第6話 弟子入りはお断わり――①
「無事……いや、生きてるよね?」
オルティナが相変わらず欠片も心配していなそうに尋ねる。
呆けていたラピスは我に返ると、戸惑いつつもコクリと頷いた。
「だ、大丈夫、です……おかげさまで……」
「そう」
返事を聞くなり、オルティナはラピスから興味を失ったように視線を切った。
そこに先ほど助けに来た際の、優しげに思えた面影はない。
あまりの変わりように再び呆けそうになるラピス。
実際は『らしくないことをした』と思っているオルティナの照れ隠しなのだが、そんなことが彼女に伝わるはずもない。
何も言わずツインズ・ウルフの死体に近づいていくオルティナに、ラピスは慌てて立ち上がり、
「あ、あのっ……!」
「うん? あぁ、ごめん。
「いえ、そうじゃなくって……!」
ラピスがオルティナにすがりつくようにしながら、懸命に訴える。
「凄腕の探索者の方とお見受けして、お願いがあります! どうか……どうか私のパーティメンバーを助けてください!」
「パーティメンバー……?」
「実は私たちは4人パーティでダンジョン攻略をしていたんですが、格上のモンスターに襲われて散り散りになってしまって……それで、今も逃げているはずなんです!」
「…………あー」
どこかで聞いた話……というより、オルティナがここへ来た理由そのものである。
オルティナが何とも言えない表情でラピスを見る。
だが確かに、事情を知り得ない彼女からすれば、こうしている今も仲間がピンチに陥っているかもしれないと考えるのが普通だ。
「お願いします! 報酬は後で必ずご用意しますから、どうか……!」
「えっと……落ち着いて。貴女はいくつか勘違いをしている」
「え……?」
「そのパーティなら、私がここへ来る前に助けた。そしてそこで貴女のことを頼まれたから、こうして助けにきたの」
「そ、それじゃあ他の3人は……」
「無事だよ」
多分……とオルティナは密かに目を逸らした。
槍は置いてきたが、あの後モンスターに囲まれ全滅している可能性はゼロではない。
とはいえそんな万が一まで面倒は見られないし、まぁ上層は他の探索者も多く居るから大丈夫だろう、と深く考えるのをやめた。
「良かったぁ……」
オルティナの言葉に、ラピスが安堵の色を浮かべる。
それは血にまみれても可憐に思えるほど、儚げで美しい表情だった。
しかし次の瞬間、カクンと膝から力が抜け落ち、ラピスは地面へ倒れていった。
「ちょ、ちょっと……?」
それをオルティナがすんでのところで受け止める。
意識を失うほどの重傷だったのか、と焦りながら容体を確認していると、やがて安らかな寝息が聞こえてくる。
どうやら張り詰めていた緊張の糸が切れ、眠りに落ちてしまっただけらしい。
「……呆れた」
オルティナがしょうがないものを見る目でラピスを見つめる。
少し気を抜けば意識を保てないほどの状態で、それでも最後まで自分ではなく仲間の心配をするとは。
配信ブームで『少しでも他者より目立ってやろう』という探索者が多い中、珍しいくらいのお人好しだ。
温室育ち、と普段のオルティナなら切って捨てたかもしれない。
だがツインズ・ウルフを前にして、終ぞ折れなかった彼女の姿を知るオルティナは、面倒くさそうにしながらもラピスを抱きかかえた。
(あのパーティに合流したら叩き起こしてやろう)
「特別だからね……まったく……」
「ぅん……むにゃ……」
帰り際『そういえばツインズ・ウルフの魔核を回収し忘れたな』と思いながら、オルティナは4人の少年少女を引き連れて、地上へと帰還した。
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