第16話

「ん、ふぁぁ…」


私は、皆よりも早めの時間に目が覚めた。

まぁ別に早く目が覚めるのはいいよね。

とりあえず、顔洗ってこよ…


「…んー、スッキリした。

ご飯作らないと!」


顔を洗ってすっきりしたし、皆のご飯作ろっと!

皆何好きなのかな?

とりあえず簡単にハムエッグと白ご飯でいいかな?

もう少しあったほうがいいかな…


「〜〜〜♪」


誰かのために何かするのって、楽しいね。

それが自分の好きな人相手だと、余計にね。

ついつい鼻歌交じりに作っちゃうよね。


「よし、できた!

喜んでくれるといいなぁ。」


机の上に並べていると、皆が起きてきた。

リルちゃんは珍しくわかりやすく眠たそう。

一華さんは寝起きがいいようで、普通にしている。

カスミちゃんは…一華さんに抱き上げられてるね。


「羨ましいー!!

私にちょうだい!」


「ダメですわ!

寝てるご主人様を抱くのはわたくしの特権ですの!」


「ん、そんなことない。」


「あぁっ!?」


そんなふうに私と一華さんで取り合っていると、隣からひょいっと手が伸びてきて、リルちゃんがカスミちゃんを一華さんから奪って抱いた。


それにがーん、とした表情になる一華さん。

一華さんって、リルちゃんと反対で表情豊かだよね。

ここまで性格反対で仲良いなんて、凄いね。


そんなことを考えながらくすくすと笑っていると、カスミちゃんが起きたようで


「んゆ?

ん〜、おはよぉ」


眠そうな声と表情でそんなことを言うカスミちゃん。

かわいすぎる!!

いますぐ抱きしめたいけど、リルちゃんから奪える気しないし、カスミちゃんの迷惑になる…


「おはよ〜!

カスミちゃん、ゆっくり眠れた?」


「お布団気持ちよかった〜」


心底嬉しそうにそんなことを言うものだから、ついついこっちまで嬉しくなるよね!

これは、これからも布団干しておかないとね。


とりあえずはダンジョンに行くから今日はお布団使わないけど。


「ご飯できてるよ。

四人で食べよ?」


「ん、凛、ありがとう。」


「ありがとうですわ!」


「四人でご飯だね〜。

美味しそう、ありがと〜!」


「…んん!

どういたしまして!食べよ!」


「「「照れてる」」」


「うるさいよ!」


皆にからかわれて真っ赤になりながらも私は言い返し、食べ始める。

すると皆は笑いながらだけど謝ってきて、それから食べる。

そしてしばらく食べて、食べ終わってから暫くは休んでおく。


「んー、そろそろダンジョン行こ?

ちなみに今日は中層辺りで休むからね!」


上層だけで15階層あり、中層も30階層はある。

その為どれだけ急いでも中層のどこかで一度休む必要があるのだ。


今回は安全地帯階層セーフティーフロアで休むことに決めた。

ちなみに安全地帯階層セーフティーフロアとは、何故かモンスターが全く湧かない階層のこと。

新たに湧かないだけで、別の階層から連れてくることは出来るので、その階層に入る前にモンスターはきちんと処理しないといけない。


もし魔物を連れてなんて来ようものなら、その階層に居る人に袋叩きにされても文句は言えないのだ。

勿論、イレギュラー等による場合は仕方ないけど、それでも文句は言われる。


ちなみに安全地帯階層は、上層の7階層目、中層の17階層、それから28階層にある。

下層は、中層と同じく30階層あるけど、安全地帯階層は15階層の1層だけだ。

深層からは行ける人が少なく、そもそも渋谷ダンジョンの深層が何階層まであるのかすら分かっていない。

なぜこんな階層があるかは知られていなくて、学者達によって議論がされているが、未だに解き明かされていない。


まぁ、ダンジョンの謎ならまず出てくるのが【モンスター】というものの存在が謎だよね。

それから、どうして宝箱なんてものがあるのか、とかも謎だよ。


そんなことはさておいて、そろそろ行かないとね。

朝じゃないとかなり入口が混むんだよね。

ダンジョンの中は物凄く広いから問題ないんだけど、入口はあまり広くないからね。


「下層に行かないの〜?

今の凛ちゃんだと下層25から30層くらいがちょうどだと思うけど〜?」


う、深層はまだ厳しいのかな。


「深層はね〜、凛ちゃんでも戦えるけど〜、連戦ってなると厳しいと思うよ〜?

