」
そんな二人の会話を待つはずもないツインズ・ウルフが、犬歯をむき出しにして飛び掛かる。
オルティナはそれに見向きもせず、ついと指を動かして魔法を発動した。
「
「ガァッ!?」
オルティナが描いた指の軌跡に従うようにして、水で出来た牢獄がツインズ・ウルフを閉じ込める。
<ラピスのコメント欄>
おおっ!?
師匠やるじゃん
水属性は造形術得意だよね。
それでもこの展開速度はすごいわ、速すぎる
リアル見てから回避余裕じゃん。何者だこの人……
探索者の配信は結構見てるのに、なんでこんなすごい人のこと知らなかったんだ?
「流石です師匠!」
目の前で魔法を見られたことと、視聴者にオルティナのすごさが伝わりご満悦のラピス。
それにオルティナは呆れた目を向けながら、
「準備が出来たら解くから言って」
「じゅ、準備って……やっぱり私一人で戦うんですか?」
「そう言ったでしょう。
というか、何でもやるから弟子になるって話じゃなかった?」
「うっ……それは……」
ラピスが目を逸らす。
そんな彼女の手が小刻みに震えるのにオルティナは気づいた。
「貴女もしかして、アレが怖いの?」
「……はい」
「どうして?」
「その、頭では分かってるんです。
師匠も居ますし、万が一のことがあっても何とかしてくれるって。
けどいざ目の前にすると、この間のことを思い出してしまって……」
<オルティナのコメント欄>
そりゃ怖いよなぁ
殺されかけたんだもんね、無理もない
というかティナ嬢スパルタ過ぎないか
弟子には甘いとかそんなことなかったな
うつむくラピスに、彼女の死闘を見届けたオルティナの視聴者たちが同情のコメントを送る。
それらに対して、オルティナは瑠璃色の髪をいじりながら、
「……何か勘違いしてるみたいだけど。
もしかして貴女、アングリー・エイプよりもツインズ・ウルフの方が強いと思ってる?」
「え? 違うんですか?
ツインズ・ウルフは魔法を使いますし、養成学校でも『ランク2のうちは出会ったら逃げろ』って習ったんですけど……」
<ラピスのコメント欄>
違うんですか先生!
いや普通にツインズ・ウルフの方が強いだろ
【初心者殺し】って言われてるくらいだからなぁ
「確かに厄介なのはツインズ・ウルフの方だけど。
それは魔法を使うからじゃなくて、魔力に怯むからだよ」
「魔力に……怯む?」
「見ていて」
要領を得ないラピスに、オルティナがツインズ・ウルフへと近づいていく。
双頭の狼は水の檻を打ち破ろうと体当たりを繰り返していた。
しかしオルティナが近づいた瞬間。
ツインズ・ウルフは尻尾を丸め、怯えたように縮こまり地に伏せった。
くぅ~ん、とまるで犬のように媚びた鳴き声まで出している。
「な、何をしたんですか……?」
「魔力を見せびらかしたの。――こんな風にね」
直後、ラピスは目の前のオルティナが、とてつもなく巨大な怪物に錯覚するような、そんな恐ろしい気配を感じ取った。
息をするのも忘れ、悪寒が体を駆け巡る。
ついには尻もちを着くと、オルティナから威圧感が消えた。
「……下着。見えてるよ」
「え? っ、きゃあ!?」
<オルティナのコメント欄>
俺たちには見えてないが!!
倫理パッチ……だと!?
グロは通すけどエロは通さないティナ嬢
弟子思いだなぁ(白目)
オルティナはが自身の配信に流れるコメントを、ゴミを見るような目で見送る。
彼女は「こういう風に、」と話を戻した。
「魔力っていうのは純粋な力そのもの。
だからこうやって無駄にたれ流せば、それだけで威圧になるわけ。
戦闘力が表出化している、って感じかな」
「な、なるほど……」
「ツインズ・ウルフが【初心者殺し】なんて大層な呼ばれ方をするのは、魔法を通じて魔力に当てられた初心者の動きが鈍くなるから。
それを除けば、どう考えたってアングリー・エイプの方が運動性能も高いのは貴女も分かるでしょう」
「確かに……腕も4本ありますもんね」
「貴女は怪我をした状態でも、ツインズ・ウルフの炎弾をきちんと避けられていた。
つまり魔力に当てられて怯んだりしなかった。
本能がツインズ・ウルフを格下だと分かっていた証拠だよ」
「私の、本能が……」
<ラピスのコメント欄>
そうなんだ……
初めて聞いたけど納得した。説明うまいな
ラピスちゃんやるじゃん
常識だぞ(初耳)
<オルティナのコメント欄>
ティナ嬢がちゃんと師匠してる!
今日だけで1月の間に話す分くらい話してるんじゃないか?
なんで俺泣きそうになってんだ……
両方の配信観てるけどこっちのコメント欄だけ触れるとこズレてて草
「理解できたなら、そろそろ檻を解くよ」
「っ、はい!」
ラピスの目に闘志が宿ったのを見て、オルティナが魔法を解除する。
ツインズ・ウルフはしばらくオルティナに怯えていたが、彼女が距離を取ると、やがて目の前のラピスを標的として狙いだした。
「安心しなさい。勝てなくても、骨くらいは拾ってあげるから」
「で、出来ればお肉が残っているうちにお願いします!」
「グルル……ルガァァァッ!!」
よだれをまき散らしながら牙をむいたツインズ・ウルフを、ラピスは迎え撃つようにして斬りかかった。
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