第4話

「私、帰る!」


泣きながらレストランの出口に向かう私を、何事かと見てくる他の席のお客さん達。

こんな私にも一礼して見送るホテルスタッフ。


* * * * *


私は一人で電車に乗って家に帰った。

帰るとすぐに、旅行カバンに着替えや洗面道具を詰め込んだ。

そして、母さんの方のおばあちゃんの家に泣きながら電話した。


「……あ、おばあちゃん? あの……会いに行っていいかな? ……うん。急にごめんね。じゃあ、今から行くから」


* * * * *


おばあちゃんの家についた。


玄関灯が辺りを照らしている。なぜだか、その灯りが温かく見えて、心に沁みた。

チャイムを押した。

インターホンから懐かしいおばあちゃんの声が聞こえる。


おばあちゃんの顔を見た途端、抱きついてしまった。


「……美緒……どうしたの?」


おばあちゃんはびっくりしていた。


私は泣いた。

泣き続けた。


泣いて泣いて泣き続けて、涙が枯れた頃、私はやっと話すことができるようになった。


おばあちゃんは父の再婚のことを当然、知らなかった。


おばあちゃんは父の裏切りを知り、激怒した。

そして、私と一緒に泣いてくれた。


「こんな話、おじいちゃんには聞かせられないね……」


仏壇に置かれたおじいちゃんの遺影を見てつぶやいた。

おじいちゃんは、地元の医師会の会長をしていた。

父が母と結婚したのは、おそらく出世のためだろう。

娘が医師と結婚するということで、おじいちゃんもおばあちゃんも、大喜びだったと聞いていた。

そんな父が、浮気をしていたとは……


私は家には帰りたくなかった。

おばあちゃんが父に電話をしている。


私はおばあちゃんの家に泊めてもらうことにした。


おばあちゃんと父とで、話し合いが行われた。

私は、もう家には帰りたくなかった。

しばらくの間、私はおばあちゃんの家で生活することにした。


学校は私立の中学校に通っていた。

おばあちゃんの家からだと、通うのが大変だ。

それに、父に受けさせられた私立中に通うのは嫌だった。


話し合いを経て、私立中学は退学することにした。

私は、おばあちゃんの家の近くの公立中へと転校した。


* * * * *


小学生の頃は、父のことを尊敬していた。

父みたいなお医者さんになってみようかな。

そう思っていた。


はずなのに……


どうせ弟が生まれるんでしょ?

その弟に医学部にでも行ってもらって病院を継いでもらえば?


私は父とは違う生き方をしたい。

医者じゃなくてもいい。

誠実に生きていきたい。

そう決心した。


こうして私は、父(と綾香さん)との別居を続けた。


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