最低でも下層30層のボスと同レベルのモンスターが沢山居るからね〜」


「…むぅ、確かに、デュラハンと同レベルが沢山ってなると、私じゃ難しい、か。

うん、なら今回は下層の…安全マージンを取って15層から20層くらいに行こうか。」


余裕を持って戦えるようになったら下層30層くらい目指そうかな。

今の私ならそれなりに深くまで行けるとは思う。

けどそれで死んだら意味が無いしね。


「うん〜、それがいいよ〜」


「よし!いこっか!」


「わたしと一華は?」


「勿論、お留守番なんて言わないよ!

というか、パーティーなんだから一緒に行くものでしょ?」


リルちゃんは何言ってるんだろ?

四人でパーティーなのにね。


「…!

なら、行く。」


いつも通りの表情に見えるけど、私には分かる。

これ、かなり喜んでる!

ふふ、この無表情も、慣れたら表情豊かに見えるね。


「わたくしもついていきますわ!

今回はピクニックみたいですわね?」


笑いながらそんなことを言う一華さん。

ダンジョンがピクニックって…


「ダンジョンは危険な場所なんだよ?

ピクニックではないかなぁ…」


「ですが、わたくしたちだと下層じゃレベル不足ですわよ?」


「あー…」


ついつい納得しちゃって、そんな声をあげる私。

確かに、普段アビスより下なんて場所に住んでるんじゃ、下層程度じゃピクニックと変わらない、か。


下層って、行ける人がかなり減るんだけどな。

それこそ、平凡な人じゃ10年かけても中層20層が限度って言われてるレベルには、ね。


幸い、私はかなり才能があったようで、2年程でここまで成長できたけどね。

どう?ちょっとした自慢だよ。


…誰に言ってるんだろう。

それに、才能があったって言っても、カスミちゃん達には全く勝てるビジョンが見えないし、何事にも上には上がいるものだね。


「と、とりあえず、行こっか。」


変な顔になってたのか、心配そうな顔で見られた為、私は軽く咳払いをしてから気を取り直し言う。

兎にも角にも、行かないと話が始まらないからね。


「了解〜」


「ん、わかった」


「楽しみですわ!」


三者三様の返事を聞いて、ダンジョンに向かう。




「やっぱり、朝は人が少ないね。

それでも人はいるけどね。」


「これで少ないの〜…?」


少ないとは言ったけど、泊まりがけ予定の人とかは、朝から出るためそれなり以上には人がいる。

カスミちゃんは人が多いところが苦手なのか、少し頬をひきつらせてる。


「うん、昼ならこれの数倍は居るからね。

ホント、入るだけで大変だよねぇ。」


それに、私はそれなりに有名だからそこそこ話しかけられるしね。

けど今日は全く話しかけられない。

どうしてだろ?


「むぅ、凛ちゃん、人気〜…

ボクの凛ちゃんなのに〜」


「ん?

嫉妬してるの?」


からかうように言うと、カスミちゃんの頬に、少しだけ朱が差した。

照れてるのかな。かわいい。


「…うるさいよ〜?

嫉妬なんてしてないし〜」


「ふふ、マスターのこんな子供っぽいところ、初めて見た。」


「わたくしもですわ!

なんというか、可愛いですわね…」


「あ!

リルちゃんも分かりやすく笑ってる!」


「…いつも笑ってる。」


いつもは表情の動きが小さすぎて笑ってるって分からないんだよね。

でも、さっきのは声にも出てたし、すっごく可愛く笑ってた!


でもそのまんまリルちゃんに言うと恥ずかしがりそうなので、曖昧にぼかしながら笑う。

照れてるリルちゃんも可愛いけど、嫌われたくは無いからね。


「あ、空いた。

行こっか!」


少しだけ、人の波に隙間ができた。

やっぱ、朝でも入るのはそれなりに苦労するね。


とりあえず皆でダンジョンに入り、上層の道は覚えてるため最短ルートで中層へと向かう。


「んっ、やっぱり、この辺は弱いね。」


そんなことを言いながら私たちに襲いかかってきたコボルトを一太刀で斬り伏せる。

やっぱり、上層じゃ準備運動にもならないかなぁ。


そんなことを思いながら、カスミちゃん達に許可を貰って始めた配信の、コメント欄を見る。


:いや、この辺が弱いと言うよりも凛ちゃんが強いんだよなぁ…

:流石に上層じゃ準備運動にもならんか。

:ひゅー!かっこいい!

:普段可愛いのに戦闘になるとキリッ!としててかっこいい…!

:だから凛ちゃんってば男性人気も女性人気も高いんだよなぁ…

:流石はトップレベルのダンジョン配信者だぜ!

