『彩生世界』の聖女じゃないほう(2)
「それで君は、どんなことを知っているの?」
「ルーセンのことだったら、自称二十六歳で、きのこ料理が嫌いなことから隠しておきたい秘密までかしら」
興味深げに尋ねてきたルーセンにそう言ってやれば、彼が明らかに驚いた顔をする。
そんな彼に、私は「その辺はバラすつもりないから、安心して」と付け加えておいた。
「と、いうわけで皆の自己紹介は要らないわ。私は彩子。どうぞよろしく」
立ち上がり、挨拶をする。
彼らの会話から、どうやら夢の設定の詳細が見えてきた。
私は予言者として喚ばれた。で、彼らの言う『予言』とは、ゲームの攻略法と。
うん。そういう設定なら、しがない一般人にも活躍の場がある。妥協案としては、我ながらいい落としどころだと思う。
「では、アヤコさん。さっきも言いましたが、これは夢ではありません」
腕を組んだナツメが、私を見てくる。身長が一七〇もある私よりさらに、彼は七センチほど高い。
「そうは言っても、異世界に召喚だなんて」
「こう言えば解りますか? 貴女の世界では異世界召喚が不可能でも、俺たちの世界では可能。可能な世界から不可能な世界の人間を喚んだ、それだけのことだと」
「うっ」
何て、解ってしまう説明をしてくれるんだ、この男は。
まあね、さっきから夢のわりには支離滅裂さが無いと思っていたのよ。普段見る夢って、色んな場面の繋ぎ合わせなことが多いから。
となると、元の世界に帰れるタイミングはクリア後? えー……最短でどのくらいの期間だっけ、このゲーム……。
「巻き込んでしまって、本当にごめんなさい……」
美生が申し訳なさそうに、眉尻を下げる。
ここは現実。それなら若い子の手前、年上としてしっかりしたところを見せねばでしょう。
私は「大丈夫、大丈夫」と、美生の肩を軽く叩いた。
「今言ったでしょ、私は貴女よりもこの世界に詳しいの。そう気に病まないで」
そう声を掛ければ、美生が目を丸くして私を見上げる。
「彩子さん、ありがとうございますっ」
そして弾む声でお礼が来て、彼女は笑顔を見せた。
(うわ-、可愛い!)
パァッと花が咲いたような笑顔とはこういうのを指すんだろう。ゲームをやっていた時も思ったが、やはり美生は可愛い。
さて、と。大見を切ったわけだし何とか役立たねば。
私は密かに気合いを入れて、
(おっと、パジャマだわ。私)
早々に気の抜ける自分の恰好に気付き、よれたTシャツの裾を思わずつまむ。
でもアウターもOKなカップ付きタイプだし、ボトムは高校時代のジャージのズボンだし。完全に部屋着専用の服というわけでもないので、アリ?
後は、髪は短いので手櫛で充分……気になるのは裸足なことくらいか。
「ナツメ。近いうちに、靴だけ調達して欲しいんだけど」
「わかりました。邸に戻り次第すぐに手配しま――」
「敵だ」
ナツメの言葉をカサハの声が遮る。
ザシュッ
と同時に、カサハの剣が『敵』の身体を薙いだ。
部屋へ侵入してきたそれが、ここまで降りてきたらしい階段へと追い返される。
(魔獣!)
「グルル……」と声を上げる獣のような形をした黒い霧。それもまた、見覚えがあった。
(『彩生世界』だもの。そりゃあ魔獣もいるわよね)
手負いの魔獣が身を
「追うぞ」
言うが早いかカサハが魔獣を追って走り出す。
「ちょっ、カサハ。……あー、えっと取り敢えず団体行動ということでいい?」
ルーセンが、突然のことに戸惑った様子の美生に声をかける。
「! は、はいっ」
「うん、それじゃあ行くよ」
美生の返事にルーセンが頷く。それから階段へ向かって走り出した彼を、美生が追う。
私も美生の後に続く。
(そうそう、こんなだった)
オープニングは二周目以降はスキップしていたので、この場面を見るのは久しぶりだ。
懐かしいけれど新しい、『彩生世界』が今始まった。
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