お礼

「本当に、ありがとうございますっ!このご恩は忘れませんっ!」

そう言って男性は大切そうにペンライトを持って見つめている。

「よかったねぇ。仕事を頑張って、ライブに行けないなんて可哀想だもんねぇ……。」

そう言って僕の母親は男性ににっこりと笑いかけて、そのまま大川の方を見る。

それに釣られるように大川もこくりと頷く。僕は一瞬これは正規の取引になるのか心配だったが、どうやら許容範囲のようだ。

「あ、お客さんが外に来てますね。少しの間ですけど、ありがとうございました!いらっしゃいませ〜!」

男性はすぐにスイッチが切り替わったかのように、入り口へ行き、お客さんを案内し始めた。


「なんか、こうやってあんな人がいっぱいの会場でも入りきらないくらいのファンがいるんですね……。」

そう言って大川はしみじみとした顔をした後で残っていたスープを飲み干していた。

「あ、そうだ。みなさん、こちらどうぞ。」

そう小声で店員さんが言って僕たちのテーブルの上に出してくれたのは小さな杏仁豆腐だった。

「え、いいんですか?」

「いいですよ。ペンライトの分の料金と思ってください。」

そう言ってまた男性は厨房へと戻っていく。

「それじゃあ、お言葉に甘えていただきましょうか。」

そう言って大川が杏仁豆腐を一口食べた瞬間に、また一口と連続で食べ始めた。

そんなに美味しいのかと思い、僕も一口食べてみると、確かにこれはすぐにもう一口食べたくなる。

ぱくぱくと食べられる美味しさなのだ。

さっきまでコッテリとした感じの中華料理だったので、お口直しという意味でとてもいい。


「これ、ちゃんと食後に食べるように想定されて作られているわね……。愛ちゃん、覚えてる?昔私がゼリーをこっそり作ってあげたけど、あなたのお父さんにバレて2人で怒られたこと……。」

そう言って小村さんはしみじみと昔のことを思い出しているようで、大川と紗智子さんも覚えがあるのかうんうんと頷いている。

「はぁー、美味しくて一気に食べちゃったわ……。時間もいいところですし、そろそろ解散にしましょうか?」

確かにもう遅い時間だ。そろそろ解散にしておかないと明日からは定期テストが……。

「そうだ!定期テスト明日からだぁ……。」

僕はふと思い出したことに絶望する。

「須井くんなら大丈夫ですよ。ちゃんと毎日復習もしているでしょうし。問題は今回勉強を見れてないあの2人の方ですから。」

「確かにそうだな。あいつら復習しないからなぁ……。」

期末テストが終われば試験休み。束の間の休みである。

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