:うぉー、つえぇ!

:まさに鎧袖一触じゃんね!

:こんなに強くても下層以下だと苦戦するから怖いよね。

:てかゲリラ配信だったのにもう50万人も人が居るのマジ?

:多分凛ちゃんだけじゃなくて、画面に写ってる四人全員の顔面偏差値がくそ高いから。


「ん、カスミちゃん達、可愛いって!」


「ん〜?

急だね〜?ありがと〜」


「…少し、嬉しい。」


「ふふ、ありがとですわ!」


軽くコメントと、カスミちゃん達と雑談しながら階段を降りていると、悲鳴が聞こえた。

勿論、ダンジョンに入るってことは、命をかけるということ。

死ぬことは仕方ないことだ。

でも、だからと言って見捨てることは違う。


幸い、私は下層をソロでクリアできるレベルの実力はある。

更に、この場所は上層だ、余裕を持って助けることが出来るだろう。


問題は、間に合うかどうかだけど…


「…耐えてて…!」


できる限りの速度を出しながら悲鳴の方に向かう。

幸い、私がどれだけ速度を出そうが、カスミちゃん達は余裕を持って着いてくるので、私が急ぐだけでいい。


「くっ、どうして、こんなところに…!!

ッ!?しまっ!」


「っ、拓海!」


がきん!


「「…は?(え?)」」


「間に、あった!!」


急ぎに急いで、なんとか間に合った私はほっと安堵の息をつく。

目の前には、しりもちを着いている男の人―多分服装からして普通の剣士かな?―と、女の人―こっちは多分服装からして魔法使いかな―の二人と、私を挟んで対峙している、中層の10層以上の場所に出てくるはずの骸骨戦士スケルトンウォーリアが居た。


私が見た時には、骸骨戦士スケルトンウォーリアが、その骨だけの手に持っている、ロングソードを男の人に振り下ろすところだった。


ホントに、間一髪で間に合い、私がスケルトンウォーリアの剣を弾き飛ばして、ぎりぎり助けることが出来た。

どうやら、悲鳴は女の人が、スケルトンウォーリアに攻撃された時に出したらしい。


それなりに酷い怪我を負っている女の人。

足なんて血まみれで、立つことすら厳しそうだ。

多分、気付かないうちに背後に近寄られていて、スケルトンウォーリアに不意打ちされたんだろう。


「とりあえず、誰か、回復魔法使えない?」


「ん〜、ボクも一華も使えるよ〜」


「なら、その女の人治してあげて。

私はこの骸骨を倒すから。」


「一華よろしく〜」


「はぁ、仕方ないですわね。

そこの女の人、きちんと警戒はするべきですわよ?

【ハイヒール】」


呆れたような視線で女の人に注意する一華さんだけど、心配してるだけなようで、中級回復魔法の【ハイヒール】を使って一瞬で治していた。


「…ごめんなさい、どんどん進めてたから、余裕だと思って油断してたわ…

それと、ありがとう。」


「…あ、あー、でも、中層モンスターが上層に出てくるなんて思わないですものね!

仕方ないと思いますわ!

それに、後衛に察知しろってのも、厳しいですわよね!」


落ち込んでいた女の人に対して、慌てながら慰めている一華さん。

やっぱ、一華さんってかなり不器用だよね。


「た、助けてくれてありがとう!

だが、こいつは中層のモンスターだ、あ、危ないぞ…!!」


:ぷ、こいつ、凛ちゃん知らねぇの?

:まぁまぁ、有名だけど知らない人も居るしね!

:中層モンスターじゃ凛ちゃんを止めるなんて無理なんだよなぁ…

:でも礼はきちんと言ってるし、この男の人も優しいんだな。


「大丈夫だよ?

この程度、すぐ終わるから。」


そういうや否や、私は男の人と女の人、それからスケルトンウォーリアですら認識できない速度で接近し、一太刀で首を斬り飛ばす。


上層メインの探索者からしたらスケルトンウォーリアは物凄く危険だろう。

それに、中層行ったばかりでも危ないだろうね。


でも、私はこれでも下層をソロで探索できる人だ。

スケルトンウォーリア程度に梃子摺るわけが無いよね。


軽く仕留めて、ドロップアイテムの骨と、魔石を拾ってからカスミちゃんたちのもとへ戻る。

唖然としている男の人と女の人が私を見ていて、隣にいるカスミちゃんやリルちゃん、それに一華さんの戦う姿を見せたらどうなるんだろう?

と思ったけど、流石にイタズラがすぎるので辞めておこう。

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