第2話 ダンジョン配信なんてクソくらえだ――②
「じ、実は私たち、4人でダンジョンに潜ったんです!」
「……そうなの?」
「おいデイジー!」
「だって、早くしないとラピスちゃんが……!」
「……言い争いしてないで、端的に言って」
オルティナが催促すると、ぽつりぽつりと彼らは話を始めた。
彼らは普段3人でダンジョン攻略と配信活動を行う、昔馴染みのパーティだったそうだ。
しかし最近になって配信の再生数や視聴者数が伸び悩むようになった。
そこで改善策として今回から新メンバーを1人増やすことにした。
その新入り――ラピスという少女が思いのほか腕が立ったため、調子をよくした彼らはこれまで一度も行ったことのない第10層に足を踏み入れ……そしてあのアングリー・エイプと出くわしたという。
「……付き合いの浅いメンバーを切り捨てる判断は理解できなくもないけど。最低ね」
「ち、違う! あいつから言い出したんだ! 私が残るから逃げろって……」
「それでも、その子を置いていく判断をしたのはリーダーの貴方でしょう?」
「そ、うだけど……がっ!?」
オルティナが少年の襟首をつかみ上げる。
自分と同じか少し小さい背格好の少女に、つま先が浮くほどの力で締め上げられ、少年が苦しそうに呻く。
「……それに。今の話を聞くと、あのアングリー・エイプは貴方たちを追って上層に上がって来たことになる。イレギュラーな層またぎじゃなくてね。
こういうことになるから、モンスターに追われている時に上層と中層を行き来するのは暗黙の了解で禁止されているのは知っているよね?」
「し、知らない……」
「探索者の間では常識のはずだけど……?」
「ほ、本当に知らなかったんだ! そんなルールも、中層からあんなにモンスターが強くなることも! それに、そもそもあの化け物を怒らせたのはラピスが勝手に斬りかかったからで――」
「……はぁ。もういい」
ドサリ、と掴んでいた手を離され、少年が膝をつく。
そんな彼のがら空きとなった胴体に、オルティナが蹴りを突き刺した。
固いブーツの先がめり込み、少年が声すら上げられず悶絶する。
彼に駆け寄ったもう一人の少年が、非難めいた目をオルティナに向けた。
「な、なにを……!?」
「本当は地上に戻ってから言おうと思っていたんだけど。貴方たち、探索者に向いてないから辞めたら?」
「え……」
「自分の命を守るための知識もなければ、力量差も分からない。無茶をして死ぬのは勝手だけど、こうして中層のモンスターを引き連れて上層に居る他の攻略者まで危険にさらした。これ以上、誰かに迷惑をかける前に辞めるのをオススメする」
「そ、そんな言い方……!」
「事実でしょう? まぁ、何でもいいけど。……一応、忠告はしたから。それだけ」
<コメント>
やさしい……やさしい?
うーん辛辣
いいぞ、もっと言ってやれ
いや蹴るのはやりすぎだろ、配信に乗ってんのに
また燃えるぞティナ嬢
でも正論なんだよなぁ
正論キック……ってこと!?
オルティナが未だにうずくまる少年の顔の横に槍を突き刺す。
「ひぃっ!?」と短く悲鳴を上げる彼に、オルティナは変わらぬ調子で、
「この槍を置いていくから。装備を回収するまでにモンスターに襲われたらこれで凌いで。……言っておくけど、失くしたりしたら地の果てまで追いかけて弁償させるからね」
「置いていくって……まさか、ラピスを助けに……?」
「当たり前でしょう」
何を言っているんだ、と冷たい目で少年たちを見下ろすオルティナ。
彼女は次いで虚空を見ながら口を開いた。
「野次馬。ラピスって子が配信で最後に映していた場所を調べて」
<コメント>
うん?
野次馬???
急にどうしたティナ嬢
誰に言ってる?
もしかして……
察しが悪い。
チッ、と舌打ちをこぼしながら、オルティナは言葉選びを変える。
「私の配信を見ている人たち。ラピスって子の配信を見に行って最後に居た場所を教えて。……というか、いつもやってることでしょ。早く探して」
<コメント>
やっぱり俺らのことだったwww
ティナ嬢が俺たちに話しかけてくれた!?
神回や!
野次馬呼ばわりは草
まぁ否定はできないけど……
【悲報】リスナーとしてすら認識されてなかった件について
さっき舌打ちした?
投げキッス助かる
「……なんでもいいから早く」
そうして視聴者からの報告を待つわずかな間。
ようやく立ち上がった少年が負け惜しみのようにオルティナに言った。
「……無駄だ。俺たちも逃げ始めてすぐは彼女の視点を共有していたけど……途中でブラックアウトした。だから行っても多分、手遅れだ……」
「手遅れだったら……なに?」
<コメント>
ここかな。中層の森林地帯、D区画
視聴者から送られてきたメッセージを確認し、オルティナが彼らに背を向ける。
去り際、どうしても我慢ならないと言った風に彼女は答えた。
「……例え手遅れでも。もし死体になっていたとしても。一緒にダンジョンに潜った仲間なら、地上まで連れ帰ってあげないとダメでしょう」
「っ……! あ、あの……ラピスちゃんを、どうか助けてあげてください! お願いします!」
デイジーと呼ばれた少女が、涙交じりに叫ぶ。
それに軽く手を上げることで応え、オルティナは全速力で中層へ向かって走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます